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お題「七夕」「交差点」「ホットケーキ」

「どうぞ、新しくオープンした洋菓子専門店です! ぜひ寄ってください!」


 会社の帰り道。駅の前にある大きな交差点で、黒いシックなエプロンを着た女性からチラシを受け取った。どうやら商店街の奥に新しく洋菓子店ができたようだ。

 信号が青に変わるまでの間、暇つぶし程度にチラシに目を通す。お店の場所は帰り道のすぐ近くのようだ。

 駅前の広場に設置された時計を見ると、いつもよりも一時間ほど早い時間を指していた。今日は仕事が早く終わって珍しく定時にあがったため、時間に余裕がある。どうせだし寄ってみるとしよう。


 青に変わった交差点を渡り、商店街のゲートを潜り抜ける。普段は混雑を避けるために商店街の中は歩かないのだが、洋菓子店へ行くにはここを突っ切るのが一番近いのだ。

 商店街を歩くこと数分。あちらこちらの店先に短冊や切り紙の下げられた笹が目に入ったことで、ようやく今日が七月七日――つまり七夕であることを思い出した。


「……そうか、七夕か。ふふ、七夕になると、つい昔のことを思い出すな」


 父親が早くに亡くなったこともあり、私は貧しい家庭で生まれ育った。そんな貧しい生活の中、しかし毎年必ず、母親が七夕の日にホットケーキを作ってくれたのだ。

 なぜホットケーキなのかは分からない。理由を聞いた気もするが、詳しいことは忘れてしまった。ただ、年に一回の贅沢を楽しみにしていたことだけは覚えている。


「おっと、ここか」


 そんな懐かしい思い出に浸りながらしばらく歩き。あと少しで商店街を抜けるというところで、ようやく目的のお店を見つけた。

 駅から少し歩くこともあるのか、とても繁盛というわけではないが、そこそこにお客の出入りがあるお店。店内に入ると、小麦粉と甘い香りが鼻をくすぐってきた。


「いらっしゃいませー!」


 元気な声で出迎えてくれた店員を横目に、さっそく店内をうろうろしてお菓子を眺めていく。ケースの中には定番のイチゴのショートケーキやモンブラン、棚にはクッキーやバウムクーヘンなど……。どれも美味しそうなお菓子の中、先ほどまで思い浮かべていたケーキを見つけ、思わず店員に声をかけた。


「すみません。このホットケーキ、お持ち帰りできますか?」


 ◇◇


「ただいま」

「お帰りなさい」

「パパおかえりー!」


 家の玄関を開けて声をかけると、ダイニングから妻と娘が出てきて迎えてくれる。抱き着いてくる娘の頭を撫でたあと、私は持っていた袋を掲げた。


「ほら、お土産だぞ」

「わあっ、あまいにおい!」

「あらあら、どうしたの?」

「商店街の端に新しく洋菓子店ができていたんだ。今日は七夕だし、ホットケーキを買ってきたぞ」

「「ホットケーキ?」」


 顔を見合わせて首を傾げる妻と娘。予想通りの反応をしてくれた二人を見て、私は思わず苦笑したのだった。

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