「藤原 晃」「ヴェルビー・ナァ・パーナ」(10)
更新いたしました。
キラは、眼の前でゴーレムの素材や体格差からの劣勢を巧みな技量で補い持久戦に持ち込もうとするトロフを只々誇らしく感じていた。
(流石だ、友よ。今、成さねばならない事をよく理解している。それに比べて私は、家族の、一族郎党の古き戒律による呪縛から抜け出す事も出来ず・・今ここに居る。何が神殿からの神託だ、何が古き戒律を守る事が務めだ・・そんな紛いモノに誰一人抜け出せないなんて!)
キラは涙にもならない涙を流しながら、その身体に染み付いた剣技を只々トロフに打ち付けていた。
「まだか、アキラ」
トロフは十分にも満たない時間が永遠の様に感じていた。自分がこの赤黒い大型のアダマンタイトゴーレムを抑えておかなければ王宮からの避難の道は閉ざされてしまう。キラと自身の剣技は、ほぼ互角・・しかし、明らかに押し込まれつつあり、薄い青緑のミスリルゴーレムの手首が悲鳴をあげていた。しかし・・。
「やらせはせんぞ、貴様の為にも!」
トロフは、捨て身の近接戦へと闘いを持ち込んでいく。
「非戦闘員は早く中庭を目指して、事態は一刻を争います。他の者は城門を突破される前に王城からの脱出を。間に合わなかった者達はただちに投降する事を命じます!」
国境が破られ、これまでに見た事のない空を覆わんとするゴーレム隊の大軍が王都を目指して進軍中との報にパーナは最後の命令を執務室から騎士達に伝令していた。
「女王もお早く」
警護の騎士達の言葉にパーナは。
「ゼラ・アナ号が中庭に到着次第、私は「グラン」で護衛にあたる。ゴーレムを持たない者は自身の命を最優先に城外への脱出を試みて下さい。ラーバン率いる大部隊が押し寄せる前までが最後の機会です。これまで警護ありがとう。これより任を解きます」
そう命ずるとパーナはフィルや侍女達と共に中庭を目指した。
ミスリルの右手首が粉砕され最早、玉砕覚悟の体当たりを選ぶしかないとトロフが覚悟を決めたその時。上空より衝撃波と共に二体のゴーレムの間に黄色に発光した物体が割って入ってきた。
「トロフ、無事なのか」
アキラは地面に大穴を開けシャトルーズを着地させると、再び舞い上がり赤黒い大型のアダマンタイトゴーレムに左右の小剣を抜き身構える。
「アキュラ!そのゴーレムはキラが操っている」
背後で叫ぶトロフの声にアキラは思わず集中力を乱してしまう。そしてそこにアダマンタイトゴーレムの大剣が迫る。しかしその大剣を身体の反射のみで受け流す。
「キラ、・・キラさんなのか?」
アキラの問いかけにも目の前の赤黒い大型のアダマンタイトゴーレムは無言のまま、キラが最も得意とする左片手一本突きの構えをとった。
人ノ篇、最終章十話目となります。どうか本章もよろしくお願い致します。
もしよろしければ小説家になろうでの、評価、ブックマーク・フォロー、感想などを頂けますと幸いです。




