39:死の追いかけっこ
アタシは逃げていた。
逃げるしかなかった。到底あんな奴ら、相手にできるはずがない。
あの騎士団の正体は、王国への反乱軍。
デリックは一人で対処しようと頑張ったけれど、ダメだった。二十人ほどは斬れたものの、次々と襲い来るそいつらの数の多さと言ったら。圧倒的に不利だった。
だからアタシとデリックは逃げていた。
誰もいない――否、誰一人として生きていない城下町を駆け抜け、王都へ。
そこにならまだ誰かいるかも知れない。助けてくれるかも知れない。
そんな甘い希望は、しかしあるわけがなかったのだ。
王都の建物という建物が破壊されていた。
王都は、王城を取り囲む城下町のさらに外に位置している。
商業が盛んで、ドーラン家もよくここから来た商人と応対していたのを思い出す。けれどその商人たちは八つ裂きにされて見る影もなく、そして養父は王城で潰れて死んでいる。
「ひっ」
何があったわけではない。
でも急に恐ろしくなり、アタシは悲鳴を漏らした。
怖い。
どうして幸せの日に、こんなことにならなければならないのか。
と、唇を噛み締めていたその時だった。
「あはっ、ひはははは。見つけたぞメア。ひぃひひひひっ」
「笑いすぎて死んじゃいますぜ、マレ様」
女の掠れた笑いと、何やら聞き覚えのない声がした。
前者は誰だかわかる。振り返れば――。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
魔女が、アタシへ何か白い光を放っていた。
それが何だかわからないけど、とにかくアタシの命を奪う何かだというものがわかって、アタシは絶叫する。
殺される殺される殺される殺される――。
「メア! メアっ!」
デリックが呼んでいる。
アタシの体がそっと抱き止められた。夢のお姫様抱っこだ。でもそんなことを喜んでいる暇はない。ただひたすらに走って逃げた。
しかし魔女がアタシたちを諦めるはずがなく、どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも追ってくる。
廃墟の中に逃げ込み、裏道を通り、家の屋根を飛び越して進むデリック。しかしどこからともなく魔女の高笑いが響き続けている。
……死の追いかけっこは果てしなく続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「デリック様、このまま死んじゃうのっ!? 嫌、嫌、アタシやだよっ」
アタシは、クソ上品な話し方など忘れてデリックに泣きついていた。
何もかもが足元から崩れ落ちていくような気がして、幸せ――愛しの彼を手放してしまうかも知れないのが怖かったのだ。
しかし、デリックが呟いた言葉は、アタシへの慰めではなかった。
「……レット」
大丈夫だ、だとか心配ない、だとか。
そんな言葉で安心させてほしかったアタシは、思わず「はぁ?」と声を漏らした。
「レット」とはどういう意味なのか。
それを問い詰めようとして、だがその機会は永遠に失われてしまう。
――衝撃が、来た。
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