「藤原 晃」「ヴェルビー・ナァ・パーナ」(8)
更新いたしました。
まだ瓦礫が散乱するスイの国リュウの街の放送局跡地で使える廃材や新た素材を使った以前とは違う、明らかに小さな仮設の建物が建設されようとしていた。
「オーライ、オーライ、チョイ右、ストップ!」
ドルが魔道具を口に当てて、上空のシャトルーズに指示を出す。
「すまないな、アキュラ。こんな事まで手伝わせて」
「いえ、この送信機は流石にこの大きさの建物では屋根が出来る前に上空から運び入れなければ無理ですから。街の工房からの直接、運搬設置した方が効率的ですよ」
「確かにな、しかしこれだけの重量物を吊って運搬できるゴーレムはシャトルーズ位しかないからな」
その時突然、横からドルの魔道具に顔を寄せカーメルが話しかけてくる。
「わるい、少し時間を貰えるか。話がある」
「わかりました」
その言葉にアキラはシャトルーズを降下させながら答えた。
「何とか放送再開できそうですね」
シャトルーズを降りるとアキラはカーメルに話しかけた。
「ああ、今日明日で屋根を付けて、今週中には試験放送を始めたいと思っている」
「かなりの突貫工事でしたね」
「・・時間勝負な所が有るからな」
「わの国ではもう通常放送に戻っていますからね」
「そうだったな。・・で、話というのはグラスの事についてなんだが」
「わの国の以前カーメルさんが話していた諜報機関ですよね」
「私が創業したアン商会は完全にグラスの下部組織と変貌を遂げているらしい。表向きの従業員は以前通りだが。新たに入店した者はみなグラスの息のかかった者となっているらしい。そして、私が手塩にかけて育てた幹部達はみな家族共々、WAに送られて街を出る事を禁じられているらしい」
「そんな事に・・、でも、その情報はどこから?」
「アン商会でハサンの国の取引先で懇意にしてもらっていた者がリュウの街を訪れていたんだ。彼は王室とも深い取引をしていて、身の危険を感じてこの国に 命からがら移ってきたそうだ」
「その方はグラスの存在を知っていたのですか?」
「心配するな。知っちゃいないよ、彼との会話で推測して導き出した結論だよ。私の居た頃の従業員の中にも既にグラスが居るかもしれないと思っていたんだ」
「流石ですね」
「フジワラも私もグラスという存在が目障りだったし、大統領の直属の機関を作る事には最後まで反対だったんだがな。必要悪な存在でも国家には必ず必要だと押し切られたんだよ」
「そんな過去が有ったんですね」
「ここからは今回の放送局の襲撃事件からの流れでの私の推論だ。異邦人や行商人の出入りが少なく古の戒律が守られているエルフの国では革命ではなくたぶん内乱を工作してくるぞ。さらに内戦状態に入った所で侵攻が始まると読んでいる。・・始まりはこの放送局が再び襲撃された時だ」
少し悲しそうにそう断言するカーメルの言葉にアキラは言いようのない不安と、目の前にいる男の才覚に驚きを感じていた。
人ノ篇、最終章八話目となります。どうか本章もよろしくお願い致します。
もしよろしければ小説家になろうでの、評価、ブックマーク・フォロー、感想などを頂けますと幸いです。




