第1話
「なんだよこれ……」
血に濡れた自分の体、いまだ鳴り止まない悲鳴と怒号。
「いったいなんなんだよ……!?」
目の前に現れる化け物、身体が理解する、力の使い方
「クソッタレが!!」
かざした手に生まれいずる刀、それを持ち少年は化け物へと吶喊する。
「どうしてこんな目に!?」
時は遡る。
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目覚まし時計の音が鳴り響く。
「ふぁぁぁ……あー」
もう朝か……
とまだ青年と呼ぶには早かろう歳頃の少年は呟く。
この少年、高原小太郎と古風な名を持つ者、高校に通い、友達と遊び、たまに名前や家族のことをからかわれる、そんな普通の少年は、普通の少年らしく進路に悩み、退屈な日常に嫌気がさしていた。
「流石にそろそろ学校行かねえとまずいよなあ……」
小太郎はここ数週間、仮病を使い学校を休んでいた、理由はない、いや、最初はあったかもしれないが、休む日が続く中でその理由も意味の無いものになっていた。
部屋を出てリビングに行く、そこにはまだ幼いと言える容姿の少女がいた。
「おはよう小太郎、今日は大丈夫?」
「うん、流石に休みすぎたし、今日は学校に行くよ」
「よかった、朝ごはんは出来てるから、ちゃんと食べていくのよ」
「わかってるよ母さん」
そう、この少女……女性は小太郎の母親なのである、齢10くらいに見えるこの女性、名を美鈴といい、近所でも評判の若作りな奥様なのである。
普通の高校生の普通じゃない母親、小太郎はよくこのことでもからかわれていたのである。
「父さんは?」
「お仕事、緊急とかで早く行っちゃった、最近は物騒な事件が多いしねえ」
「そっか……」
小太郎の父、名は洋介、現職の警察官である彼は、美鈴とは違い、ある種普通の……真面目な刑事であった。
「ごちそうさまでしたっと、じゃあ行ってくるよ母さん」
「行ってらっしゃい、ズル休みもほどほどにね」
「わかってるって、もう」
そう言って家を出る小太郎、この日、小太郎にとっては久々の、何の変哲もない退屈な日常が始まるはずだった。
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「おかしいな」
今は朝、登校中のこの時間はこの辺りはもっと人通りが多いはずであった、しかし今は……
「誰もいねえ」
そう、誰もいないのである、静けさと呼ぶにはあまりにも静かすぎる、しかし。
「まあ、たまたまか」
偶然と片付け、学校への歩みを再開する小太郎、いつも通り路地を曲がったその時。
「なんだ……あれ?」
そこにあったのは、空間の裂け目としか形容できない謎の亀裂。
小太郎は不用心にもそれに近付いてしまった。
「うわっ!?」
その裂け目はまるで全てを吸い込むがごとく唸りを上げていた。
「くそ!」
急いで近くの標識に捕まろうとする小太郎、しかしその行動は既に遅すぎた、無惨にも裂け目に吸い込まれてしまう。
「いつつ……あー?」
吸い込まれた拍子に打ち付けた尻を擦りながら立ち上がる小太郎。
「なんだ、ここ……」
場所はわかる、先程吸い込まれたのと同じ路地、しかし致命的に違う部分がある、それは……
「空が、赤い……?」
そう、赤いのだ、まるで鮮血に染まったのごとく赤いのだ。
「戻ることはできそうにないか……」
先程まであったはずの裂け目は綺麗さっぱり消えていた。
「移動してみるしかないのか?」
小太郎は口ではこう言いつつも、どことなく期待していた、退屈な日常の終わりを、その瞬間までは。
「きゃあああああ!?」
「逃げろ!逃げるんだ!!」
「叫び声!?」
小太郎は無意識に走っていた、叫び声のする方へと。
「なんだあれは……?」
それは人の形をしていた、しかし人ではない、手には大きな鉤爪、口には牙を携えたそれは、まさに今、人を襲っていた!
「うっ……あ……」
呆然と立ち尽くす小太郎、そして時は戻る。
「危ない!」
誰かに突き飛ばされた、いやそれよりもあの化け物は……
その瞬間小太郎の目に映ったのは少女の姿だった、しかしその少女は今まさに小太郎をかばい化け物の鉤爪に引き裂かれていた。
「なんだよこれ……」
血に濡れた自分の体、いまだ鳴り止まない悲鳴と怒号。
「いったいなんなんだよ……!?」
目の前に現れる化け物、身体が理解する、力の使い方
「クソッタレが!!」
かざした手に生まれいずる刀、それを持ち少年は化け物へと吶喊する。
「どうしてこんな目に!?」
刀の扱いなど知らない、しかし本能が理解する、その衝動のまま化け物に斬りかかった!
一閃、化け物は避けようとしたのであろう、不格好なまま断ち切られていた。
「くそ!?なんでなんでなんで!?」
叫びながらも身体は動く、次の獲物を求めて、小太郎は動く、その衝動のまま、化け物を切り刻んでいく!
「こんちくしょうがあぁぁぁ!?」
最後の一体を屠った時、小太郎はようやく止まった。
「そうだ!?」
自分を庇って切り裂かれた少女、その安否を確認するため、小太郎は走った、そこには。
「はい、殲滅完了しました、これより帰投します、はい、生存者は残念ながら……」
携帯端末を持ち、誰かと話している少女の姿、血には濡れているものの、傷は見当たらない。
「君は……よかった!生きてたんだね、はい、生存者1名です、その刀は……そっか、力が目覚めたのか……はい、能力者のようです、連れていきます」
「お、おい、能力者ってなんだよ、って、それより傷は!?」
「私は大丈夫、自己修復の力を持ってるから」
「自己修復って……」
「能力者とかについては後でまとめて説明するから、今は私に着いてきてくれる?」
この世界から抜け出す方法が分からない小太郎は頷くしか無かった。
「そうだ!私は清澄真由美、あなたは」
「え?えっ?」
「名前だよ名前、あなたの名前は?」
「高原小太郎……」
「小太郎君ね、これからよろしく、多分長い付き合いになるから」
これが高原小太郎の、退屈な日常の終わりだった。