お題「3分」「ココアはきっと甘いだろうよ」
「なあ、カップラーメンの『ちょい足し』って知ってるか?」
親友が突然そんなことを言い出したのは、俺がカップ麺にお湯を注ぎ入れたタイミングだった。
「ちょい足し? ああ、知ってるぞ。チーズとかバターとか牛乳とか入れてみるやつだろ?」
「おう、全部乳製品だな。まあ、それだ」
俺はカップ麺の蓋を閉じて箸を置く。そしてスマホでタイマーを3分にセットすると、ベッドに転がる親友へ向き直った。
「そのちょい足しがどうかしたのか?」
「お前の言ったチーズとか、あとはキムチとか、よくあるじゃんか」
「ああ、マヨネーズとかな」
「だからその謎の乳製品押しは何なんだよ……」
「美味いだろ? 乳製品」
「確かにおいしいけど。じゃなくて、これ見てみろよ」
親友が寄越したスマホを確認する。画面には『新しいちょい足し募集! 一位になった方にはカップラーメン一年分プレゼント!』という特集が出ていた。
スマホから親友へ視線を移すと、彼はにやりと口角を吊り上げた。
「俺らでちょい足し、考えてみないか?」
「いいな。……そうだな、練乳とかどうだ?」
「おう、まずは乳製品から離れようか。ってか、どう考えても不味いだろ」
「そうか? 俺は美味そうだと思ったんだけどなぁ。じゃあ、梅干しなんてどうだ?」
「今度は凄い普通だな。つーか、例として載ってたぞ?」
スマホをスクロールすると、ページの下部に例がいくつか載っていた。チーズ、キムチ、梅干し、などなど……。
「なん……だと……? 絶対俺しか知らないと思ってたのに……!」
「その自信はどっから来るんだよ」
「じゃ、じゃあ、レモンなんてどうだ?」
「それも聞いたことあるな」
「くっ! 仕方がない、とっておきだ。――ポン酢!」
「おっ、それは聞いたことがないな。普通においしそうだし」
「いや、微妙だった」
「じゃあなんで言ったんだよ」
そう親友が突っ込み、俺は笑って床に寝転がる。
「……案外普通な案しか出てこないもんだな」
「よし、もうこうなったら適当に挙げてくぞ」
「おう、どんとこい」
「納豆!」
「臭いが凄そうだな」
「ステーキ!」
「むしろそのまま食わせてくれ」
「ココア!」
「そうだな、ココアはきっと甘いだろうよ」
「だろうな。俺も食べたくない」
ココアを入れたラーメンを想像し、胸やけを起こす。と、ちょうどそのとき、スマホに設定したタイマーがピピピと鳴り響いた。
俺は体を起こすとタイマーを切る。
「お、できたできた。……そういや、そういうそっちは何か案あるのか?」
「俺か? 俺はそのままが一番好きだな」
「そうだな、やっぱそのままが一番だよな」
そう言って俺はカップ麺の蓋をはがし、蕎麦をすするのだった。




