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お題「ギブアンドテイク」「指輪」「お昼前」

『プレイヤー「ヒサキ」と結婚します。よろしいですか?』


「もちろん『Yes』ですよーっと」


 パソコンの画面に映し出された選択肢。『Yes』のボタンにカーソルを合わせてクリックすると、一瞬の暗転のあと、画面いっぱいに花びらが舞いあがった。花びら舞い散る中、白いタキシードを着た私のキャラクター「タイト」と、白いドレスを着たヒサキちゃんがキスのモーションをする。

 そんな幸せの最高潮にいるキャラクターたちを横目に。私はアイテムボックスに入ったアイテム『結婚指輪』のステータスを見て、ディスプレイの前で一人ガッツポーズを決めた。


「よっしゃあ! 高ステの指輪ゲット!」


 MMORPG『フェアリー・アイランド』では、ゲーム内のキャラクター同士で結婚をすることができる。その際貰えるアイテム『結婚指輪』はランダムでステータスが決まり、しかも一度決まったステータスは離婚するまで変わらない。一種のガチャのようなアイテムとして有名だった。

 それにしても、まさか一回の結婚で高ステータスが出るとは思わなかった。正直、何回か試すつもりだったので、結婚費用のゲーム内マネーも浮いてホクホクである。


『どう? いいアイテム出た?』

『高ステの指輪出たよ! スクショ取ったからあとで送る!』

『良かったね。こっちも助かったよ』


 式場の舞台であるマップでヒサキちゃんとチャットを交わす。相変わらずとても可愛らしいキャラクターで見ていてほっこりするのだが――実はネカマ、つまり現実では男性である。しかし、ネカマだとは公言していないため、そういう類の申し込みが絶えないと相談を受けたのがつい数日前のことだった。

 私もネナベであることをヒサキちゃんだけには伝えており、ついでに前から『結婚指輪』のアイテムも欲しかった。だから私たちで結婚してしまえば良くない? と安易に考え……。そして本当に結婚するに至ってしまった。ギブアンドテイクの関係である。


『これからもよろしくね』

『こっちこそよろー』


 その後、始終にやにやが治まらないまま。ウエディングドレス姿のヒサキちゃんとチャットしたり、そのまま狩りへ行ったりして、夜更けまでゲームを楽しんだのだった。


 ◇◇


「お疲れさまです。なんだか眠そうですけど、大丈夫ですか?」


 翌日のお昼前。一人でこっそりランチに出かけようとしたとき、同僚の男性とエレベーターでばったり遭遇してしまった。女性たちの間でイケメンと称されているだけあって顔は整っているし、仕事もできるらしい。とはいえ、ゲームが恋人の私には関係ない話なのだが……。


「あ、お疲れさまです。いえ、これは昨日ちょっと夜更かしをしてしまっただけでして……」

「夜更かしは肌に悪いですよ。まあ、そういう僕も昨日はゲームをしてて寝るの遅かったんですけどね、あはは」


 苦笑いをしながら頭をかく同僚。このイケメンでも夜遅くまでゲームをすることがあるらしい。私は「そうなんですか」とだけ相槌を打って、エレベーターが止まるのを静かに待つことにする。


「……あの、なんていうゲームですか?」


 しかし、生粋のゲーマーである私が、このイケメンがどんなゲームをしていたのか興味が湧くのは当然の摂理。エレベーターから降りてそのまま別れるつもりだったのだが、好奇心に負けて思わず声をかけてしまった。

 彼は一瞬だけ驚いたように口を開けたあと、子どものような無邪気な笑顔を浮かべた。


「『フェアリー・アイランド』っていうオンラインゲームです! それで僕、実は昨日、ゲーム内で結婚したんですよ!」

「……あの。もしかして、ヒサキちゃん?」

「へ……? え、えっ? も、もしかして、タイトさん!?」


 このあと、二人でランチをしながらゲームの話で盛り上がったのは、言うまでもない。

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