38:死体の山を前にして
これから三話、メア視点になります。
アタシたちの幸せの場所が、一瞬で瓦礫の山になった。
それを成したのは、黒いローブを着た女。
短い紫の髪に金の瞳。狂気に歪んだ笑いが背筋をゾクゾクさせる。
彼女はアタシの名を呼んで、高笑いを続ける。
ただその姿が恐ろしくてアタシは身をすくませた。なんだ、こいつは。ただただ怖い。怖くて怖くてたまらない。
「め、メア!」
デリックがアタシの腕を掴み、走り出す。アタシは引きずられるようにしてついていった。
ああ、やはり頼りになるな、アタシのデリックは。
でもどうしよう。魔女だ。あの女は魔女だった。
お父様から聞いたことがある。悪魔という存在の話を。そしてそれを従えた女は、魔女になるのだと――。
魔女は全てを呑み込む。終わりに変える恐ろしい存在。
アタシの幸せをぶち壊しに来たんだ。きっとそうに違いない。あいつはアタシたちの幸せを邪魔しようとしている。
「させる、か……!」
何年も何年も努力して、そしてようやっと手に入れられた幸せ。
それを、顔も知らない相手になど奪われてたまるか。絶対に守り抜く。アタシが、デリックを。
デリックに連れられて王城を飛び出した途端、城がめちゃくちゃになって潰れた。
きっと中にいた人たちは全員死んだろう。あの中にはアタシの養父母がいた。……でも、涙は出ない。
別に彼らにはこれと言って思い入れはなかった。アタシを拾ってくれてデリックと会う機会を作ってくれた、それだけは感謝していたけれど。
「とにかく、今は逃げるしかな……」
そしてアタシは、信じられないものを目にしてしまった。
そこは城下町だった。何度も見たことのあるその人通りの多い街、しかし今は様子が全然違っていた。
目を抉られて殺された死体があった。
四肢をもがれた死体。首から上のない死体。首から下のない死体。
「は……?」
死体だった。それは死体の山だった。
もはや悲鳴を上げることすらない死体が、辺りを赤く染め上げている。ただただ死体だけだった。
この状況が理解できず、アタシは一瞬頭が空っぽになる。これは夢? 悪い夢……なの?
だっておかしい。アタシはデリックと結ばれ、幸せになるはずだった。
王妃になって色々したいこともいっぱいいっぱい。世界で一番満たされている幸せ者、それがアタシ。
なのにどうして目の前に死体があるの? 死体しかないの? あの賑やかな街は、どこへ行ったの?
呆然とするアタシに、デリックは言った。「何者か、来る……!」
彼は腰から剣を下げていた。結婚式用の剣で、聖剣とかいう物凄い代物らしい。
それを鞘から引き抜くと、天高くに掲げる。その瞬間、アタシたちの目の前に『何か』が現れた。
それは鎧兜を纏った集団だった。二十人、いや三十人。それは紛れもなく騎士だった。
けれどただの騎士じゃない。だって、街の人々を血に沈めたのは他でもない彼らなのだから。
「やぁぁぁぁぁぁっ!」
「デリック様――!!」
アタシの制止の声は彼には届かない。
デリックは剣を振るい、騎士たちとの戦いを始めたのだった。
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