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異世界転生した兄と低所得の僕

これは二人の兄弟の物語


僕が生まれた年に兄が死んだ

死因は交通事故だ、何が原因かわからないがいきなり道路に飛び出してそのまま4歳で人生の幕を閉じた

だから僕は兄の顔を4歳頃の顔写真でしか見たことがない。もしも、兄が生きていたら…

そんなことをふと考えていたら、隣で忙しそうにPC作業していた僕の部長が尋ねてきた

「泉君、頼んどいた注文、どうなっている?」

「あ、はい。今納期を確認します。」

急いでPCの中の注文経歴を開き、商品の納期を調べたが、注文したと思っていた商品の名前がなかった、もしかして…

⦅左の紙の山の中⦆

僕は渋々書類の山を確認する、すると角が曲がりシワシワになった注文用紙を発見した、違う注文用紙と混ざってしまってようだ。あぁ…まずい、注文してない

「あーすいません土井さん、納期まだ確認とれていませんのですぐにメーカーに問い合わせておきます。」

まずいと思った僕は咄嗟に誤魔化した、が

僕の性格や仕事に対する取り組み方を理解している部長はすぐに見破った

「注文できてるの?できてないの?どっち」

やばい、バレてる…

「すみません、実はまだ…」

それだけ言った所で、もういい と言われた

「すみません」

小さくため息をつかれてしまった

マズイな、ただでさえ仕事を頼まれないのにこれでミスなんかしたら…まぁもう遅いか

僕は俗に言う窓際社員というやつだ、いつもPC内のニュースなどを見ては消して、開いては閉じているそれを繰り返す、たまに職場に電話が掛かってくるのでそれを取り、担当者へまわす。それだけだ。

今日もいつも通り仕事はないはずだったが、土井部長の専門アシスタントの女性社員が休みのため僕が代理で部長のアシスタント業務を担当している

⦅元気出せ⦆

僕は、注文できていない商品を注文する作業をした。今は午後の3時。やばい、メーカーの締め切りが確か3時だった、急いでメーカーに電話で直接納期の確認をした、がもう遅く、納期は明々後日になる。そのことを部長に報告しなくては…

「あの、すみません、部長…納期の件ですが、明々後日になります。」

返事はない、一瞬聞こえているのか心配になったが、また小さなため息をつかれてしまった。

とりあえず、聞こえてはいるようだ。僕は最悪の返事をもらいつつも一応報告は済んだのでそれ以上やることもないから、またPCの画面と睨めっこして一日が過ぎるのを待っている。

⦅暇じゃないのか?⦆

不意に頭に声が響いている。僕は苛立ちながら頭を掻きむしった。ああ、最近多くなってきた。

僕は一週間前から起こる幻聴に悩んでいた。きっかけは丁度兄の命日で実家に帰った時、

今までに経験したことがないほどの頭痛になり、数時間寝込んだのだ。一度寝て起きたら頭痛は綺麗になくなっていたので、自身が偏頭痛持ちであることから、そんなに気にしなかったが、その時から頭に直接声が響いている感覚になった。最初に響いたのは、車を運転している最中、黄色信号が赤に変わりそうな所僕がそのまま行こうとした時だった。

⦅やめとけ⦆

とはっきり聞こえたのだ。驚きで一瞬パニックになり、すぐにブレーキを踏んだ。すると猛スピードで横から駆けてゆく車がいたのだ。僕がそのまま行っていれば間違いなく大事故に繋がっていただろう。その後も、平日に朝目覚まし時計が壊れ僕が遅刻しそうな時、

⦅起きろ⦆

とまるで、耳元で大声を出されたような感じで起こされた。すごい驚いたが遅刻せずに済んだ。しかし、それでも頭に声が響く現象は僕にとっては恐怖でしかなかった。僕は、急いで病院に駆け込み事情を話したが、医者はあまり理解をしてくれず、日々のストレスが原因とされた。結果、精神安定剤のようなものをもらい診察は終わった。しかし、只の幻聴では思えなくて1人でいろいろ調べた。が、結局なんの病気なのかもわからないままだ

⦅人を病気扱いするな⦆

最初は一言だけ言うだけだったが、最近は会話するように問いかけてくることが多くなった。

そんなこんなも、もらった精神安定剤を飲みながら、無視を続けてきた。周りには聞こえないんだ、いちいち反応していたら一人で喋っている正真正銘の変態だ。しかし、声が収まるどころか最近では仕事に口を出してくるようになった。一体どうしたらこの幻聴は治るのだろうか

⦅俺は、お前の想像物じゃない⦆

⦅ちゃんと存在している⦆

声が頭に響く。特に痛いとかではないが、気持ちが悪い。”声“はこちらの思考を読んでいる訳ではないみたいだ。ちゃんと返事をしなければ会話にはならない。

仕事の終わり際に僕のPCを後ろからのぞき見してくる人物がいた、うわぁうざい…

「今日も一日遊んでいた?」

と、喜喜して尋ねてくる人物がいた

「いえ、ちゃんと仕事していましたよ」

そう答えはするが

「仕事していた“フリ”だろ」

と笑顔でこちらを馬鹿にしてくるこの人は黒岩という僕の会社の先輩だ。

⦅こいつは何だ?ヘラヘラと気持ちの悪い奴だな⦆

“声”と初めて気が合った。そうこの人は何かと僕に絡んでくる、本人はいじってやっていると上から目線で言っているが、僕としては本当に迷惑だと感じている。

だがこの人は会社の上層部と部長も信頼している、営業で会社に貢献している人だ。僕とは違いちゃんと仕事しているし先輩ってこともあり、僕は絶対に口答えができない。

それになんてたって彼のいうことは間違ってない実際に僕は仕事している“フリ”をしていた。悔しいが何も言い返せない。だから僕は愛想笑いで誤魔化す。

「本当に今日仕事した?」

と隣に座っていた部長も会話に入ってきた。今日商品が注文できてなく仕事が滞ってしまった恨みもあるのだろうか、チャンスとばかりにマウントを取ってきた。

「い、いえ、やっぱりしてないかも…しれませんね」

今日は代理でいつもよりは仕事があったはずだけど…まぁ部長や黒岩さんからしたらやっている内に入ってなかったんだろうな、失敗もしていたし。

「くそヤローだなww」

黒岩さんに笑いながら言われた

⦅殴ろう、コイツ⦆

最近わかったが”声“はよくケンカ腰になる。もちろん黒岩さんにその”声“が聞こえているわけがない。定時の鐘がなり、何も仕事がない僕はそのまま残っても意味がないのですぐに帰宅の準備した

「ああ、そうだ泉君」

黒岩さんに呼び止められた

「おばあちゃん、元気w」

⦅…なんだ?⦆

祖母のことを笑いながら聞いてきた、僕は今日1番不快な気分になるが、

「はい…元気です…」

と愛想笑いをして誤魔化す。

情けなくてホントに自分が嫌いだ


アパートに帰り、テレビで今お気に入りのアニメを見る。最近お気に入りは異世界転生系のアニメだ。現代で冴えない主人公が事故で亡くなり目覚めたら異世界で目覚めてさらに転生特典で得たチート能力で強敵をどんどん倒していくアニメだ。周りのキャラクターは可愛い女の子たちばかりでそのキャラクター達に主人公はものすごく尊敬していている。

ああ、いいなぁ 僕も最初の主人公と似たような状態なのに全然違う。現実はつらいままだ。いっそ僕も異世界に転生出来たらいいのになぁ

そうやって、プチ現実逃避に浸っているとまた”声“が聞いてきた。

⦅あれは、どういう意味だ⦆

「…どれのことだよ…」

人目がなくなったからなのか、僕はつい”声”に反応してしまった。

⦅お前のおばあちゃんが馬鹿にされていたよな?心配の…”色“がなかった⦆

「”色“なんだ、それ?」

⦅俺は、人の感情が感覚でわかる。説明は難しいが、例えるならあれは”色”だ。⦆

そうゆう設定なのか…?ツッコむのが面倒くさいと感じた僕は、何の意味もないってわかっているけど、なんとなく事の顛末を”声”に説明した。事の発端は祖母が足の怪我で病院に運ばれたことを母親のラインで見たことだ。僕は祖母が倒れたと勘違いをし、仕事そっちのけで病院へ急いだ、結果何事もなく僕は時間指定の配達に間に合わなく客に滅茶苦茶怒られた挙句に土井さんにもものすごい迷惑をかけてしまった。もちろん、その後で部長に呆れ気味の説教をくらった。そのことをあの人は未だに面白いものだと思っていじってくる。

⦅家族を思うのは、悪いことではないだろ⦆

「そうゆう問題じゃないんだよ…」

⦅じゃあ、問題は何だ?⦆

「悪いのは結局僕なんだよ、少しでも冷静になって話を聞いてたら…それに報告もちゃんとしていたら、こんなことにはなっていなかったはず。」

この仕事に就いてもう5年になるのに僕は凡ミスが多いっていうかどこか抜けているっていうか、とにかくミスが多いだよ。何かやっても必ず何かうまくいかなくなる。それを挽回できないかと努力もした時があったけど、それがかえってさらに大きなミスを引き起こした時があった、それ以降挽回することをあきらめるようになった。その結果見事に仕事が任されることなくなった。そして僕はその状況を受け入れることにした。

僕は今までの事と自分の事を初めて”声”に説明した気がした。傍から見たら完全にヤバい奴の独り言だ。視えない相手に向かって何を言ってんだか…と思ってたら“声”が反応した。

⦅お前は、確認する癖が足りないんだろうな、自覚していないみたいだが、お前は相当焦って行動している。何も焦る必要はないんだからもっと肩の力抜いて、状況を理解して行動すればちゃんとできると思う⦆

意外と真面目な答えが返ってきた。的を射ていているが、何だろう、声”だけの存在に自分の悪いところを指摘され素直に納得できず、代わりに怒りがこみ上げてきた。

「黙れよ、僕は相談したつもりはない!」

だが、”声”は臆することなく続けた

⦅お前最初に自分でも言ってただろ?“結局悪いのは僕だ”って、お前は頭では自分が悪いってのは理解はできているんだ、だけど、どうやって改善していいかわからない上に、自分でも薄っすら自覚している部分がある。真実を言われて頭に来ているんだ。気持ちはわかるよ正論が誰しも誰かのためになるとは限らないしな。でもな、まずは今の自分を認める。そこからが自分を変えるスタートラインだと俺は思う。』

自分の事を理解されたような感じに言われ、不快な気持ちになる。僕はこれ以上”声”から何かを言われたくないので、布団をかぶり寝た。“声”はそれ以上何も言わなかった。


早く自分の力を取り戻さなければ…

”声“は青年が寝たのが感覚で分かった。今の自分には何も見えていないが何となくではあるが暗い空間の中この青年を通じて周りの人間の感情を感じ取れるまで力が回復している。

青年とはある日急に繋がっていた。力とともにこれまでの記憶まで失っているようだ、青年と繋がった日のことこうなる前の自分がまるで思い出せない。

⦅悪いな⦆

”声“はそっと呟くがもう青年は寝てしまって聞いていない。



その日の深夜、夜道を一人の男性が酔っぱらいながら歩いていた。男性は今とても気分がいいみたいだ、鼻歌を歌いながら歩いていると不意に蟲の羽音が聞こえてきた。男性は虫が自分の顔に近づいてきたと思い、手で払ったが手には何も当たらない。しかし、羽音は止まらないどころかどんどん音が大きくなってくる、男性は驚き思い周りを見回すが、辺りには何もいない。羽音はその間にもさらに音を増していき、まるで飛行機が近くを飛んでいるような騒音へと変わっていった。男性は耳を塞いだ。辺りは住宅街、なのにこの騒音に反応しているのは、男性一人だけのようだ。男性はだんだん怖くなり、その場から逃げ出した。だが、走っても羽音は消えない、それどころかさらに羽音の勢いは増していった男性のさらに恐怖し叫び声を漏らし始めた。

しかし、急に羽音は消えた。辺りは暗いが、どうやら高架橋の下らしい。不安が消えてないが男性は自分が相当酔っていると思ったらしい、自分の失態が誰かに見られていないことを祈った。

早く帰んないと妻にどやされるな…

男性は一人笑いながら帰路へ着こうとした、その時―”何か“がこちらを見ていた。男性はその何かを確認したとたん、身を見開き恐怖に怯えた。叫ぼうとしたが一瞬で距離を詰められそして口元を抑えられた。そのまま持ち上げられ、その時男性はこれが夢でも幻覚でもない紛れもない現実ということを悟る。足をバタつかせ抵抗するが、ビクともしない。苦しそうに恐怖の目を浮かばせている男性を見て、“それ”はニヤリと笑った。


朝、7時―目覚ましの音で目が覚める。

ああ、朝か、でも金曜日だ…頑張ろう

斗真は静かに体を起こしながら己を鼓舞し朝ごはんの支度を始めた。テレビをつければ報道番組が朝の占いをやっていた。

僕は…やった、1位だ

何にもない何てこともない幸福に少しだけ喜ぶ。占いの内容は―運命の相手に出会える―という内容だった。ラッキーカラーは赤色。運命の相手に出会えるという内容は今まで何度もあった。しかし、その都度何もなく一日が終わっていった。

期待なんかもうしない―

そう考えつつも、しっかりと作業着の下は赤色のTシャツを着て仕事場へ向かう準備を進めた。

ふと斗真はあるニュースが目に入る。それはここ最近起こっている殺人事件の暗いニュース。横浜で頻繁に犯行不明の殺人が多発していたが、最近になって斗真の地元である長野でも一か月間で何回もニュースになっている。

嘘だろ、すごい近くじゃないか…

今回被害にあった人はなんと斗真の住んでいる長野県内で起こっていた。しかも斗真の会社の近くで起こっていた。

被害者の男性は深夜の帰り道に襲われたらしい。

どこか他人事のような感覚で、ニュースを見ていた斗真に

⦅時間大丈夫か?⦆

”声“が響いた。昨日よりもさらにハッキリと聞こえたが、気のせいだろう…とにかく幻聴はまだ治ってないみたい。とはいえ、時間なのは確かだ。斗真は準備をして会社へ向かった。

斗真の会社は住んでいるアパートから徒歩で行ける距離だ、いつも余裕をもって出勤している。朝の日差しが暑い…そういえば今日は今年最初の猛暑日だとニュースの天気予報で言っていたな。会社へ向かっている最中、パトカーが何台も止まっているのが見えた。

「え、ここなの…」

今朝のニュースでやっていた事件はどうやら自分のアパートと会社の間に起きたらしい

パトカーが数台止まっている奥にブルーシートが被せてあり、見えないようになっていた。いつもより、車の通行量も多く人通りも激しい。だが、そのほとんどが野次馬のようだった。テレビの取材班も来ていて、カメラに向かって何かしゃべっている。

事故現場を横目に斗真は会社へと急いだ。


その時、事件現場には一人の若手刑事が聞き込みをしていた。

「おお、鳴海。ご苦労さん。それでどうだ?なんか聞けたか?」

若手刑事―鳴海亮に事件の様子を聞いてきた下腹が出ていて白髪を生やしながらもオールバックでヘアスタイルを決めている熟年刑事―大田が聞いてきた。

「大田さん、お疲れ様です。いいえ、目撃者によるとすでに被害者はあの状態になっていたということ以外は,…」

「現場は」

「こちらです」

鳴海は大田を案内した。幾層にも被せられているブルシートをどかしていく。事件の被害者が横たわっていたであろう、白のビニールテープが張ってある現場を確認した。

「被害者は、轟健一 55歳 会社員男性。昨晩は会社の社員と飲み会をしていたのを最後に目撃情報がありません。帰り道で襲われたものと思われます」

「死因は?」

「死因は撲殺と見られていますが一応鑑識に見てもらっています」

「なぜだ?死因がはっきりしているのだろう」

「それが、その…被害者の遺体の状況がまるで骨が抜けてるような状態でして」

「骨が?」

「はい。被害者は皮膚だけみたいになっていたみたいで」

「周辺に怪しいやつは」

「現在捜索中です」

ハァっとため息をつく

「今月で何件目だ?」

「今回で3件目になりますね、これまでとの事件との関連性を今確認中です」

都会でもないのにこんな物騒な事件が立て続けに起こるなんて…

大田は地元の長野を気に入っていた。自然豊かで事件も少ないため静かに定年まで過ごせると思ってたのに最近になって、横浜で頻発していた猟奇的な事件が世間を騒がしている。その殺人事件がここ長野でも発生していた。

「第一発見者は?」

「このあたりに住んでいる50代の男性です。朝のランニング中に発見したとの事です」

「一生のトラウマものだろうな…犯人に繋がるものは?」

「まだ発見されてません」

「犯行の仕方はここ最近で起こっているのと同じだな」

「犯人は同一人物ってことですか」

「決め込むのは早い気がするが、まあ、そうだろうな」

「周辺の聞き込みを再開しろ、監視カメラの映像もあるだけ集めろ!」

「はい!」

大田達が捜査を開始する中、死体の取り外しが行われていた。大田はそっと手を合わせた。

殺人事件が起ころうとも犯人は大抵捕まえてきた、しかし今回の事件の犯人に繋がる手掛かりは依然見つからない、おまけに今回のような事件は横浜を合わせれば十件以上も起こっており警察が頭を抱えている。どれも被害者は酷い殺され方をしていた。人の死に方じゃない。大田は犯人に対して静かな憤りを感じていた。刑事歴30年の誇りにかけて犯人は必ず見つける、大田は心の中でそう誓い捜査へ戻った。



今日も仕事は特に何もなく”声“を無視しながら終わる予定だったが、お昼過ぎに軽井沢の方に配達が出てしまった。今から向かえば帰りが遅くなるが仕事だ、仕方がない。

出かける直前、女性社員が話してるのが聞こえた

「今朝起こった事件ってうちの本社の人らしいよ」

「マジ?え、じゃあ会社の駐車場にパトカーが停まってたのって」

「今、本社の幹部たちから事情聴取受けてるって」

「やばぁ、誰なの被害者って」

「轟部長だよ、ほらあの」

「マジで!轟部長が!?」

「声大きいって!」

話を聞いて僕は驚いた、殺人現場が近いだけではなくなんと被害者は自分が勤めている会社の人間ということに。

僕は一抹の不安を抱えながらも配達の準備をし、現場へ向かうため高速道路へ乗り軽井沢へ急いだ。向かっている途中パーキングエリアで休憩中だった時”声”が語り掛けてきた。

⦅今日はいい天気だな、日の光がよく入ってくる。おかげで力が戻ってくる⦆

「はぁ?どういう意味だよ」

”声”が昨日と違いちゃんと聞こえてきた。だが不思議と声がちゃんと耳に聞こえたのだ、僕は無意識に声のする方へ顔を向けた。

すると、そこには黄色い靄のようなものを体に纏っており、まるで犬のような目元の部分だけ隠している仮面をつけている赤いローブを着た5、6歳くらいの少年が助手席に座っていた。

「おぇ!!」

変な叫び声を出してしまい、少年は僕その少年は僕の顔を驚いた顔を見て首をかしげてから何かを察し、嬉しそうに聞いてきた。

『ひょっとして俺の姿見える?』

「見えない!」

少年の方をバッチリ見て答えてしまった

『嘘!見えてんじゃん』

「見えない!黙れ!」

『やっと見えるようになったんだな!よかったぁ』

「待て!」

『今までずっーと無視されて寂しかったんだぁ』

「ぎゃあああああああぁぁぁぁ!!!」

あまりの現実離れした現状に思わず車内で発狂してしまった。

僕は深呼吸をしてとりあえず落ち着こうとするがうまくできず、過呼吸みたいな感じになっている。

『なぁ、どうして無視なんかしたんだよ!』

「ち、違う!俺は何も見えてない!」

あまりに焦りすぎて一人称が元に戻ってしまった僕は急いで車から転げ落ちるように出た。周りの人たちが変な目でこちらを見ている。嘘だろ、みんなには見えてないのか…?

幽霊?!いやまだ日が出てるぞ!違うじゃあ幻覚だ!もしかしたら夢かもしれない…

急いで自分の体を叩くが痛みはちゃんとある。少年は浮遊し、車内から窓ガラスをすり抜け滑らかな動きで近づいてきた。

『一応言っておくが、俺はお前の幻覚とか想像が生んだ産物とかじゃないからな』

僕は何かを言おうとするが言葉が見つからない。

『俺は、三木コトバ みんなからは”モチ“って呼ばれている。クォーダーだ、よろしくな』

少年―コトバは現状を理解できてない斗真を気にすることなく笑顔で自己紹介をした。


『なぁ…いつまでそうしてるつもりだ?』

あれから1時間。斗真は車のハンドルに頭をつけうずくまっていた。

コトバは車の天井をすり抜け、車の正面に回りハンドルからバァ! と顔を出し、斗真はのけぞるように驚いた。

「うおぉあぁ、やめろぉ!!」

斗真の驚き用にコトバはケラケラと口に手を当てて笑う。笑い方といい、やることはまんま5歳児だ。斗真は苛立ち何かを言おうとするがさっきから何を言っていいのか言葉が出てこなかった。ふと配達の事を思い出した。

しまった…もう3時だ。急がないと!

斗真はやっと車を動かし、軽井沢へと向かった。向かっている最中もコトバは助手席で周りの景色を興味津々で見ていた。まるで犬が外の景色を見るみたいに。とりあえず、斗真は少年を後回しにした。

配達を無事に終え帰った時にはもう辺りは暗くなっており、会社には誰も残っていなかった。斗真は急いで帰り支度をし、会社を出た。


現在19時この時間に帰るのは久しぶりだ。僕の会社はいわゆるホワイト企業に分類されるだろう。18時ごろにはもう社員のほとんどが帰宅しているし、給料だって悪いわけではない。都会でもなく大企業でもないうちの会社はとても珍しいと思う。そんな会社に僕は仕事がないためずっと定時に帰っていた。真面目に働いている人からすれば羨ましいと思うだろう。しかし、仕事を頼まれることなくただ会社にいるだけの給料泥棒が帰る瞬間というのは何というかほかの社員の人の目がとても鋭く感じて、いたたまれなくなる。もちろん僕の考えすぎかもしれないが、それでも会社の人たちの僕の対応の仕方などを考えるとどうしてもそう考えてしまう。僕は帰り道コンビニで夕飯を買い、帰路につくがその間ずっと後ろを振り向かないようにしていた。後ろには”奴“がいるからだ。こいつが僕の妄想と疲れによって生まれた幻覚じゃなければ、幽霊でもないと直感が訴えてる。ちょっとだけ背後を確認する。コトバは変わらずそこに浮いていて周りを興味深そうに見ていた。やっぱり周りの人たちは奴が見えてないようだ。

『ねぇ!みんなずっと板ばっかり見てどうしたんだ?』

スマホを知らないのか?教えてあげようとして、ふと我に返る。自分の妄想かもしれない奴になにを話しかけようとしてるんだと。僕は奴を無視して帰路についた。

アパートへと向かう最中ずっと奴は語り掛けてきた。僕の名前から、好きな食べ物やいつもしている仕事の意味など、いろいろ聞いてきたが全部無視した。声のトーンが高いせいかこいつが仮に幽霊だとしても全然怖く感じない、この状況はかなり怖がるべきだが。

暗い夜道だがパトカーがさっきから何台も横切っていく。ああ、今朝の殺人事件ここで起きたんだったっけな。そんなことを考えながら歩いていると、

「ちょっとすみません。少しお話いいでしょうか」

僕は振り向くとそこには自分と歳の変わらなそうなスーツを着た男性が警察手帳を見せながら僕に話しかけてきていた。

僕は少し警戒しながらうなづく。

この辺に住んでいるのか毎日この時間に帰っているのかなどいくつか質問をされている最中にもコトバは斗真の体をすり抜けるといったちょっかいを出してくる。それを大々的に嫌がれない。しかし体はくすぐったいような不思議な感覚になるため、妙に体が反応してしまう。その様子は如何にも挙動不審な人物に見えた。そんな僕を警察の男性は当然不審に思ったのだろう。

「身分を証明できるものありますか」

と聞いてきた。仕方なく免許書を見せた。

「ご協力ありがとうございます。」

とお礼は言ってきたものの、男性の目はいかにも怪しい者を見る目だった。

男性から離れたところでコトバに

「あれ、やめてくんない?」

『今まで俺を無視してただろ?そのやり返しだ』

「わかった!もうやめるから、悪かったって」

コトバは満足そうに笑い、飛んで行った。何か腑に落ちない。本当にわかってんのかな?

そんなこんな、丁度家の近くの工事現場に通りかかったタイミングでコトバが尋ねてきた

『それにしても不思議だなぁ』

「何が?」

『俺があんちゃんと一緒にいる理由だよ』

「そんなの俺が知りたいよ」

『そういえばあんちゃんの名前まだ聞いてなかった』

僕はワイヤレスのイヤホンを何も流さずにつける。これならワンチャン、ブルートゥースで会話していると思われるはずだ。たぶん。

「泉、泉斗真。俺の名前」

すると、コトバが止まる

「どうした?」

『イズミトウマ…歳はいくつだ』

「25になる」

『今西暦何年だ』

「2025年だけど」

コトバはまるで何かを再確認するように静かに聞いてきた。そして、何かブツブツと言い、考え事を始めた。

斗真はそんなコトバを置いて、1人歩き始める。

『あ、ちょ!待って、なぁお前ってもしかして。あに…』

コトバの問いかけを途中で強い風が吹き、コトバの声を遮った。

「うぉ!」

あまりにも強い風に顔を両手で守るように塞ぐ。

強い風と共に虫の羽音のようなものが聞こえてきた。羽音がとてもうるさく感じる。

あまりの強烈な音に耳を塞ぐ、うっすらと目を開けると人のようなものがこちらへと近づいてくるのがわかる。反射的に逃げようとするが、音がうるさく耳から手を離すことができず動けない。

『あぶない!』

はっきりと聞こえた声とともに自分の体が勝手に動いたのだ、状況が理解できないまま僕の体は僕の意を無視しさらに動き続けた。普段の僕にはできないような跳躍をし、外壁を伝い近くにあった2階立ての屋根の上に僕は居た。

何が何だか訳が分からない、と―その時頭の中に久しぶりに声が響いた。

『大丈夫か?怪我はないか?』

それは、コトバの声だった。

「今どうなってんの」

『お前の体をちょっと借りてる状態だ、いやー間に合ってよかった』

「僕、もしかして今体乗っ取られてるの!?」

『簡単に言えばそうだ!しかし!緊急事態だ、お前の命が狙われている!』

「狙われているって誰に!?」

『あいつだ』

視線が勝手に動く。視線の先には人の形をした異形の存在がこちらを見ている。視野がだんだん慣れてきてその”何か“が見えた。それはまるでバッタを人の形にしたような怪人だった。

「あれは何!?」

『わからねぇが、絶対普通の奴じゃないってことはわかるし、奴から異様なほどの殺意が感じてとれる』

怪人は一気に跳躍し、僕らとの距離を詰めてきた。背中の羽が擦れあい異常な暴音を浴びせてきた。さっきのはこれか…

耳を塞ぎ、音を遮断したいが体が全然いうことを聞かない、と思ったらいきなり側転しだし僕はおもわず うぉっ と情けない声を出してしまった。さらに跳躍し怪人との距離を空けた。

ふと音が止んだことに気づく。

『なるほど、そういうことか』

今の動きでコトバが何かを理解したようだ。

怪人はさらにその人間離れした剛腕で僕らを攻撃してきた、ありえない速さでとても目では追えるはずがないのに僕の目は、体は、反応して相手の動きに合わせおまけに反撃までしていた。

気持ち悪い…まるで外せない絶叫系のVRをつけられているような感覚だ。さらに相手の攻撃をいなした時や反撃に殴った感触は本物のそれだった。唐突に左腕に衝撃が走る

「うぐぁっ」

痛みを感じた左腕は赤く染まりよく見れば所々出血し両腕はすでにボロボロだった。コトバは僕の腕をみて

『あ、ごめん』

と一言謝った。だがすでに腕はその一言で済むほど尋常じゃないほど傷を負っていた。

「やめて、もうやめて」

僕は痛みと混乱から泣いてしまった。

『男が泣くな!たく、しょうがね、夜だけどやるしかないな』

コトバは僕の手をクロスし、そして腕に力を込めて引き、もう一度胸の前で手を広げた。すると、そこに黄色い炎のようなものが出現し、それはやがて一つの仮面のようなものに姿を変えた。その仮面はコトバが付けていたものと一緒の物だった。

コトバはそれを手に取り、僕の顔につけた。つけたとたん黄色い炎が体を覆い、やがて赤い衣が僕の体を纏っていた。ふと自分を映した建物の窓ガラスを見た。顔はコトバがかぶっていた犬のような兜のような仮面を被り、体全体は赤いローブのようなものを身に着け、先ほどとは違い小手のようなものが付き、胸の所には不思議な形の首飾りがある。

「何これ…どういうこと」

今日それしか言ってない気がする。

『いわゆる、“変身”ってやつだ!しししっ』

相変わらず頭に声が響く

『さぁ、仕切り直しだ』

先ほどの怪人がこちらへ向かってくる。コトバは構えなおし迎え撃つ姿勢を取った。

不思議な感覚だった、服装が変わっただけに見えるのに体が軽くなって妙に懐かしい感じがし、とても落ち着く。さっきまでの不安と体の痛みが嘘のように消えてなくなった。

そんな感覚になっていると

『落ち着いたか?』

「少しね、何したの?」

『ほんの少し俺の力を開放しただけだ。まだ全開とまではいかないがこれならあいつ程度問題なく倒せる…!行くぞ!!』

一歩踏み出し反撃を行おうとしたその時、足が豪快に躓いた!

『「あれ!?」』

僕らは派手にそして無様に転んだ…

怪人もそんな僕らを数秒ただ見ていた。がそのあと、怪人は自身の羽の使い風と暴音を引き起こし、無様に転んだままの僕らを建設中の建物に吹き飛ばした。建物内のコンクリート柱にたたきつけられた、が全然痛くない…

『まだ、慣れないな』

コトバは埃を落としながら立ち上がった

体が思うように動かせないのか足元がおぼつかない

『おいトウマ、見てないでお前も手伝ってくれ』

「え」

『今この状態は、俺の本体に宿っている肉体の記憶をトウマお前の体に流し込み尚且つ纏わせている状態だ。だからほんの少し俺が自分の体を動かす感覚でいくには勝手が違うんだ。強い一撃を出すにはお前の心と俺の心が最高にリンクした時じゃないとダメなんだ』

「要はタイミングを合わせろってこと?」

『そうだ』

怪人が追撃しに建物内までやってきた、怪人は拳を握りしめ僕らに殴りかかってきた。それらをガードしたり、受け流そうとするがうまくいかず何撃かくらってしまい、最後に思い蹴り攻撃をくらい僕らは再度コンクリートの壁にたたきつけられた。

『おい!ちゃんと動けよ!!』

「動かそうとしてるよ、けど全然あいつの動きが見えないだよ」

『見よとするな、感じろ』

「どうやって?」

『知るか!』

中々、理不尽にもうだんだん腹が立ってきた

「おいふざけんなよ!こっちは体提供してんだ、もう少し言い方ねぇのか!」

『ああ?なんだとゴラー!テメーだって俺が自身の記憶纏わなきゃ一瞬で死んじまうくせに』

「この状況になったのお前のせいだろ!」

『なんだと!大体おまっ ぶっ!!』

僕らが内側でケンカをしていると怪人が顔に一撃。さらに追い打ちで腹に一発、最後にもう一度顔に思いっきりアッパーをくらった。

流石に痛い…コトバもそう感じたのだろう

『お、おい、一回真剣にやろう、な?じゃないとマジでヤバい』

「そ、そうだね」

『おいトウマ、おまえヒーローとか興味ないか?小さいころ憧れてたヒーロー』

「ああ、うん。いたよ」

『真面目にそいつになった気で戦えば、うまくいく。俺が合わせるから俺を信じて体を動かせ!』

信じろって…この状況で一体なにから信じればいいんだよ…でも、僕は構えた。かつて憧れたヒーローのように怪人が跳躍して距離を縮めてきた。僕は怪人の動きに合わせ手をクロスし、今度こそコトバと僕は怪人の一撃を受け止めた。衝撃が地面にまで伝わりひび割れた。

「おおおおぉぉぉっ」

雄たけびと共に相手の攻撃を弾き飛ばした。怪人は初めての反撃に体制を崩した

『行くぞ!』

コトバの掛け声とともに拳を握りしめた、すると先ほどの黄色い炎が放出され僕らは怪人に向け拳を放った!怪人の左胸に直撃し、怪人は建物の外まで吹き飛ばされた。

『手ごたえアリだ!』

相手の姿を確認するが、外には怪人の姿はなかった。しかし、濃い体液らしきものが地面にべったりとついていた。

『倒せてはいないけど、確実にダメージは負ってんな』

「また、襲ってくる?」

『たぶんな、だが当分は大丈夫だろ。この出血量ただの怪我じゃすまないし、あと相手人間だな』

コトバの言葉に耳を疑った

「は?!人間!あれが?」

僕が驚いているとコトバは一人でブツブツとまた何かを言いだしてる。

『確実に“あの件”が絡んでんな…』

「”あの件“って何?」

『詳しく説明する必要があるな、場所を変えよう。なぁに心配するな、全部兄ちゃんに任せろ!』

「わかったよ…………今なんて言った?」

『兄ちゃんに任せろって言った』

兄ちゃん??僕から見ればコトバは小学生低学年ぐらいの男の子だ。どうしても年上には見えない。そんな斗真の気持ちを感じ取ったのかコトバが思い出したように笑う

『そうか、これしてるからわかんねぇのか』

コトバは仮面を外した。少年の顔が見える、とても澄んだ瞳をしていて将来はきっとイケメンになるだろうって顔立ちだった。

だが、わからない。彼は何が言いたいだろうか?

『俺は”三木コトバ“と今は名乗っているが、旧姓は”泉 言葉“正真正銘、トウマ、お前の兄ちゃんだ!』

2人の間で沈黙が走る。

「僕の兄は僕が生まれて間もなく交通事故で亡くなった」

『ああ、覚えてる。雨の日だった、大型トラックに轢かれた。』

「いや、ありえない!そんなはずは…」

僕は仏壇に置かれている兄の写真が頭によぎる。呼吸が荒くなってゆく、深呼吸をし、もう一度少年の顔を見る、その顔は仏壇に置かれている写真と瓜二つ!でも少し成長した顔立ちをしているが他人の空似というレベルではない!

ああ、あああ!

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!』

斗真は発狂しそれにコトバも驚き、二人で叫びあった。そんな二人を置いて、夜が明けた


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