10:ハッピーエンドは訪れず
メアの失踪という意外な形でこの騒動の幕は下りた。
国の機関が調べたところ、やはりあの石は『魅了の石』で間違いなかったらしく、すぐにメアは指名手配された。
しかし、彼女の実家であるドーラン家にも帰っては来ておらず、完全に消息不明とのことだ。
けれどあれ以来、彼女が私たちの前に現れたことはない。
私とデリックの幸せな日々は続き、数年後、やがて結婚することになった。
「色々あったけれど、これでようやく……」
求めていた幸せを手に入れられる。
私はそう思い、嬉しくて仕方なかった。
今からウェディングドレスを着て、式に臨むことになっている。
やっと待望の時が来るのだ。思わず笑顔になる。
「さあ、デリックと愛の誓いを交わしましょう」
デリックは私を好きでいてくれた。
『魅力の石』などという魔石の力がない今、何にも阻まれることなく私たちは愛し合っている。
望んでいた、夢のような現実がこの手にある。
――式場には大勢の人々が集っていた。
皆、社交パーティーで知り合った顔ぶればかりだ。この時代にはまだ貴族とは呼んでいなかったが、そういった人間たちである。
そして熱気あふれる式場の反対側から現れたのは、赤髪の少年だった。
「デリック」
いつもとは違う式用の礼服を纏った彼はとても美しい。
王太子としての威厳が感じられて私の胸はとても高鳴った。
式のための言葉が述べられ、それが終わると自由に動くことが許される。
私は彼の方へ歩み寄っていく。彼も私の方へ歩いて来た。
そして私たちは抱き合った。デリックの体温がとても心地よい。
それを全身で味わいながら、私は囁いた。
「ああ、好きよ」
「俺も君を――」
近づく二人の顔。
そのまま互いの唇が重なり――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
直後、彼の首が血飛沫を上げて吹き飛んでいた。
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