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36:惨劇の王都

 あれだけ賑やかだった王都は、阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていた。


 悲鳴を上げて逃げ惑う女たち。

 あちらこちらですっ転び、罪人たちの餌食となる子供。

 そして、武器を手に戦うものの『闇の騎士』に敗れる男衆。


 『闇の騎士』はどこまでも有能だった。

 第二王子ジェイクが、将来自分に仕えると約束した騎士だけを集め、鍛え上げたその集団。剣の腕は高く、獲物を狩るということにおいても優秀だった。

 相手が誰であろうと殺すのを躊躇しない。そして、騎士道などというものは完全に無視し、背後からでも、女子供も構わずに切り捨てる。

 無情といえば無情ではあるが、それが一番効率がいいのも確かだ。一度は悪魔の力なしで城を堕としたこともあるくらいだし、なかなかの実力には違いない。


 私はその様子を、空中に浮かんで見ていた。

 その血の惨状はすっかり見慣れてしまったものだったけれど、しかし味わいが違う。この国で一番人口が多く、そして栄えた街だったのだから当然だ。

 あちらでは子供を庇って母親が殺された。そしてその後に子供も殺された。なんて愚かなんだろう、母親だけでも逃げればいいものを。


「罪人どももいい調子で殺しているな。なかなかに手酷い」


 『闇の騎士』に混じって殺戮を繰り広げる罪人たちは苛烈だ。

 男なら殴り殺し、子供なら痛ぶり、女ならば犯して殺す。少し激しすぎるのではと思ったが、まあ許容範囲だ。


 しかし見るだけでは飽きた。

 そろそろ王都の騒動が知られる頃だろう。城下町まで侵攻が進めば、間違いなく城も騒動になる。


 ――その前に動かなくては、美味しい時を逃してしまうだろう。


 私はそう思い、王都の上空からそっと飛び去った。

 風魔法を巧みに扱いながら向かうのは、遠くに聳える王城。あそこに今日、結婚式を挙げている二人がいるはずだった。


 あなたたちはまだ知らないだろう。自分たちが幸せになることを信じて疑っていないだろう。

 けれど幸せなんてものはこの世にはどこにもない。全てが崩れ落ちて終わるだけだ。


「愚かだ」


「えぇ、人間は愚かですよねぇ。いつか死ぬとわかってながら今日死にたくないって叫んで泣いて。いさぎよく死んだらまだ許せるんですけども」


 ……そういう話じゃない。

 ツッコミを入れようとし、面倒臭いのでやめる。悪魔とはどうも感性が合わない気がする。


 人間は皆、死ぬのが怖いのだ。

 私だってそうだった。だから百度の人生の中、一度たりとも死ねなかったのだ。もっとも、私には二度と死は与えられないのであるが。


 そうこう考えているうちに、いつの間にか王城を見下ろしていた。

 白い外壁に赤い旗が掲げられている。上から見るとこんな風に見えるのだな、などと思いながら、少しだけ懐かしくなった。


 けれどもすぐにその感慨も消える。

 そして私は、王城の天井へ向かって眩い光線を放った。



 ――直後、王城が崩壊していた。

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