28:魔女になる決意
目を固く閉じてまた開き、私は覚悟を決める。
私に残されたのは、この身だけ。私から何もかもを奪った無情なこの世界を破滅させるのだ。絶対に――。
「準備は整いましたね? じゃ、行きますよ。――我、悪魔。汝の名を叫び、我の問いに答えよ」
呪文のような言葉を発する時だけ、悪魔の声が凍る。
それにヒヤリと背筋を冷たくしながら、しかし私はまっすぐ前を見た。
「私はマレ! 過去を捨て、世界を滅ぼす女だ!」
「では問おう。そなたは魔女になり、我を使い魔とし、その身を我に委ねるか?」
「もちろんだ。私は魔女になる。己の愚かさと縁を切り、凄まじい魔女として生まれ変わってみせる」
私の胸に、何かどす黒いものが広がる。
ああ、これが『魔女のカケラ』なんだな。メアから一度だけ聞いたことがある。魔女になる時、悪魔の一部である『魔女のカケラ』がその胸に宿るのだと。
それが全身を巡り、ゆっくりと浸透していき――。
私は、魔女として覚醒した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何があっても、誰に阻まれようとも、例え己の心が砕け散ったとしても。
私は魔女として世界に名を馳せる。そしてその世界を呑み込み、やがて葬り去る。
決意を固めると同時に、体の奥底から負の力が湧き出してくるのがわかった。
これに支配されていたとしたらメアがあんな愚かなことをするのも頷けたし、第二王子の腹黒さにはちょうどよかっただろうと思った。ああ、全てを手に入れたい。昏い欲望が抑え切れなくなる。
すでに狂っていた私の最後のネジが外れた。
これで私は自由だ。自由になった。
まずは復讐だ。
幼い頃、私をあれだけ苦しめた父親、そして継母。
あの二人はなんとしても懲らしめなければならない。火炙りにしてから水に沈め、暴風で四肢を引きちぎるのなどどうだろうか。
いい。いい。とてもいい。
私を蔑んだ者、見下した者、陥れた者、裏切った者、見て見ぬ振りをした者……。
誰もに裁きを下そう。悲鳴を上げ泣いて謝っても許してやるものか。その魂が砕け散るまで私は決して許すことはない。
笑えてくる。ようやく、私は彼らに仕返しすることができる。心を折られて偽りの救いを与えられ、またバキバキにされる。
そんな苦痛の日々のお返しは小さくはない。覚悟しろ、と心の中で叫んだ。
「いやぁ、実に楽しいですねぇ。マレ様はどうやらいい魔女になりそうです」
「この世界の人々を、草木を、生を持つあらゆる者を根絶やしにする。それでこそ魔女というものだろう? 私がそれらに分け与えてやる慈悲など一つもない」
「それでこそ、ですよ。さぁさぁこの谷から出ましょうか! そして存分に世界を闇で包んじゃってください!」
私と悪魔は、峡谷を出た。
風魔法を使えば出ることは容易かった。ああ、魔法を使えるのは最高だな。
とても気持ちがいい。
このまま近隣の村をいくつか潰そう。悲鳴を聞くのが今から楽しみだ。
私は魔女の高笑いを上げながら、悪魔――黒い小鳥を肩に乗せ、歩き出したのであった。
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