表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/60

13:初めての殺人

 開けた草原、そこで少女は待っていた。


 いつもの初対面の時は互いに十三歳であるが、この時は十歳。

 たったの三歳違うだけなのに、ただでさえ幼かった彼女は小さな子供そのものだ。本性を知らなければ、誰もが愛でたくなる愛らしさよ。


 白髪のお団子でまとめたメアは、私を見るとにっこりと微笑んで言った。「あなたが王太子殿下の婚約者、マレガレット・パーレル様ですかぁ?」


「ええ、いかにも。メア・ドーラン嬢、初めまして」


 すでに手紙でお互いの名は知っている。

 しかし多少は相手の情報を得ている私とは違い、向こうは完全なる初対面。それにしては落ち着きがあるなと私は思った。

 この場にデリックがいないせいだろう。


「大変申し訳ないのですけどぉ、アタシ、あまり時間がなくてぇ。本題に入っていただいてもよろしいですかぁ?」


「ええもちろん。私としてもその方が助かるもの。……私、デリックのことが好きになれないのよ」


 メアを呼び出すため、私は大嘘を吐いた。

 婚約者に決まったデリック第一王子。しかし私は彼を好きになれないという、出鱈目な設定だ。


 メアが王太子に惚れていると聞いたので、私はメアに婚約者を譲りたいと思っている。しかしその方法がわからず、相談したいという内容を手紙に書いた。

 そしてメアは愚かしくもそれに乗ったのだ。


「あんなに魅力的な方ですけどぉ、もちろん合う合わないはありますよねぇ。ならぁ、一ついい案があるんですけどぉ」


「なあに?」


「アタシがマレガレット様になりすまして、マレガレット様がアタシになるんですぅ。変装なんて大した手間じゃないですしぃ、きっと誰にもバレないでしょうしねぇ。どうです……」


 こちらへ一歩、また一歩と近づいて来たメア。

 その時私はにっこりと笑い、呪文を唱えた。


「――――」


 そして直後に異変が訪れる。

 メアの体がぴたりと止まり、驚いたような顔のまま微動だにしなくなったのだ。


 時を対象限定で停止させる魔法。

 これをこの数日間でどれほど練習したことか。見事に成功してくれて、私は心から安堵した。


 時の流れから切り離されて硬直しているメアへと歩み寄る。

 そうそう、大事なことを忘れていた。私は彼女の服の中から手紙を抜き出す。「証拠隠滅は大事だものね」なんて独り言を呟きながらそれを細かく破って食べた。

 口の中に紙の味が広がって気持ち悪いが、これくらい何でもない。


 そしてそれが終わると私は思い切り、彼女の体を蹴飛ばした。


 ――ここは断崖絶壁の草原だ。

 ここなら誰もいない。そう手紙では誘ったのだけれど、実のところはメアを崖から突き落としたかったがためである。


「さようなら」


 崖から蹴落とした瞬間、時間停止魔法を解除した。

 落ちていく少女の姿、聞こえて来る悲鳴。崖の下は岩だらけであり即死は間違いないだろう。


 私はメアの体が四散するところを見届けると、満足して頷いた。

 初めて人殺しに手を染めたのだ。しかし胸の中は非常に落ち着いていた。


「――だってこれでもう、何の心配もいらないのだもの」


 今度こそ邪魔者は消え、存分に私の人生を楽しめる。

 もちろん、この後メアの死について追求されるかも知れないが、もはや証拠は失われた。私だと特定する術はきっとないわ。


 そっと崖の上の草原を立ち去る。

 早く戻らなくてはデリックが心配しているわ、なんて思いながら。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

 ご意見ご感想、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ