お題「雪の女王」「天に届く塔」「トラップ」
「さ、今日の配信もやってくよー!」
『わこつー』
『わこつー』
『待ってました!』
『あれ、ここどこ?』
配信のボタンをタッチすると同時に現れた光の玉。配信を始めてからもう一月半。この光の玉型のカメラも見慣れたものだ。
そして視界の端に設置したコメント欄に流れるコメントたち。私は「こんにちは」と返しつつ、その中に気になったコメントを見つけて笑みを浮かべた。
「ここはね、『天に届く塔』のダンジョンの中だよ!」
『天に届く塔』はその名の通り、一階から順に登っていくタイプのダンジョンだ。
各階ごとにそこそこの広さのダンジョンが広がっており、モンスターを倒したりトラップを避けたりしつつ上の階へ繋がる階段を探す。そして五階ごとにボスモンスターとの戦闘になる。いわゆるステレオタイプのダンジョン。
普通のダンジョンと唯一異なるのが、このダンジョンには終わりがないということ。それこそ天に届くんじゃないかと思えるくらい。
今日は休日。朝から『天に届く塔』のダンジョンにソロで挑んでいたんだけど、ちょっと面白いことが起きたから配信を開始してみたのだ。
思考操作で光の玉をぐるりと一回転させる。そこには『天に届く塔』で見慣れた石造りの壁……ではなく、氷で覆われた土の壁があった。
『え、なにここ』
『本当に天塔?』
『まさか……未発見の隠しフロアか?』
見慣れないフロアを映したためか、コメント欄が一気に沸き立つ。
「ピンポンピンポン、大正解! えっとね、十八階で転移トラップを踏んだら、ここに飛ばされたの」
そう、ここは『天に届く塔』ダンジョンの隠しフロアなのだ。マップ情報を見ても階のところが『?』とクエスチョンマークになっている。隠しフロア共通の表示だ。
いちおう掲示板で検索してみたんだけど、それらしき情報は引っかからなかった。隠している人がいないのであれば、私がこの隠しフロアに到着した初のプレイヤーなんだと思う。
「このフロアに転移してからまだ動いていません。見たところこの部屋には何もないようだから、あっちの扉の先に何があるのか、生配信で映していくよ! ま、多分ボス戦だろうけどね」
部屋に唯一ある鉄の扉を指差す。隠しフロアでこんな部屋まで用意して、この先がボスじゃないなんてことあるだろうか? いや、ない!
『わくわく』
『期待』
『全裸待機してます』
いや、冬なんだから服は着ようよ。流れるコメントにそんな突っ込みを入れつつ、扉に手をかける。
配信を始める前にHPやMPは回復させておいた。さあ、いざ行かん!
扉の先に広がっていたのは、さっきの部屋よりも分厚い氷に覆われただだっ広いスペース。凍った石柱が等間隔に立っている。そして、一番奥には、やはりボスモンスターが佇んでいた。
見た目は長身の女性。水色のドレスに身を包み、白雪のような髪をなびかせている。
「名前は『雪の女王』。……って、レベルにひゃく!」
『は?』
『は?』
『200は酷すぎ笑』
現在のプレイヤーのレベルキャップは80。ちなみに私はレベル78で、今はソロ。うん、これは……無理!
再び沸き立つコメントたちを視界に映していると、雪の女王が動いた。白磁のような指をこちらに向け――。
次の瞬間、私のHPはゼロになっていた。
オチが書ききれませんでした、というオチ。