第4話 訪問
次の日の放課後、僕は自転車を漕いで隣町を訪れた。
いままで大通りしか通ったことのないその町には、昨日教えてもらったヤミ本を扱う古書店がある。
店の場所を示すメモは、地図というにはいささか情報が不足していて、箇条書きで道順が書かれているだけだった。
先程から何度も書かれたとおりの経路を辿っているが、いつまで経っても目的の場所に到着しない。メモの最後に書かれた細い路地がどうしても見つけられないのだ。
「やっぱりあの人の言うことは話半分に聞かなくちゃダメだな」
ついついボヤいてしまった。所詮はうわさ話だ。一歩前進したかと思ったが、どうやらそんなことはなさそうだ。
「暗くなる前に帰るか……」
来た道を引き返そうと、押していた自転車を方向転換する。だが、何かとてつもない違和感をその時感じてしまった。
「こんな道……通ってないぞ? 」
そう、いくら不慣れで初めて来た町とはいえ、通った道くらいは覚えていたつもりだ。注意深く周りを見ていたのだから尚更だ。にも関わらず、僕は全く見覚えのない場所にいた。
「あー……気付いちゃいました? 」
混乱する僕に、誰かが声をかける。
その声の主は路地の影からゆっくりと姿を表した。
「普通ならそのまま永遠に彷徨っちゃうんですけどね、何も知らないままの方が君も幸せだったと思いますよ」
声の主は狼狽える僕を無視して一歩一歩近付いてくる。鮮やかな金髪に銀色のメッシュを入れた、若いホストのような出で立ちの男だった。
「な、なんなんですか……あなたは」
ただのホストではないのはわかる。軽薄な身なりをしていようと、男は言いようのない不気味さを包み隠さずに僕を圧倒していた。
「えーっと、はじめまして。私の名前は周西助です。つまるところ、君を消すためにここにいます」
周と名乗った男は不敵に微笑む。それは絶対的な強者が獲物を前にする余裕、僕になんら反撃を許さない凄みだった。
「消すって!? 僕か一体何を……」
言い終わるより前に、男の左手は僕の首を掴んでいた。その細身からは想像できないほどの力で、僕の足は地面から離される。
「あっ……っぐ! 」
息ができない。自転車は支えを失ってガシャンと倒れた。
「君ね、素人があの本を無闇に嗅ぎ回るのは感心しないですよ。つまるところ、アレはそれだけ危険だと言うことです」
あの本?『幸せな女の子』のことか?
男の言葉が頭の中で反芻する。何故? どうしてあの本のことを知ることが、今の状況に繋がるんだ?
「殺してはいけないとまでは言われてませんので。君のことは行方不明として処理させてもらいます」
僕の気道を塞ぐ手の握力がより増した。意識が遠のく。なんで……なんでこんなことに……