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黒い男

喝采

作者: サオ

僕は、映画監督になるのが

夢だった。


誰からも絶賛される。

知らない者などいない

有名な映画監督に


夢を諦めず

自主映画を撮り続けて

いれば、いつか夢は

叶うと信じて。


作った作品は、ネットの動画サイトに

載せたら

観覧してくれた人からは

どれも好評だったが


再生数は、伸びず

話題にもされない。


それだけじゃ

食っては、いけなかったし

生活も出来ない。


最初は、夢を一緒に追う仲間も

沢山いたが


年を重ねる毎に

夢を追う事に疲れ

現実の世界に向き合い

仲間が減って行った。


自分も

もう夢を追うのは

止めよと

諦めかけた時

悪魔に出会った。




黒づくめの

雪の様な冷たい白い顔の男だった。


「お前の夢を

叶えてやろうか?」

正に悪魔の囁きだった。


「ただし、条件がある

おまえの一番大事な物が

失われる


それは

何かは言わない


無くなってからの

お楽しみだ。


どうだ?」


もう

どうでも良かった。


僕の人生は

映画が全てだった。


映画のない人生を

おくるよりかマシだと思い

二つ返事で

悪魔の契約にサインした。



それから

みるみるうちに僕の周りの

事態は、急変した。



動画サイトの僕の作品が

メディアに取り上げられ

再生数が、なだれ込み


有名な映画会社からの

オファー

スポンサーも

我先にと争う状態


週刊誌の謳い文句は

(100年一度

いや!1000年に一度の映画監督)

(世界の黒沢をも抜く監督)と

褒めちぎった。


出す映画は全てヒット作


だが


僕の作った映画は

どれも駄作だった。


浮かぶアイディアは

どれも稚拙で他の映画の焼き回し


撮るアングル

カット割りも上手くいかない


でも

映画会社やスポンサーに

期限を急かされ

ベルトコンベアーの流作業の様に

ゴミみたいな作品を量産しては

評論家が絶賛した。


言葉とは、よく出来てる。

どんな駄作でも

褒めようと思えば

褒める事が出来る。


不思議な事に

ネットのレビューで誰一人

叩く人は、いなかった。


そして

ついに


異例の

日本人初のハリウッドのアカデミー賞を受賞


受賞式会場の控え室で

苛立ちを隠せなく

酒を煽り


スタッフが止めに入るが


「これから受賞式なのに

止めた方が...」


「うるさい!

俺を誰だと思ってんだ!」


スタッフに当たり散らしていた。


今や

世界のナンバーワンの監督

誰も歯向かう者は

いなかった。


それすらも

苛立ちの要因になっていた。


そこに、聞き覚えのある

あの声がドアの向こうから

聞こえてきた。




「いや〜

日本人初のアカデミー賞受賞凄いじゃないですか?

おめでとうございま〜す。

パチ、パチ、パチ」


悪魔だ。


わざとらしく

両手を大きく広げ

鳥が空へ羽ばたくみたいに

拍手を送られた。


「あんたは..

皆んな

出て行ってくれ

こいつと二人きりで話がしたい」


スタッフを全員

部屋から追い出した。


悪魔は、直ぐ横まで来て

私の顔を覗き込んだ。


「どうです?

夢は、叶って?

今じゃ、世界中の皆知る

夢の映画監督になれて


あれ?浮かない顔ですね?

もっと喜んでくださいよ〜

夢、叶ったんですから」


賞賛の言葉を言っていたが

明らかに違った。


見下す様な軽蔑の視線

俺の心が見透かされてる。


その視線に耐えられず

酒の入ったグラスに視線を

背けて悪魔に聞いた。


「俺の撮った

作品を.....見たか?」


悪魔は

鼻で笑いながら


「見ましたよ」


「どうだった?」


「あれは?映画ですか?

どっかの家庭で撮った

糞つまらないホームビデオ..


いや

ホームビデオにも

失礼なぐらいの

ただの映像です。」


「そうか...」

本当の事が聞けて内心ホッとしていた。


皆が絶賛するのが

逆に苦痛の何者でも無かった。


「当たり前ですよ

私は、貴方から


そうそう

何を貴方から頂いたか

ご存知だと思いますが。」


「映画の才能だろ」


「ご名答でございます。」

分かっていた。



嫌でも気づく、何を撮っても

脚本を書いても

映画に携わる事全部が

楽しくと何とも無かった。


何もかもが

力が抜けていき

項垂れる俺を

悪魔が無理やり立ち上がらせ


「さぁさぁ

有名なスター、監督、スタッフ

観客、評論家、テレビの向こうの

人々が

皆がお待ちですよ」


「ああ...」


体から芯が抜けた様に

ふらふらと

悪魔に支えられながら

部屋を出て


悪魔は、近くのスタッフに

俺を受け渡し

今度はスタッフに

支えられた。


まるで糸の切れたマリオネットの様に


悪魔が去り際に

楽しそうに囁いた。


「そうえ言えば

貴方の全ては映画でしたよね


でも

今から受賞するのは

映画なんて呼べる代物じゃない

貴方は何を撮っていたのでしょうか?


今、貴方の全て何でしょうかね?


空っぽ

何もかもない空っぽ」


受賞会場に辿りついた時

拍手の嵐が起きたが

俺は、この喝采を

望んでいたはず...でも聴こえる音は



まるで

俺は小さな虫で


それを叩き潰す様な

音に聞こえた。


パチ、パチ、パチ


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