23:思い出したくない思い出
今頃、デリックはどうしているのだろう。
もしかするとメアともう婚約を結んでしまっているのかも知れない。ドーラン家に行った時はあまりに恐ろしくて効きそびれたが……。
デリックの顔が脳裏に浮かぶ。
赤色の髪、緑色の瞳。鮮明に思い出せる彼の姿は私の胸を締め付ける。
もう彼と歩む未来はないのだと、わかっているはずなのに。
思い出したくない思い出が次々と溢れてくる。
彼と笑ったこと、愛し合ったこと、守ろうとしたこと。
その座を全てメアに奪われ、私は魔女になる道を選んだ。もしかすると抗う道だって残されていたかも知れなかったが、それを私は自分で捨てたのだ。
もうあの日々には戻れない。
悪魔の住処へ向かう途中、私は一人でずっとそんなことを考え続けていた。
もう嫌になる。いつまでもうじうじした女々しいこの女を今すぐにここで殺してほしい。
殺して、ほしい……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人殺しをした。
殺人を犯したのはこの人生では初めてだった。繰り返しの中ではメアを突き落としたあの時や、幾度か第二王子ジェイクを殺したことがある。
しかし今回はまるで違った。今でも、感触が手に残って離れない。
盗賊に襲われた。
ちょうどよそ見をしていた時だったので、すぐに地面へ押さえつけられ上着を剥がされそうになった。
……まさかこんな目に遭うなんて。
私の胸の中から怒りが湧き上がる。そして気がついたら、盗賊どもは皆殺しになっていた。
首を絞めた感触は生々しく気持ちが悪い。
私は彼らを始末して我に返った後、思った。
感情に任せて人を手にかける。そんなのは、あの少女――メアと何ら変わりないのではないか。
その瞬間、メアの醜い嘲笑が思い起こされる。
彼女と私と、何の違いがあっただろう。私はメアと同類にまで落ちぶれてしまったのか。
魔女だ。悪魔など手にするまでもなく、私は魔女だった。
「――魔女上等だ。今度は綺麗に殺せるようにならないとな」
時魔法で心臓だけを止めてしまうのがいいだろうか? それともナイフなどで一突き?
どれも楽しそうだな、と私は思う。大量虐殺などしても面白そうだ。
どうせ魔女になるのだから、残酷非道であらねばならない。
私はそう心に決める。その時、ふと思った。
――いずれは彼も殺さなければならないのだろうか?
彼――デリックには何度も裏切られたし、もはや愛していない。愛していないはずだ。
だけれども私のこの手で彼を殺めるなどということができるか。そう考え私の足が止まる。
だが、
「殺すに決まっている。それが魔女の宿命だ」
あんな少年一人殺せないわけがない。
だのに、握りしめる私の拳は震えていた。私はそれをまだ先ほどの殺人の名残だと断じて気にしないことにする。
ともかく、早く悪魔の元へ向かわねば。
なんとしても手に入れて、この私が魔女になってやるのだから。
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