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お題「鳴り止まない目覚まし時計」「机の上はぐちゃぐちゃ」「大それた夢」「なんだそのため息は」「報告は以上です」

 私には大それた夢なんてなかった。

 昔から機械を弄るのが好きだった。時計やラジオなど、面白そうなものを分解しては親に怒られていた。大人になってもそれは変わらず。ただ興味の赴くままに、好きなように機械を弄っていただけだ。それが偶然、世紀の大発明となって――。戦争の引き金になりかけた。


 いったいどこで間違えたのだろうか。何を失敗したのだろうか。鳴りやまない目覚まし時計をBGMに、私は何度も何度も考え続ける。

 机の上はぐちゃぐちゃで。それはまるで私の頭の中を表しているようで。もういっそ、全てを洗いざらい吐いてしまえば、楽になれるのだろうか。

 設計図の入った引き出しに手をかけ……。しかし、コンコンと扉をノックする音が部屋の中に響き、慌てて机の上に伏せた。


「失礼します」


 入ってきたのはメイドだった。数年前、友人の勧めでなんとなく雇ったのだが、礼儀正しい女性でよく気も回る。作る料理も美味しいし、今となっては欠かせない存在である。

 足音は私の傍で止まり、同時に目覚ましの音も止まる。次にため息の音が聞こえた。


「もう、またそんなところで寝て……。ほら、早く起きてください。風邪をひいてしまいますよ」


 なんだそのため息は……。まるで駄目な私を表しているようではないか。思わず心の中で失笑してしまう。

 けれど、絶対に戦争を引き起こすわけにはいかない。ゆえに私は悩みつつ、今日も演じ続けるしかないのだ。


「……はは、いつの間にか寝てしまったみたいだ。ごめんよ。いつまで経ってもまともな発明一つできない、駄目な私で」


 ◇◇


「――今週の報告は以上です」


 電話口で女からの報告を聞き終え、私は瞑っていた目をそっと開いた。

 彼の記憶がなくなってから、かれこれ七年。こちらの手の者をメイドとして雇わせ様子を見させているが、一向に記憶が戻る兆候はないようだ。


「そうか……。分かった、引き続き様子を見てくれ」

「かしこまりました」


 女が丁寧に電話を切ったのを確認し、こちらも受話器を戻す。椅子に沈み込むように背中を預けると、深くため息を吐いた。


「全く、いつになったら記憶を取り戻してくれるのだろうか……。あの設計図さえあれば、いつでも戦争を始められるというのに……」


 ◇◇


 私は報告を終えると、メイド服を脱ぎ捨ててベッドに横になります。全身を包み込んでくれるような、ふかふかな感触。しかし、それはベッドに限った話ではありません。彼が用意してくれたこの部屋は、本来ただのメイドが使っていいような部屋ではありません。


「どこまでもお人よしなんですから」


 私は小さく微笑みながら、彼の顔を思い浮かべます。常に何かに悩みながら、それを悟らせまいと懸命に作っている笑顔。

 彼はきっと、すでに記憶が戻っているのでしょう。いつも座っている机、その上から二番目の引き出しの底に、例の設計図があることはもう気づいています。そして、たまにその引き出しに手をかけ、頭を抱えていることも……。


 しかし、彼にも雇い主にも悪いですが、まだこの幸せな時間を崩すつもりはありません。私は今、愛する彼といられて幸せなのです。

 たとえそれが、嘘に塗れた時間なのだとしても――。

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