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02:初めての時間遡行

 初めての時間遡行に関しては、思い出したくもない。


 私は外出の時、うっかり時魔法を使ってしまった。

 周りの時間を全て停止させ、護衛の者から逃げられないかと考えたのが悪かった。ちょうどその日の前日に嫌なことがあり、逃げ出したい気分だったのだ。


 しかし魔力が尽きて倒れてしまった私。そこを捕らえられ、屋敷に逆戻りとなった。

 父親も継母も、それはそれはご立腹だった。「悪魔の子」と罵られ、次々に拳が飛んでくる。


「ああっ。う、あぁぁ」


 当時九歳の私は絶叫を上げた。しかし父親は殴ることをやめなかった。

 頬に、胸に、腹に、足に、蹴りが入れられる。


 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 やめて。逃げたい。助けて。死にたくない。痛い。助けて、助けて、助けて、助けて……。


「りー、ぷ」


 私はわけのわからない言葉を呟いていた。

 そしてその瞬間――世界の景色が変わる。


 鬼のような両親はいず、代わりにあったのは賑やかしい街の光景。

 首を傾げ、言った。


「ここ……どこ?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そこは、私が時間を停止させたのと同じ場所だった。

 どうしてここに飛んできたの? そう思い視線を巡らせるとすぐ傍に護衛がいた。


「ねえねえ、なんで私、ここにいるの?」


 そう訊くと、護衛は不思議なことでも言われたかのように目を見開いた。

 そして逆に意味不明なことを言って来たのである。


「あの……。マレガレット様、どうかなさいましたか? 今はお買い物中ですよ」


 ――は?

 こいつは何を言っているのだろうか? 私は理解を超えた言葉に混乱した。


「私、買い物なんてして……ぁ」


 そして、気づく。

 自分の服が殴られて破けていず、綺麗なままであることに。


 見れば、街の様子は、あの時とそっくりだった。

 同じ人がいた。同じ人が同じ道を通って同じ会話をしている。


 私はわけがわからなさすぎて、今にも倒れてしまいそうなのをなんとか堪えた。


 でも一つだけわかることがある。

 それは、全身の痛みが消えてまるで何もなかったかのようになっているということだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 タイムリープ。

 この現象は、恐らくそれだろうと私は思った。


 あったことが、全てなかったことになっている。

 私が街で逃げ出したこと、時間を停止させたこと、そして殴られ蹴られたこと。


「頭でもイカれたのか?」


 これが心無い父親の答えだった。


 でも私だけはこれが嘘じゃないと知っている。

 私は時魔法を使って、街にいた時間に戻してしまった。だから助かったのだ。


 けれど殴られた恐怖や蹴られた悲しみは忘れられず、私は父親の前からすごすごと離れた。


 時間遡行を味わい、そして抱いた感想は一つ。

 恐ろしい。ただそれだけだった。


 あったはずなのにそれがなくなっている。それがどれだけ悍ましいのか。

 まだ九歳だった私の心をへし折るにはそれだけで充分だった。


 何日か寝込み、私は部屋に篭るようになったのである。

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