37:魔女の高笑い
光が迸って天井が打ち砕き、城の中が顕になる。
そこには、たくさんの人々がいた。着飾った彼らは、私があえて残しておいた金持ち連中だ。
そしてその中央に彼女はいた。
白いドレスを纏った白髪の少女だった。
記憶にある姿よりもますます可憐になったその少女は、私は見覚えがあった。いや、彼女のことを忘れた時など片時もない。
メア・ドーラン。私の幸せを奪い不幸の沼に沈め、絶望の苦い味を何度も味わうことになった原因。
私のとっての最大の敵が、そこにいた。
彼女は今、どんな気持ちだろう?
怖がっている? 怒っている? 悲しんでいる? はたまた楽しんでいる?
――否、困惑していた。こちらを見上げてただ幼子のように驚きに目を開いているのだ。
ああ、滑稽滑稽。あなたのそんな顔を見られるとは思っていなかった。
「ははっ、はははははっ! あひゃ、はは、ふはっ。ああ、ああはは、ははぁぁあはははは! そこまでだ、メア・ドーラン。あはぁ、はははは!」
愉快すぎて笑い声が抑え切れない。
それは私が今までに上げたどの笑いよりも歪んでいただろう。魔女の高笑い、まさしくそれだったのだから。
「ひぃ、ひぃふぅ。はははっ、はは、あははっ! どうだ、負け犬になった気分は。負け犬になったことすらまだ気づいていないのか?」
少女は答えない。しかし私はそんなことはどうでも良かった。
私は今、メアの上に立っている。メアの上に立っているのだ……!
狂笑が止まらなかった。これぞ優越感。これぞ幸せなのかも知れない。
「め、メア!」
少年の声が響き、メアの手を引いて駆け出す。
それは一瞬ジェイクかと思ったが、彼ではなかった。そうか。そうだよな。メアがいるということは、彼がいて当然だ。
デリックとの、八年越しになる再会だった。
八年。八年か。
長かった。とてつもなく長かった。そんな時を経てもなお、彼の顔を見ると安堵してしまう自分がいることに気づく。
それがとても腹立たしかった。
「……逃げられてしまうな。確実に仕留めなくては」
もちろんいくら逃げたところで無駄である。
私の力に彼らは到底及ばない。すでに城は半壊し、後少しで崩れ落ちるだろう。
「ウィンド・カッター」
風の刃が飛び、城の中で蠢く人々が絶叫した。
数人がパタリパタリと倒れた。その首から上は無くなっている。
この感触はなんとも心地がいい。そのまま、結婚式場にいた招待客の首を全員吹き飛ばしてやった。
「幸せな結婚式、それが血に染まっていく。マレ様の計画は素晴らしいですねぇ。僕、感心しちゃいましたよ〜」
悪魔が嬉しそうに嗤う。悪魔はやはり悪魔だった。
私は城に鉄砲水を降らせて全壊させると、目を凝らして見下ろす。
これで……あの二人は死んだだろうか?
いいや死んでいなかった。
彼らが城下町の方へ逃げていく姿を私は捉える。この騒動の中、命からがらで逃げ出したらしい。
――逃げても無駄だとわかっているだろうに。
また、込み上げてくる笑い。
「ははっ、あははは、あはぁぁあはっ! 存分に逃げ惑い、そして救いなどないと知るがいい!」
肩を揺すって笑いながら、私は再び空を飛び、二人――デリックとメアを追い始めたのである。
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