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35:脱獄する罪人たち

 その時、一人の死刑囚の命が散ろうとしていた。

 まだ若い彼は、元々とある田舎に住んでいた。しかしそこで家族を皆殺しにしたために村の者たちによって拘束され、王都のここ――重刑罪人専用牢獄に囚われることになったのだ。


 彼は気が触れているわけではない。まともだ。「死にたくない死にたくない」と泣き叫び、手足をばたつかせてもがいている。

 しかしそんなことをしたところで、彼の運命は変わらない……はずだった。


「死刑、執行っ……!?」


 青年の首を切ろうとした処刑人。しかし逆に、その処刑人の首がごとりと落ちたのである。

 どうしてこんなおかしなことが起きたのか――それは、死刑執行場に現れたとある人物のせいだった。


「人の首を切るのは、こんなにも感触のいいものなのだな」


 そんなことを呟いたのは、他ならぬ私。

 私こと魔女マレが、この死刑執行場に乱入し、死刑執行人を殺したのだ。


 その様を見ていた死刑囚の青年が息を呑む。

 私はそっと彼の元へ向かった。彼は体を杭のような物にロープで縛り付けられていた。


「可哀想に。今放してやろう」


 処刑人の首を切った時と同じように、風魔法で生み出した見えざる刀でロープを切り裂く。

 彼は自由になった。


「…………」


「恐怖で感謝も言えないか。だが仕方ない、急に私のような者が現れれば、誰でも驚愕するのは当然だからな」


 静かに笑い、私は青年の腕を掴んだ。

 彼はこの計画の大事なコマの一つ。戦場での使い捨てにはもってこいだ。


「行くぞ。他の死刑囚たちも全員連れ出す」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私は、牢獄の看守たちを次々と殺していった。

 所詮相手は少しばかり腕に自信のある平民だ。騎士ですらない彼らに、あらゆる魔法を手に入れた魔女の私が負けるはずがなかった。


 血飛沫。血、血、血、血、血……。赤く染まる視界を眺めながら、私は舌なめずりをする。

 気づけば看守は皆死んでいて、死刑囚たちが私の後をゾロゾロとついて来ていた。


「脱獄するというのに全く歓喜の色が見えないな。……無理はないか」


 目の前で繰り広げられる惨劇に喜びの声を上げる者も少数はいたが、大抵は顔を覆い俯く。

 彼らだって人殺しだろうと私は思ったが、全員が全員好きで殺しを行ったわけではないだろう。猟奇的な殺人犯のみが私の行動を称賛していた。あまりいい気持ちではないが。


 私が脱獄させることのできた死刑囚たちは、五十人程度。

 これで充分な戦力にはなるだろう。


 私を見て、恐れ、震える罪人たち。その中には先ほどの青年もきちんと含まれている。

 ……ああ、いい気味だ。私はそう思った。


「罪人どもよ。もはやあなたたちは囚われる必要はない。あなたたちを恨み、このような地に放り込んだ者たちへ復讐を果たせ。今こそ、復讐の時だ!」


 私がそう言うと、今まで震えていた者の何人かが顔色を変える。

 すっかりやる気になったようだ。この変わり身の速さはなんとも面白い。


 しかしそれでも地面にうずくまっている者には、闇魔法で軽い精神操作を行った。憎悪の感情を膨らませ、それを殺意に変えていく。


 最後には皆が皆、私の人形になっていた。


 暴徒と化した彼らは、王都の方へ攻め込んでいく。

 恐らくは王国の騎士などにやられるだろうが……あれだけいれば平民千人ほどは殺せるのではないだろうか?


「早くその様を見に行こうか」


 肩の上の黒い鳥――悪魔に囁くと、悪魔はニヤニヤと笑っていた。

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