お題「とる(変換可)」「おめでとうは言わない」「むかしのやくそく」「知らないみち」
「こんどのテストで百点とったら、ごほうびちょうだい!」
それはいつも通り、家庭教師として算数を教えていたときのことだった。教え子である佐奈ちゃんが突然そんなことを言い出した。
私もこの歳くらいのときは勉強が嫌で嫌で仕方がなかったなあ、なんて思い出す。まあ、もちろん今でもあまり好きじゃないんだけど。
それはともかく、ご褒美と言ってもお菓子や食玩とかだろう。些細なおねだりでやる気を出してくれるなら安いものだ。私は二つ返事で頷いた。
「いいよ。百点取ったらね」
「やったあ! やくそくだよ!」
とても嬉しそうに笑顔を浮かべる佐奈ちゃん。その眩しい表情を見て、一体どんなおねだりが来るのかな、と楽しみにしつつ……。
その日の授業はいつもよりとても順調に過ぎていった。
◇◇
一ヶ月後、待ちに待ったテスト返却の日がやってきた。
今日は家庭教師の日ではないが、佐奈ちゃんから誘いを受けて公園に集まることになっている。
「知らないみちだとおもうけど、ぜったいにちこくしないでね!」
電話越しの佐奈ちゃんは弾んだ声でそう言っていた。まあ、つまり百点が取れたということだろう。念のため財布にお金があるのを確認し、私は家を出た。
電車で二駅分移動し、佐奈ちゃんの家の近くで降りる。地図アプリで道を確認しつつ、私は待ち合わせ場所である小さな公園へとたどり着いた。
時間は約束の十五分前。電車の時間があったとはいえ、ちょっと早く着いたかな? そう思って公園を覗くと、ブランコに座った佐奈ちゃんの姿を見つけた。
「あ、おねえちゃん!」
佐奈ちゃんは私に気がつくと、ロケットが発射するようにブランコから飛び出し、飛びついてくる。
「お待たせ。早いね」
「楽しみではやくきちゃった!」
「そっか」
満面の笑みで見上げてくる佐奈ちゃんはとても可愛らしく。私は思わず彼女の頭を撫でていた。
しばらく頭を撫でていると、佐奈ちゃんは満足したのかゆっくりと離れる。そして肩から提げていたポーチから一枚の紙を取り出し、私に広げて見せてきた。
それは算数の答案。果たして、答案には『100点』の文字と大きく花丸が書かれていた。
「おねえちゃん、これみて!」
「おおー、百点! よく頑張ったね!」
「えへへー」
私が手を叩くと、自慢げに胸を張る佐奈ちゃん。
「おねえちゃん、おめでとうは言わないでいいよ! そのかわり、むかしのやくそく、おぼえてる?」
「うん、もちろんだよ。ご褒美だったよね。佐奈ちゃんは何が欲しいのかな?」
「えっとね。とりあえずいっしょにショッピングモールにきて!」
さて、一体どんなものをおねだりされるのかな? お菓子くらいならいいんだけど……。あんまり高いものは買い与えたくないし、私の懐も痛むから止めてほしいなあ。
そんなことを考えつつ、私は佐奈ちゃんに手を引かれながら。一緒にショッピングモールへの道を歩くのだった。




