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お題「見て見ぬ振りをする」「カメラ」「午後」

 私はカメラを通して見る景色が好きだ。いつもの日常が、平凡な風景が、なんてことのない物が、みんなキラキラして見えるからだ。

 昔、お父さんが言っていた。


「カメラはね、思い出を残すだけじゃなく、一瞬の輝きを切り取ることもできるんだ」


 当時の私はその言葉の意味が分からなかった。だって、写真に景色も思い出も残るのは当たり前のことなんだから。

 ……いや、違うか。今だって本当の意味では分かっているとは言えない。ただ、そのときお父さんが言いたかったことだけは、何となく――。本当に何となくだけど、分かってきたように思える。


「ほら、君もこっちに来て」

「……やだ」


 ある日の午後。とある小学校の遠足でカメラマンを頼まれた私は、一人の少女と出会った。その少女は昔の私にどこか似ていた。顔や髪型ではない。カメラが嫌いなところが、だ。

 その少女のことは放っておけばいい。別にその少女が全く映らないわけではないのだし、自ら写りたくないと言っているのだから見て見ぬ振りをするだけなのだ。

 それでも、私はその少女のことをどうしても放っておけなかった。


「友だちと一緒に写れば、宝物になるよ」

「友だちなんていないし」

「え、うーん……」

「別に写らなくてもいい。思い出なんていらない」

「……じゃあさ、一緒に写真撮ってみない?」

「え?」


 驚いた様子の少女に予備のカメラを渡す。予備のカメラは二台あるし、一台くらい貸しても問題はない。簡単な撮り方を教えてあげると、少女は興味を惹かれたようにカメラのレンズを覗き込み始めた。


「どう? うまく撮れそう?」

「……ぼやっとしてる」

「ああ、ピントが合ってないんだね。その場合は、ここのダイヤルを回して……」

「あ……きれいになった」

「じゃあ、撮ってみて」

「うん」


 緊張したようにシャッターを切る少女。カシャ、という音が静かに鳴る。いったんカメラを返してもらい、今撮影した映像をディスプレイに映してあげると、少女の目が輝いた。


「わぁ……!」

「綺麗に撮れてるね。じゃあ、しばらく貸してあげるから、好きなように撮ってみて」

「わかった」


 再びカメラを返すと、真剣な眼差しでレンズを覗き込み始める少女。そんな彼女へ、気づかれないように自分のカメラを向ける。


「うん、キラキラしてる」


 私は微笑みながら、シャッターを押す。


 この写真は、きっと少女の思い出の一枚になるだろう。けれど、それ以上に。彼女が輝いていた証でもあるのだ。

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