#4 本題
タクミがプリントを持って帰ってきた。
タイトルに『家庭訪問のお知らせ』とある。
上手いこと考えたな、とリカは思った。
先日、悟と学校で再会した日、リカは悟をひっぱたいて帰ってきた。
付き合うわけないじゃん、あんな自意識過剰でよくわかんない男と。
そうは思うが、ちょっとやり過ぎた気もする。
今日は家庭訪問、当日。
仕事は忙しかったが、勤務時間は何とか調整できた。
それより大切なのはタクミだ。先生と色々話したらしいし、リカとしても内容が気になる。
ちょっと緊張しながらメイクを直す。
時間通り、インターフォンが鳴った。
「こんにちは、第一小学校の加藤です」
今日もメガネに変な髪型。
「……お入りになりますか? 最近は玄関先で済ませる先生も多い、とお聞きしますが」
少し、牽制してみる。
モニター越しで、悟がわざとらしく咳払いする。
「込み入った話ですので出来れば中で」
悟は反応を待っている。
……まあ、そうよね。
「どうぞ」
リカは仕方なく玄関のドアを開けた。
どういうつもりで来たのだろう。
先生として?それとも男として?
あっちが手の内見せるまで静観するか……、
リカはお茶の準備をしながらそう思った。
しばらく沈黙が続く。
「その後、お姉さんから連絡は?」
「ありません」
「……そうですか」
悟は静かに言った。
「タクミ君からも事情を聞き、リカさんがお母さんになる事は受け入れている、と言っていました」
「受け入れている?」
「……言い方は良くないかもしれませんが。ママよりはよい、と」
「……そうですか」
リカは少しショックを受けた。
そんな素振りは見せないが、タクミはやっぱり私を好きじゃないのかな……。
「亡くなったお父さんの事も気にしていました」
「……義兄とは昔、色々ありまして」
リカは小さな声で言った。
「それもあって、姉は私とタクミが親しくなるのが気にいらないんです」
悟はリカを見つめた。
「……とにかく、これ以上は学校としても踏み込めません。プライベートですので」
「……はい」
「タクミ君は今後、環境の変化により敏感になると思います。居場所を作り、よく話を聞いて、約束通り、味方でいてあげてください」
はい、とリカが頷いた所で、会話は終わった。
あれ、これだけ?少し拍子抜けするリカ。
とりあえず下手な事は言わない方がいいかな、そう思って黙っていた。
「で、ここからが本題なんですが」
「え?」
驚くリカを悟は見つめた。
「ちゃんと責任取ってもらえます?」