27:不老不死の魔法
「ハハッ、ハ、ハ、ハァ。ハハハハハハハハハハ!」
私の時魔法が失われたその時。
悪魔は、狂気的な笑い声を上げた。
「これが! これが時魔法の力! 漲る溢れる湧いてくる――!!!」
「あなたは私の時魔法を奪い、我が物にしたと……そういうわけか?」
「奪うというのは人聞きが悪いですねぇ。契約の代償ですから、いただくのが当然でしょう? いやぁこの力は実に! 実に素晴らしい!」
そんなに素晴らしいものだと私は思わない。けれど、悪魔にならその力を役立てることができるのかも知れなかった。
私は力がありながら、無能だったから。
でもこれからは違う。
私の中に、先ほど弾けたものと代わるようにして何かが入り込んで来る。それが魔法そのものであると私は直感した。
私はたった今、最強の武器をこの身に宿した。
時魔法ごとき失ったってどうってことはない。私は試しに掌の上で火を起こしてみた。暗闇の中、うっすらと赤い炎が灯る。
呪文は誰に教えられるでもなくわかっていた。これは時魔法も同じだったけれど。
「おおすごい! お嬢さん――マレ様は素質がありますねぇ」
「当然だ。そして儀式の続きをしよう」
「はいはいわかってますってば。と、その前に」
悪魔はニヤリと笑った。
「いい案、閃いちゃいました。……不老不死などいかがですか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
不老不死。
悪魔が説明してくれたところによると、どんな攻撃を受けても病に侵されようとも決して死ぬことがなく、と同時に老いることがない。
つまり簡単に言ってしまえば無敵の力だった。
「マレ様が魔女になる以上、狙われる機会も多いことでしょう。先立たれては僕も困りますし、そういうことをなくすためにもちょっくらやってみません?」
「待て。考えさせてくれ。不老不死? それでは私は」
死ねなくなってしまう。
全てが終わった世界でも、ただ一人きりになってしまうではないか。
でも。
でも時魔法を失った今、やり直すことはできない。どうやら私の力を受け継いだ悪魔はそれができるらしいが、他人の能力に頼るほど私は愚かではない。
だから――。
「わかった。不老不死の魔法とやらを、私にかけてくれ」
「了解しましたぁ。もう本当、決断が早いですねぇ」
黒い霧の向こうで、悪魔が何かを呟く。
すると私は真っ白な光に包まれて、ぽわんとなった。
「は……?」
今まで我慢していた黒い霧の痛みが消えている。
悪魔と話している間というもの、耐えてはいたものの谷底から湧き出す黒い霧は私を差し続けていた。しかしそれが急に跡形もなくどこかへ行ってしまったのだ。
しかし霧が失われたわけではなく、まだ視界は黒く染まっていた。
「霧の効果が薄れたんじゃなくて、マレ様が痛みを感じなくなったのです」
「痛みを感じなく……?」
「そう! 不老不死になる、それはつまり死の危険から解放されるわけですから、死への警告である痛覚は消え去るってわけです! だってもう、恐れるものはないんですからね」
そんなものなのだろうか。
いまいち実感が持てないが、私は本当に死ねなくなってしまったようだ。
メアですら魔女になった時でも死んでいたのを何度か見かけている。つまりこれは、私だけの力。
「――不老不死。なかなかいいじゃないか。これで思う存分世界を壊すことができる」
私は笑った。
その笑顔がこわばっていることには自分では気づかないままに。
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