「ドル・ターラー 」「レディ・フォー」(4)
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翌朝、アキラとパーナは商会内の工房を訪れていた。
「おはよう、ドル」
忙しそうに何かの準備をしていたドルにアキラが話しかける。
「おはようございます。・・女王陛下!」
「おはよう、ドル。今日はラジオという魔道具を見学に来ました」
パーナのあいさつにドルは驚きながら答える。
「ラジオですか?「なかつ国」では商店や工房では珍しくもない魔道具ですが・・、「なぁの国」でも最近、聞けるようになったという話だったんで持ち込んでみたんですが?」
「王都ではまだまだ珍しいから見に来たのよ」
「そうですか、どうぞ自由にご覧になって下さい。楽しみにしている番組も有るので持っていくのは勘弁して下さい」
「持っていたりしませんよ。少しの間、見学させてくださいね」
そう言うと、パーナは音楽が鳴る魔道具に近づいていくとアキラに使い方を尋ねる。
「これを回すと別の番組を選べて、こちらを回すと音が大きくなるんだ。「ブリーテン」で使ってみた時とあまり形も大きさも変わってないみたいだよ」
パーナが操作してみると音楽が小さくなって軽快に喋る人の声が大きくなった。
「あら、何か新しい商品の事を話してるみたいね」
「ああ、「アン商会」の宣伝だよ新しい店や新しい商品なんかの紹介を色々してたよ。後は事件や事故、天気なんかの情報を流しているみたいだよ」
「便利で楽しそうね」
「そこなんだよ、厄介なのは・・、情報を操作し人々の考えや価値観を変えていく事も出来るんだよ」
「楽しそうなのにね」
「楽しんだよな~、俺のいた世界でもラジオやTVという映像も見れる装置があって様々な権力者達に利用されていたんだよな。でも楽しいから見たり聞いたりしてしまうんだよ」
「利用したくなりそうね」
「パーナまで怖いこと言わないでくれよ」
「噂話であっても内乱が起こったりするのよ、この魔道具を使ったら瞬く間に噂話が本当になりそうね」
これだけの事で魔道具の本質を理解してしまうパーナの凄さにアキラは畏敬の念を感じていた。
帰り際にビルに挨拶しながらパーナは訊ねる。
「この魔道具は普通の民にはまだ高額なの?」
「ええ、まだまだ高いですね」
「安くなるって話はあるのかしら」
「ええ、ラジオで言ってましたよ。家族向けの小型で安いラジオを商品化するそうで、皆、楽しみにしていますよ」
「最近の情報はみんなラジオからなのね」
「はい、すっかり「なかつ国」では、あるのが当たり前になっております」
「随分と邪魔してしまいましたね。ありがとう」
帰りの馬車の中でパーナは溜息をつきながらアキラに伝言を頼んだ。
「ジャンニにラジオの手配を頼んでおいて、私の執務室に運ぶようにと」
「ありがとう。問題意識を共有できたみたいで嬉しいよ」
「「わの国」が次に仕掛けてくることを「なかつ国」の王族はわかっているのかしら。きっと、この国だけの問題ではないのにね」
「必ず何か仕掛けてくると思う、俺の部屋にも一つ頼んでおくよ」
楽しいはずの魔道具の背後に「わの国」の情報戦ともいうべき思惑を感じとりアキラも深い溜息をついた。
新章、四話目となります。どうか本章もよろしくお願い致します。
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