26:契約と代償
「いいですねぇ! 魔女。魔女になりたいんですかぁ。つまり僕と契約を結びたいということですね?」
「ああ」
「それはそれはそれはそれはそれはっ! いやぁ。これは面白いじゃないですかっ!」
悪魔はハイテンションでそう笑う。笑い声がキンキンと響き不快だ。
私は顔を歪め、しかしそれは口に出さなかった。話を続ける。
「契約というのの詳細について、教えてほしい」
「契約ってのは言うなれば約束。人間と悪魔が結べば、人間の方は悪魔の恩恵を受けて魔女か魔人になります。悪魔側にあまり利点はないですが、気に入った人間の傍にいて尚且つ悪事を働けるわけですから、楽しいでしょう?」
私は悪魔の無駄話を聞き流す。
「つれないなぁ。……契約を結ぶのは簡単。僕の問いに答えればいいだけです。ただし、契約には代償が必要なんです」
「代償?」首を傾げる私。どこかで聞いた話では、悪魔に魂を捧げた者もいたとか。
ならば私もそうするのだろうか。
「いいだろう、魂くらいくれてやる」
「いえいえいえいえ、何か勘違いされてませんか? 代償ってのは魂に限った話じゃありませんよ。その人の一番大事なもの、それが悪魔と契約する際の条件です」
大事なもの、と言われて私は困惑する。
私にとって重要なもの――それは何だろう?
ふと、一人の少年の顔が浮かぶ。いや彼は私が見捨てたのだから、私の大事なものは彼ではない。そのはずだ。
ならば今の私にとって、大事なものとは――?
「ふむ。わかっていないようですねぇ。さっきも言ったじゃありませんか、時魔法ですよ」
「……え」
「あなたのその時魔法は、世界でもほんの数人しか持ち合わせていないもの。それにあなたは魔力量が半端ではないんです。だから、僕はその時魔法を代償にします」
時魔法を、代償に。
私が生き抜くためのたった一つの武器であった時魔法。
このおかげで何度も世界をやり直し、どんな困難な場面でも切り抜けてこれた。唯一、この悪魔だけには勝てなかったけれど……。
「大丈夫です! 心配ご無用。魔女になれば適性のなかった魔法が使えるようになるんです! 四大属性、そして光と闇。特殊な氷と聖魔法はちょっと僕の力でも無理ですけど、六つの属性が増え、しかも何でも使えるんですよ? こんなにお得な話はそうそうないと思いますがねぇ」
捨てるのは時魔法だけで、他のあらゆる力が手に入る。
私は元々、ちっとも強くなかった。強い魔法があればと何度願ったことだろう。
やり直す機会があっても弱いのであれば何の意味もない。
ならば時魔法を捨て、悪魔の誘いに乗るのが一番だと思えた。
「……わかった。私はその契約内容を承認しよう。私は時魔法を失う代わり、その他の魔法を手にする。そしてあなたと契約を結ぶ」
「ほぅほぅ。なかなか物分かりがいいですねぇ。じゃあ、早速」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「汝、我と契約すことを認めるならば、己のそれを捧げよ」
その瞬間、私の根幹部分を支えていた『何か』――天から授かった祝福が、音を立てて弾けた。
私はそれを耳にして心から安堵する。
――もう、繰り返さなくてもいいんだ。
――もう、苦しまずにいられるんだ。
知らず、目から涙がこぼれ落ちていた。
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