間話6:再会のデリック様
お父様にお願いして、婚約者候補を潰してもらうことは容易かった。
そうして順調に物事は進み、アタシは十三歳を迎える。
――人生二度目のパーティー。気合を入れなくては。
白い髪を美しく結い上げ、灰色のドレスを纏う。
これで立派なお嬢様の完成だった。
「メア。淑女らしく、やってくるんだよ」
「もちろんですぅ、お父様ぁ」
この甘ったれた声ももちろん計算したもの。
これなら大抵の男はものにできる。そう、教育係は言っていた。
「アタシの美貌と魅力だけで、デリック様を釘付けにしてやるんだから!」
アタシは、アタシの人生を大きく変えるための運命の場所、社交パーティーへと臨んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まずは、パーティーの食事が振る舞われることになっていた。
食べてから踊るのは苦しくない? と思ったが、そういうルールらしいので仕方ない。
そうして食堂に入ったアタシは、目を見開いた。
燃える赤毛に穏やかな緑の瞳。
数年前より随分と立派な面持ちになった彼は、間違いなく、「デリック様……!」
どれほど、彼との再会を願ったろう。
あの初めての出会いからアタシは彼ともう一度会うために、どんな苦難にも耐えて来た。そしてそれがようやく報われる。
食事になど集中できるはずがなかった。
胸が高鳴り、動悸が激しい。ああこれが恋なんだ、とアタシは思った。
高揚する頬。いけない、こんなにドキドキしていたら周囲に気づかれてしまう。そうなったら最悪、体調が悪いとしてパーティーから追い出されるかも。
落ち着け、落ち着くんだアタシ……!
食事が終わるとアタシはダンスホールへ駆け込む。
先に彼を他の女に渡すものか。アタシだけのデリック様なんだから!
そうして待っていると、すぐに彼が入って来た。
横に他の人間を抱いていたりはしない。デリック一人だった。
問題はどうやってデリックとコンタクトを取るかということ。
考えて、アタシは閃いた。
「あ、あの〜」
自然に見えるように、たまたまというように。
今にも倒れてしまいそうなのをグッと堪えて、アタシは声をかけた。
「ちょっとだけぇ、いいですかぁ?」
「……誰だ、君は?」
「あぁ、ごめんなさぁい。アタシ、メア・ドーランっていいますぅ」
やばいやばい心臓がやばい。爆発する。
アタシは今、デリック様と喋っているんだ。喋れているんだ!
「ダンスパーティーはこれで二回目なんですけどぉ、前回は随分と小さかったものでぇ……」
愛くるしい小動物を演じ、アタシが「一緒に踊っていただけませんかぁ?」と懇願する。
すると、デリックは。
「…………。いいぞ」
躊躇いがちではあったものの頷いてくれた。
アタシは、耐え切れなくなって心からの歓喜の叫びを上げる。「ありがとうございまぁぁぁす!!!」
周囲の視線が集まるが構うものか。ああ、嬉しい。嬉しすぎる。
それからアタシとデリック様は二人で、最後の曲までずっとダンスを踊り続けた。
あれはアタシの人生で最高の、夢のような時間だった。
別れ際、アタシはそっと彼に微笑んで。
「また、踊ってくれますかぁ?」
「機会があったらな」
最後は少しだけ冷たかったけれど、そこもまた魅力的だったのでよしとする。
とにかくきっかけと、楽しい時間は得られた。
次は彼の心を鷲掴みにする。アタシは心の中でそう誓っていた。
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