22:ドーラン家へ
数日後、私はとある屋敷までやって来ていた。
言わずもがな、パーレル家に戻ったわけではない。ここは、ドーラン家である。
ドーラン――メアの父親の屋敷。
私がどうしてこんなところを訪れたかというと、ドーラン氏に折り入って話があるからだった。だが、平民の怪しい女でしかない私をどうやって屋敷に入れてくれるか、それだけが問題だ。
「大丈夫だ。私ならなんとでもしてみせる」
――全ては目的のため。
そう思い、私は屋敷の戸を叩いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クリス・ドーラン氏に顔を合わせたのは、それから三十分後のこと。
なかなか門兵とのやり取りは時間がかかってしまったが、リープした世界で合計百年以上を生きた私が舌戦で負けるわけがない。私にとっては皆が子供のようなものだ。
そうして屋敷へ入り応接間へ行くと、肝心のドーラン氏が待っていた。
「やあやあこんにちは。綺麗なお嬢さんだね」
「……ドーラン様、会えて本当に嬉しい。早速本題に切り込ませていただいても?」
柔和な笑顔で頷くドーラン氏。
でも私は内心穏やかではなかった。こいつがメアの父親なのだ。こいつさえいなければ――。
しかし今さら何を言っても遅い。私はもう魔女になると決めた。メアとはもう無関係なのだから。
「では。――あなたは悪魔のことを知っているか?」
その瞬間、ドーラン氏の表情がほんの少し強張るのを私は見た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドーラン氏が教えてくれたことをまとめよう。
まずこの家には代々、悪魔という存在が伝わっている。
かつてこの家を裕福にした存在、それが悪魔だった。
悪魔の住処やらの情報はずっとこの屋敷の書庫に厳重にしまわれている。内湯は知っているが、決して口に出してはならないのだそうだ。
「どこでその情報を手に入れたんです?」
「……知り合いから、あなたがその情報を持っていると聞いたんだ」
嘘だ。
私は、メアと第二王子がともに情報を知れるであろう場所を考えてここまで来ただけ。
そしてその予想は間違っていなかったらしい。
メアが悪魔を入手できたのは、父親から聞いたか書庫に立ち入って情報を得たかだろう。
第二王子の方はドーラン氏を脅迫して、話を聞き出したに違いなかった。
二人が口封じ――というより口止めされていたのは恐らくドーラン氏の所為であろう。
この話が公に漏れたらこの上なく困る。それが彼の判断だった。
しかし私は諦めたりなどしない。
悔しいが、第二皇子と同じ手を使って交渉することにしようと決めた。
「どうしても教えてくれないか?」
「すみませんが旅人の方にはちょっと。これは一族の秘密ですので……」
「――ではこれでもか?」
直後、ドーラン氏は、首にナイフを突きつけられていた。
もちろんナイフを向けているのは私だ。彼は唖然となって口をだらしなく開けた。
彼にとっては一瞬に見えただろうがこれはもちろん私の時魔法のおかげ。
世界の時を停止させ、私だけが移動。屋敷中からナイフを見つけ、ここまで運んで来たのだ。
ちょうどいい脅し材料になった。これでもうドーラン氏は私には歯向かえない。
「わ、わかった、わかったから……!」
ガタガタと震えながら、そう言うドーラン氏。
私は彼から全てを聞き出すと、やっとナイフの手を離した。
「ありがとう。報酬はほんの少しだが置いていくぞ」
少々の金を残し、私は再び時魔法を使って時間を止め、その間に屋敷を出る。
こうして私の作戦は見事に成功を収めたのだった。
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