せーけーさんとまっくろおばけ
初めましての方は初めまして。
cigarette読んでいただいてる方はこんにちは冬草です。
休みだったので昨日言ってたホラー書いちゃいました。
背筋が凍るかは分かりませんが、良ければ読んでください。
私程度の絵柄ですがイラストありですので、怖い絵が苦手な人はイラストオフってくださいまし。
「もぉうぅーかぃいぃ。」
心臓の音が耳に痛い。
この密閉された空間の中で、静寂の次に私の耳に届いたのは徐々に大きくなって行く自分の鼓動だった。
教室の扉が開いた音と、私の「もういいよ」か「まーだだよ」の一言を引き出すための、男子とも女子ともつかない声が私の鼓動を早くしているのは明確だった。
閉じたロッカーの隙間から外を見る。
息が漏れないように、声が漏れないように口を塞ぎながら。
扉を開けて此方を覗いているのは人の姿をした何者か、としか形容のできないものだった。
髪の毛はないけど服は着ている、スカートも履いている。
目も二つ、耳も二つ、鼻と口は一つずつ、腕も足も二本ずつ。
パーツのそれぞれを見れば人間のはずなのに、サイズや付いている場所がおかしく、動きがぎこちないし、体が妙な形に捻じ曲がっている。
「もーかぅいいイィぃ?」
この言葉もそうだ、そしてこの声も。
口は付いているのに動いていない。
本当は見ないほうがいいはずなのに、どうしても見てしまう。
ギョロリと、普通の人にと同じところについている筈なのに左右の目が上下に少しずれている目が別々の方向を見る。
「ッ…」
…私では無い誰かが声を上げた。
ぴたりと、ソレが足を止める。
そのまま、足を動かさずにソレは教壇の方にスライドした。
机と椅子を意にも介さず、薙ぎ倒しながら。
「アッ!あぁあああぁぁあぁああああああああっ!!」
教壇の中から影が飛び出す。
隣のクラスの名前は知らない可愛いと噂の女の子。
「いっつけぇっぁっ!」
ぐるぐると、ソレの首が、回る。
パトカーの上についているライトのように。
腕と足を滅茶苦茶に振り回しながら逃げ出した女の子を追いかけ、開いた扉から出る前に女の子は捕まった。
「ぃみはーー、ぇ?ぁな?ぁとはぅび?いっぁいあえぇ!」
「いや!いやぁああああああ!!!私!私じゃない!せーけーさん!私じゃなくて!!ニナから取ってよ!」
薙ぎ倒された机と椅子の隙間から、馬乗りになっているソレと、馬乗りされている女の子の様子が見えた。
ソレが女の子の体にゆっくりとくっつく。
顔は顔に、体は体に、手は手に、足は足に重なるように。
「んーーーーーっ!ムーーーーっ!!」
くっついていく。
ピッタリとくっついて。
そのまま女の子もソレも動かなくなる。
数秒経って、ピクリと女の子の指とソレの指が跳ねた。
そして、ベリベリベリベリとマジックテープが剥がれるみたいな音と
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーっっぁあああああああっっっっっっ!!!!??」
女の子の叫び声。
思わず目を閉じてしまっていて、何がおこっていたのかはわからない。
「ーーーーぉぉぃぃぁーーー…。」
恐らくアレが立ち上がる音と、女の子が叫び終わった後、そして結構な時間が経って遠ざかっていくアレの声を聞いてようやく薄く目を開く。
アレの姿はもうなくて、目の前には顔を手で覆ってーーっ?
掌だけしかないソレは手と呼んでいいのだろうか。
女の子の指はなかった。
「嘘、嘘、ウソ、何も見えない。電気が消えたの?真っ暗で何もーー。」
そう言いながら、掌だけを付いて立ち上がって、こちらをーーー。
叫び出さなかった自分を褒めてあげたい。
バクバクバク、心臓の音が上がるのがわかる。
あの子は指だけじゃなくて、目も鼻も無くなっていた。
ぽっかりと、黒い穴が目があったはずの場所に空いていた。
鼻も、きれいに無くなっている。
断面も見えるのに、なぜか血は一滴も出ていなかった。
「あ…れ…?つかめない…?指?私の、指は?」
今理解した、あの化け物はこう言っていたんだ。
目、鼻、後は指。
あの子はその三つを奪われた。
「いや、いや…なんで…私はニナちゃんのが欲しかっただけなのに…なんで私がーーーっ?」
フーッ、フーッ。
「何…これ…?臭っ、毛?」
私は、こっちは知っている。
さっきのはなんなのか知らないけれど、こっちのやつは知っている。
でも、これは、先生達が低学年の子達を早く返すために作った嘘だって、先生本人から聞いたのに。
なんで本当にいるの?
暗い暗い夜より黒い真っ黒な毛。
とてもとても大きな、人と同じ真っ白い歯が並んだ口、二足歩行で歩く毛むくじゃらの生き物。
頭に二つ、体毛よりさらに黒い巨大な黒目が二つ。
『まっくろおばけ』がさっきまで閉じていた大きな口を開けて女の子を見ていた。
ハーッ、ハーッ。
「い、犬?え?でも、私今、立って。」
ボトボトボトボトとまっくろおばけが口から沢山の涎を垂らしてーー。
「え?何?何?えっ?えっーーーー」
あの子の首から上が無くなった。
首から上にはまっくろおばけの顔。
口の端っこを上げて黒目が歪む。
まっくろおばけは笑っている。
叫び出したいのを我慢する。
まっくろおばけは叫んだり、悲しんだりしていると見つけてその子を食べてしまう。
頬を一筋液体が通って口を塞いでる指に当たった。
どうして、私がこんな目に遭わなければならないのだろう。
いつものように学校に来て、いつもの様に勉強して、いつものようにご飯を食べて、掃除をして、後は帰るだけだったのに。
ーーまっくろおばけはそのまま首を捻った。
首から、血。
噴水の様に吹き出す血。
まっくろおばけは口を開いて、開いたままに何度か噛んだ。
黒い毛に飛んだ血、真っ赤な真っ赤な血。
「あ“は“、あ“は“は“は“は“は“は“」
野太い女の人の声が濁ったみたいな声でまっくろおばけが笑う。
そしてじろりと崩れ落ちた首から下を見てーーその大きな両腕で叩いたーーと思う。
怖くて怖くて仕方がなくて、私は目を閉じた。
グチュリ、と音が鳴った。
粘性の水に手を置いたかのような。
ヌチュッと嫌な音が響く。
恐らく手を挙げたのだろう。
「あ“は“!た“の“し“い“!た“の“し“い“!も“っ“と“!も“っ“と“!」
バンバンバン!バンバンバン!バンバンバン!
規則正しく、3回ずつ、地面を叩く音が何度も何度も聞こえる。
そしてグチャリという音も。
その音に混じって無邪気な野太い笑い声。
声を出しちゃいけない。
声を出せば次に狙われるのは私。
あの子には悪いけど、私はまだ死にたくない。
あんな風に死にたくない。
頼むから、満足したら早く出て行って欲しい。
バタバタバタっと血が飛び散る音。
何かが持ち上がって、何かが溢れて落ちる音。
何かが喉を鳴らす音。
野太い笑い声。
何かが噛み潰される音ーーー。
ーー気付くと音が消えていた。
ゆっくりと、恐る恐る目を開けた。
床一面が赤くなって、女の子がいたはずのその場所には真っ赤に染まった服とぐちゃぐちゃになった何かだけが残っていた。
思わず吐きそうになる。
お昼ご飯に食べた、唐揚げとトマトの味が喉に競り上がってきたのがわかった。
「ーーぉぉぅぃぃぁーい。」
さっきのアレの声が聞こえて、慌てて飲み込んだ。
気付くと、私は目を閉じていた。
…そうだ、こんなことあるわけがない。
これは夢、夢なんだ。
そう思いながらぎゅっと、目に力を込める。
「おぉういっぃいかーぁぃ」
ぺたぺたと足音が聞こえる。
どうやらまた、この教室の中に入ってきたらしい。
でも、これは夢。
きっと、これは放課後の教室で私が眠っている間に見てしまっている夢。
鮮明に見えたあの状況も、未だに香る血の臭いも、獣の臭いも、トイレの中でしか嗅いだことのないような悪臭も。
きっときっと全部嘘。
全部夢。
ギッ。
「ーーぉぉぅぃいーぁい。」
ギィィ。
だから、今聞こえてきている
ギィィィィィィィ。
この扉を開く音も。
ギィィィィィィィィィィ。
ガタンッ。
「もう、いいかい?」
読了ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。
此処からは、今回出てきた登場人物と怪異の説明しときますね。
【登場人物】
女の子(主人公)
ロッカーに隠れていた女の子。
とある人物から羨まれてせーけーさんを呼ばれてしまう。
せーけーさんの怪談は知らず、唐突に校内で聞こえた「もういいかい?」の声を聞き直感的に隠れ、ことの一部始終を見てしまう。
精神が鋼。
女の子 (カナ)
教壇の下に隠れていた校内でも噂の可愛い女の子。
恐怖に耐えきれず声を漏らして哀れ餌食になってしまう。
どうやらニナちゃんという子の目と鼻と指が欲しかった業突張り。
ニナちゃんが見つかったかどうかは不明だが、恐らく先に見つかった為目と鼻と指を奪われる。
楽屋裏の御本人様曰く、せーけーさんに奪われる時は超がつく激痛が走るらしい。
叫んだ結果まっくろおばけにも見つかってもぐもぐされる。
合掌。
ニナ
この学校の何処かに隠れているであろう女の子。
カナに巻き込まれた。
本名はニーナ、1週間前に海外から親の仕事の関係でやって来た転校生。
クラスでは妖精さんみたいと言われていたとか。
ニナが来てからカナの話が減ったとの噂。
どうなったかは不明。
因みにこの子はせーけーさんの噂もまっくろおばけの噂も何も知らない。
【怪異達】
『まっくろおばけ』
黒い毛の怪異
真っ黒な毛の生き物とだけ表現されている子供達の怪談。
ある時間を越えて学校の中で叫んだり、悲しんだりしていると毛むくじゃらの怪物がやってきて、食べられてしまう。というもの
最初は生徒の早期下校を推奨するために学校側が流した噂だったが、今回のせーけーさんの話と共に実体化、せーけーさんが奪い残った身体を食べるゴミ処理係をする。
ニナちゃんを狙っていたあの子 (カナちゃん)は叫んで自分自身の現状に悲しんだ為に見つかり食べられてしまう。
『せーけーさん』
かわいいあの子の〇〇が欲しい。
と言いながら、紙(どんな紙でも構わない)に赤い色(赤ければ何で書いても構わない)で交換したい部分の絵を描くと現れる。
血で書けば効力が増すという噂がある。
願った子の体の部分と願われてしまったあの子の部分を(物理的に)交換してくれる。
ただし、交換には条件があり、かくれんぼをする必要がある。
かくれんぼには以下の条件がある。
1.お願いをした子とお願いをされた子が隠れ、現れたせーけーさんに先にお願いをされた子が見つかったら交換してくれる。
2.逆にお願いをした子が先に見つかったら願った体の一部をせーけーさんに奪われる。
3.かくれんぼは「もういいかい」と聞かれてからスタートする。
主に、女の子が別の女の子にすることが多い。
今回の話は複数の女の子が複数の女の子との交換を同時に願ってしまった為にせーけーさんが混乱してしまっている状態で現れてしまった異常事態となっている。
せーけーさん自体は一人でしか現れることのできない怪異の為、どの願いがどの子のものなのかわからなくなっており、体をストックしてから、欲しがっている子にプレゼントをする能力が備わっている為にこのような状況が怒っている起こって、怒っている。せーけーさんは起こっている。自分より恵まれて生まれている怒っている。人たちに怒っている。人間に怒っている。底無しの欲望に怒っている。怒っている。とてもとても怒っています。わたしはおこっています。つぎはあなた、つぎはわたし、わたしのねがいを、わたしはきれいになりたい、あなたの、あなたの、めを、あしを、くち、きれいなおはなをちょうだい?
「見ぃつけた。」