「藤原 武尊」「ヴェルビー・ナァ・ラーバン」(6)
更新いたしました。
「着いたよ、ここが私の店だ」
この時間は営業していないだろう歓楽街の外れにある一軒の店にアキラはアンジェラに案内された。
「お邪魔します」
ドアの奥には僅かな光が差し込み、そこに見えるのはカウンター席と小さなテーブル席が有り、いかにも酒を提供する為の飲食店って感じがする店内だった。
「狭くて悪いがこの奥の倉庫が中二階になっていて、昔私が寝室にしてた場所が有るんだよ」
倉庫の梯子を登ると天井の低いロフトの様な寝室が有った。
「十分ですよ、ありがとうございます」
アキラが礼を言うとアンジェラは言葉を続ける。
「夜、客が来ている時は、いびきや変な物音をたてちゃだめだよ。ラジオを付けて音楽を流してはいるけど用心しなくちや、あんたの親父さんの様に変に目ざとい奴もいるかもしれないからね」
「親父も良く来ていたんですか?」
「将軍として、ここに赴任していた時期にね、ラジオかけていいかい?」
「どうぞ」
「これから暫くしたら楽しみにしている番組が始まるんだよ」
「凄いですね、もうラジオ放送が始まっているんですね」
「私は此処で生まれ育った異邦人だからよくわからないけどね。カーメルはインター何とかで、魔法とかじゃなくて物が動くのを皆が見れる放送を始めたいと言ってたよ」
「ネット動画をですか?」
「なんかそんな言葉も言ってたね・・」
アンジェラがラジオをかけると店内は少し明るくなり静かなクラッシック音楽が流されていった。
「少し早いけど食事を用意するからそこに腰かけていて・・そこによくタケルは座っていたのよ」
アンジェラが指差すカウンター席にアキラが座ると手早く夜食を作り始めた。
(魔道具と転移させられた異邦人の知識を使ってインターネットまで普及させようというのか・・こんなに進歩してしまったら、確かに封建的な王政は長くもたないだろうな。英国の様な立憲君主制に上手に移行できないとパーナが大変なことになりそうだな・・)
アキラが考え事をしている間に二人分のまかない料理が運ばれていた。
「親父もこの料理を食べていたんですか?」
「そうね、ただし朝食としてだけどね」
「朝まで飲んでいたんですか?」
「ここではお酒はほとんど飲んでなかったわ・・街で部下達と居酒屋で飲んだ後でここで飲んでいるカーメルと合流して朝方まで色々な談義をしていたわね」
「二人はどんな感じだったんですか?」
「えっ、料理冷めるわよ。食べながらでも話してあげるわ」
アンジェラが語る二人の話でわかってくる自分の知らない父親像にアキラは少しの気恥ずかしさと誇らしい気持ちが交錯していた。
次話もどうかよろしくお願いします。
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