第10話 約束
早希さんは僕に連絡先を渡し、今日はとりあえず家に帰るよう言った。僕が『異形』をすでに取り込んでいること、それに彼女が僕を守っていることは、もうあの男から情報が広まっているはずなので、すぐに襲われる危険は低いだろうとの判断からだ。
ホストが早希さんとあまり良い関係にない、ほぼ敵とも言える距離感であることは襲撃時の会話から予想できた。だが、早希さんとあの男が所属する組織についてはまだ教えてもらえなかった。ただ漠然と、『すべての異形を管理する組織』の存在をほのめかされて、僕は古書店を追い出されるように外に出た。
あたりはもう暗くなり始めている。放ったらかしにしてしまった自転車を回収し、色々と思い巡らせながら僕は帰路につく。
「もし危険が迫ったら連絡しなさい。あと、これから放課後は私と一緒に行動してもらうわ」
僕の日常は、明日から『異形』の本についての講習と取り扱い方、そして佐方早希さんという信じられないほどの美少女との毎日になるようだ。
早希さんは自分の素性についてはあまり多くを教えてくれなかった。わかっているのは、彼女が涼やかな眼と透き通る白肌、絹糸のようなつやを放つ茶髪を肩まで下ろした信じられないほどの美少女であることだ。しかし年齢はだいたい同じくらいか?としかわからない。また強烈な一撃を食らいそうで、年齢の話はできなかった。
家に帰り着き、家族と夕食を共にする。この場所だけは変わらない日常だ。
「ねぇお兄ちゃん、今日も本屋さんに行ってたの?」
妹の鏡花は食卓で無邪気に僕に質問した。首を絞められ殺されかけて、謎の美少女とこれから毎日一緒に過ごすことになったなどとは口が裂けても言えない。
「ちょっと遠くの書店に行ってみたんだ。珍しい本を扱ってるみたいでさ」
「お兄ちゃんの本好きはすごいね。私なんか漫画くらいしか読まないのに、本当に私達って兄妹なのかな?」
鏡花は僕をお兄ちゃんと読んで慕ってくれているが、歳はひとつしか違わないので、僕には兄と妹より、幼なじみといった感覚の方がしっくりと来た。
「おもしろい本があったら私にも教えてよ」
「鏡花の好みに合うようなジャンルにはあんまり手を出せてないんだよなぁ」
「それ、私の知能が低いって暗にバカにしてないよね」
妹と僕は他愛も無い話のやり取りをして、夕食の片付けを済ませるとそれぞれ自室に戻った。
部屋に入り、ようやくひと息ついたので『幸福の鎖』を手に取り、ベッドに横たわる。
「『異形』……の本か。まさかこの世にこんなものが存在するなんて思いもよらなかった」