33:第二王子との交渉
「――ジェイスだ」
そう名乗ったのは赤髪に緑瞳の少年。
私は彼を見て、ふと、思い出す。しかしそれにはあえて触れないようにした。
第二王子ジェイスと出会ったのは、離宮と呼ばれる第二王子の住まいである。
今ちょうど、彼はここで休暇を過ごしているところだったそうだ。
「公務の間の僅かな休みだったというのに……それをわざわざ邪魔したんだ、よほど大事なことなんだよね?」
「それはもちろん。まずその前に、人払いを頼む。万一聞かれては困るのでな」
「わかってるよ。おい、外に出ろ」
室内に待機していた護衛、使用人などが一気に外へ出ていく。
さすが第二王子。一声だけで皆を従えられるようだ。
「……ではマレとやら、早速話してもらおうじゃないか」
「ああ。――あなたはクーデターを起こすつもりだろう。是非とも私も、それに力を貸したいと思っている」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クーデターへの協力……に見せかけ、実のところは逆にこちらに協力させるのである。
しかし愚かな王子はその事実に気づくことはもちろんない。「どうしてそれを知っているんだ?」と、キョトンとした顔で問いかけて来た。
「私が魔女だからだ。これ以上に説明は不要だろう?」
「魔女。それはなんとも恐ろしい肩書きだね」
「私が力を貸せば、あなたの計画は間違いなく成功することだろう」
第二王子はなんとも単純な人間だった。
私がそういえば、すぐに信じ込んでしまうのだから。
――容易いのはあなたの方だ。
かつて、容易いと言ったのは確かこの王子だったはず。
しかし今は立場が逆。最後に踏み付けにされるのは今度は彼の方だということを、彼は知らない。
「……そうすれば王になれると、確約するわけだね? なら、こうしよう。こちらは君の力を借りる。その代わり、君は自由にすればいい。どれだけの殺戮を犯しても構わない。むしろ、派手にやってくれる方が助かる」
おっと、殺戮許可までもらってしまった。
なら存分に殺していいんだな。もちろんのこと、あなたも。
なんて愚かなんだろう。こんな奴、一捻りだ。
だがしばらくは野放しにしよう。面白いことになりそうだ。
悪魔が私の肩の上で、「ククク」と小さな笑い声を漏らしている。
確かに愉快だ。しかし、私は真剣な顔で言った。
「感謝する。全力を尽くし、ジェイス様を支えると誓おう」
「ははっ。せいぜい働いてくれよ、魔女」
私たちは握手を交わす。
ジェイス王子の手はひどく冷たく、まるで死人のようだ。きっと彼にも友好的な気持ちはないのだろうな、と私は思った。
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