雨過天晴(うかてんせい)〔10〕
更新いたしました。
少しだけ長めすが、よろしくお願いいたします。
東の大陸、アキラ達異邦人が居た世界ではウラル山脈と呼ばれていた山脈より西側での選抜部隊の過酷な修練は予定の六か月が過ぎようとしていた。
「アイ殿、かなりの距離から複数の様子を伺っている様な視線を感じとっていた。多分アイ殿も同様に敵意の無い視線として放置していたのでしょうが・・。最初は一つの、それが日を追うごとに複数の視線となり。今日に至っては、これまで注意深く気配を隠していたであろう明らかに桁外れな存在から発せられた視線を感じ取ったのだが」
一人修練を続けていたラーバンが夕暮れ刻、アイの元へ戻りいつもの様に手合わせを求めるその際に不審に思った事について訊ねていた。
「彼等も学び、より成長しようとしているのよ。私達の修練を観察する事によってね」
アイの答えにラーバンは言葉を返す。
「彼等?何者なのです?」
すると、一足先に稽古をつけてもらっていたケイトが少し驚きながら口を挟む。
「まさか、伝説の金色の三つ首ワイバーンですか?」
「ケイトは以前遭遇していたのだったね」
アイの言葉に今度はラーバンが驚き声を上げる。
「ここはやはり伝説の魔獣の採餌場だったのですか!」
珍しくラーバンが声を荒げる。
「このエリアは彼等に黙認され借り受けている場所だから問題はないのよ」
「伝説の魔獣が黙認?何があったのですか?」
「以前、シャトルーズと遭遇した際に、狩場の一部を借り受けていたんだよ」
「そこまでの知性があるのですか?」
「だから伝説の魔獣なんだろうね。我々と変わらない知性溢れる魔獣は一定種は存在しているみたいだね」
「だから観察する事によって修行していると」
「その通りだよ。しかし良く成獣の気配まで読み取れたものだよね。アルでさえ感知が難しかったのにねえ・・。何か注意深く気配を隠してい成獣を驚かせるような新技でも披露したのかい」
「・・・」
ラーバンは突然、無言となり。そして笑みを浮かべながらアイに対して構えを取った。
「見せてくれるのかい。新技を」
アイとラーバンの長い修練期間の最後となる手合わせが始まった。
選抜部隊は過酷な修練を終え、アキラもパーナと子供達の元へと帰宅していた。
「ただいま。シャルトとヴェルはもう寝たのかな?」
夜遅くの帰宅となってアキラは小声でパーナに声をかけた。
「おかえりなさい。二人には明日の朝に必ず声をかけて下さいね。最近留守な事が多いいから忘れられちょうわよ」
そう言いながらパーナはアキラの首に手を回し抱き締めてきた。
「弱ったな・・、シャルトとヴェルには父親として申し訳ないよな・・」
するとパーナは微笑を見せ、耳元で囁く。
「嘘よ・・二人共、貴方の帰りを今日も眠りにつくまで待ちわびていたわ・・私もよ」
二人は互いに見つめ合いながらあつく抱擁を躱し、そして夜が更けていった。
一週間の休養の後、彼等、選抜部隊はついに旅立ち日を迎えた。
「これが、現状で皆に持たせられる最高の装備なんだ。我々、ドワーフ族は戦闘にはやや不向きで残念ながら誰一人選抜されなかった。・・しかし残されたドワーフ族の全の技能を注いで完成させた装備だ」
見送りに来たドルの言葉にアキラは答える。
「ありがとうドル。貴方達ドワーフ族の誇りをかけて製作された装備、十二分に威力を発揮するだろう」
アキラは、そう答えながらドルと固い握手を交わした。
「アキラ、この腕輪は再びお前に託したいフジワラうの事をよろしく頼む」
「タケルとまた三人で、飲める日を楽しみにしているよ」
アンジェラと共に見送りに来たカーメルが父親の腕輪をアキラに手渡す。
「はい、必ず親父を取り戻してきます」
アキラは笑顔で彼等に答え駐機場へと向かって行った。
「ぜら・あな」商会の駐機場に停まるゼラ・アナ号とシャトルーズの前にはゾンゴ王、パーシャ王、ジャンニ、ロン、ピガン、セグー、そしてパーナ女王が一列に並び全員の搭乗を見送っていた。
そして、パーナが一同を代表して壮行の挨拶を行う。
「まず、この様な簡素な壮行会しか催せなかったことを心よりお詫び申し上げます。神と呼ばれていたスライム族によって引き起こされていた災禍によって世界は一変致しました。二度とこのような事が起こらない為に我々全ての民の生存をかけた戦いに臨む皆様に対して大変心苦しく感じております。そしてどうか一名も欠けることのない全員の帰還を願っております」
パーナの短い挨拶が終わると同時に見送りに来ていた全員がふか深く頭を下げる。そして、全員がコンテナに乗り込むとゼラ・アナ号は静かにコンテナを包み込みキイーとキスの発進の呼号と共にゆっくり上昇していった。
その様子を見届けアキラがシャトルーズに乗り込もうとしていたその時、パーナが走って駆け寄り抱きつくとアキラは最後の言葉を交わす。
「シャルトとヴェルを頼む。二人とはまだ遊び足りてないからな、必ずここに帰ってくる」
アキラはそう言うと顔をパーナによせ、口付けを交わした。そしてシャトルーズに乗り込むとゆっくりと浮上させていった。
「チャア、出発しよう。以前の逆ルートでランディアの海底迷宮を目指す。頼んだよ」
「ええ、任せて。迷うことなく安全な経路を選んでゼラ・アナ号を導いていきます」
チャアはそう答えるとシャトルーズをゼラ・アナ号の前方へと回り込ませ北の空を目指し加速していった。
飛び立っていくシャトルーズとゼラ・アナ号。その光景を見守る為に早朝の時間にも関わらずリュウの街の通りは大勢の人で埋め尽くされ、いつまでも、いつまでも手を振り続けていた。
お読み頂きありがとうございました。
雨過天晴の章はここ迄となります。次回はいよいよ最終章となります。
どうかよろしくお願い致します。
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