32:魔女と悪魔の悪巧み
「大いなる破滅へ向かわせるため、何か燃料がほしい。このまま突撃するのも有効ではあるが、いまいち破壊力が足りないのではないかと私は思っている」
水没した村を前にして、私は悪魔にそう話しかけた。
この村にはたくさんの資源があったが、それも私の手によって水の中だ。しかし、いまいち達成感が薄れて来ている。
どうせなら、もっと派手にやってしまいたい。私の胸にそんな欲望が生まれて来たのだ。
悪魔はくるくると私の頭上を飛び回り、「う〜ん」と唸る。
その声はどこか嬉々としていた。
「そうですねぇ。じゃあじゃあ、例えば、罪人を一気に解放するとかはどうでしょう。そしてめちゃくちゃに殺しまくらせるんです」
「それもいいな。愚かしい人間どもを解き放つ、そうすれば彼らは歓喜しながら死ぬだろう」
平和だったとはいえ、当然この国にだって罪人はいる。
その中でも凶悪な――つまり殺人犯を集め、暴動を起こさせればいいだろう。きっと楽しいことになるはずだ。
私はニヤリと笑った。
「けれどもう一押しほしいところだな。……そうだ、妙案を思いついた」
「妙案ですか。いやぁ、なんだか楽しそうな匂いがぷんぷんしますねぇ」
恐らく悪魔とも気が合うだろう。実際、使い魔にしていたことも多々あるのだ。
その時は相当に困らされたな、と、まるで他人事のように思う。
「彼――第二王子ジェイスを仲間に加える。彼はずっとクーデターを起こす計画を持っている。私たちが力を貸せば、尻尾を振りながら食いついてくるだろう。当然王族なので多少の手間はあるだろうが、そこら辺はどうにかしよう」
「ほほぅ。でも相手がもし反論して来たらどうです? 『魔女とは協力したくない』とかって人間いますし、僕のような小悪魔は嫌われることが多いですし」
小悪魔じゃないだろ、という言葉はグッと呑み込んで。
「多分それはない。が、万一そういう事態があれば、制圧し、殺害するまでだ。相手は人間一人、殺すのは容易いだろう」
「それもそうですねぇ。ハハ、ハハハハッ! 愉快愉快。マレ様は悪巧みにおいて天才ですなぁ」
「悪巧みだけのように言うな。これでも、王妃になったことだって」
あるんだ、と続けようとし、しかしやめる。
王妃になったことはあった。たったの数分でその夢は絶えたけれども。
他ならぬ悪魔によって――。
「……くだらない。そうと決まれば早く行くぞ」
私は雑念を頭から追いやって、そう言った。
胸の中のわだかまりがまだ取れない。己の心の弱さが憎たらしく、唇を噛み締めるのだった。
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