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ユニーク100突破しました
亀更新ですががんばります
今日の授業では実際に魔物を狩りに行く。
といっても普通の魔物を狩るのは難しいので、学園内の【ダンジョン】に潜る。【ダンジョン】の魔物はこちらが攻撃しない限り攻撃してこないので、一年の魔物狩りの練習には丁度いい難易度だ。
「フィランとエイルは下がっていろ。お前たちが入ると他の生徒の練習にならん」
「はい」
「仕方ないなあ」
エイルは頭の後ろで手を組んだ。三人がファイアーボールを放ち、魔物がこちらを向いた。いざとなったらすぐに援護できるように魔力を集中させておく。
アレンが腰の剣を抜き、魔力を乗せて横に薙ぐ。魔物は魔石を残して消える。Sクラスに選ばれただけあってすごい実力だ。
「次はわたしの番よぉ」
「わたしも負けない」
イズミの召喚魔術で現れた神獣が次の魔物を倒し、リナの爆破魔術で集まり始めた魔物をまとめて吹き飛ばす。
「みんなすごいなあ」
「ちなみに、お前ならリザードマンはどうやって倒す?」
「攻撃力が高いんで近付かずに魔術を一発ぶち込みます」
「一発で倒せるのか」
「倒せます」
倒せるのかよ、とため息混じりに呟く先生。常識外れだったらしい。ボクもみんなのレベルを知って合わせるべきなんだろうか。
「その方がいいと思う」
「エイルだったらどうやって倒す?」
「……蹴る?」
相変わらず足癖は悪いようだ。エイルの蹴撃は威力が高いので、もしかしたら同じように一撃で倒してしまうかもしれない。それにしても、周りのレベルを知るためならBクラスくらいでちょうどよかったんじゃないだろうか。
「それについてはお前たちが試験でもっと加減してくれればよかったんだがな」
少しでもエイルにカッコイイところを見せたいと張り切ったことがよくなかったらしい。見栄なんか張るもんじゃないな。
「押され始めたか……?」
「ボクも行っていいですか」
アレンたちは質より量で突っ込んできたリザードマンたちに押され始めていた。先生から許可をもらい、できるだけ普通にと思いながら魔術を放つ。リザードマンたちの動きが止まる。その内に三人と協力して数を削っていく。
「……なんだ、あれは」
「タイムストップですねー」
「あいつは普通ってものを理解してないな」
「ボクもそう思います」
「聞こえてるよ」
一時的に対象の動きを止めるタイムストップくらいなら、と思ったけどこれもダメだったらしい。普通って、難しい。
ある程度魔物を狩って退散する。手に入れた魔石以外の素材は先生がギルドに売りに行くらしい。魔石は倒した人のものだ。
「わたしの魔石はアレンにあげるわぁ」
「いいのか? ありがとう」
「わたしもおすそわけ」
二人に魔石をもらってさっそく魔術陣を刻んでいくアレン。付与魔術が得意な彼は難なくそれをやり遂げる。鮮やかな手つきだ。
全ての授業を終えて寮に戻るとドリィが沈んでいた。
「どうかしたの?」
「……フィラン……」
瞳が潤んでいる。泣いていたのだろうか。
「何があったのか聞いてもいい?」
「大したことじゃないんだ。ただ、家族のことを思い出して……」
欲深い人間に捕まって殺されてしまったという家族のこと。それは泣いちゃうよね。
「おいで。抱き締めてあげる」
「……うん」
胸の中でしゃくり上げる小さな背中を撫でながら天井を見上げる。
しばらくして、ドリィに胸を押される。もう
大丈夫ということだろう。身体を離して微笑みかける。
「ありがとう。フィランの抱擁は一種の癒し魔術だな」
「少しでも役に立てたなら嬉しいよ」
もうすっかり涙は止まっていた。いつも通りの明るい笑みだ。
「ねえねえ、二人共。ギルド行かない?」
「いいねえ、行こうか」
「実習があったんじゃないのか?」
疲れてるんじゃないかと心配してくれるドリィたけど、ボクたちが実習では出番がなかったことを伝えるとギルドに行くことに賛成してくれた。念の為、彼には上級ポーションを持たせておく。
「あ、このクエストどう? サラマンダー討伐だって」
エイルが指差した紙を見たドリィが苦い顔をする。単体ではEクラス程度のサラマンダーだけど、群れで行動することが多いのでBクラスとして登録されている。
ボクたちなら充分対応できるはずだ。
「魔石集めしに来たよー」
エイルがクエストの紙をナナさんに渡してのんびりとした口調で言う。もう魔石集めが趣味だと言ってもいいレベルかもしれない。チラリとドリィの方を見ると、クスクスと笑っていた。緊張感がないと言われるかもしれないけれど、下手に緊張して本来の動きがとれなくなるよりはずっといいと思う。
「エイルくん、新しい制服は届いた?」
「ううん。でも、これでいいんだ」
「そういえばエイルは女子の制服だったな」
「違和感ないけどね」
「確かにそうね」
ナナさんまで同意している。エイルは気恥ずかしそうにはにかんでクエストを受ける手続きを促す。手続きが終わってすぐに西の広場に向かう。そこを抜けた先の山でサラマンダーを狩るんだけど。
「クライン……」
「お前たち、こんな時間に何をしているんだ」
「見てわかんない? 討伐クエストだよ」
珍しくエイルがボクの前に出て両手を広げながら言った。庇われているようで胸が高鳴った。
「フィラン・メイ・スターリオ。オレは必ずお前を……」
「行きますよ、クライン。サラマンダーは待ってはくれませんよ」
「サラマンダー? もしかしてお前たちもサラマンダーの討伐に行くところなのか?」
ドリィが問うとセレナが頷いて「あなたたちもですか?」と問い返してきた。他のパーティーと被るのはよくあることだが、さすがに英雄パーティーと被ると気まずい。以前依頼された件もあるし、何よりもクラインはボクたちを討伐しようとしてきた相手だ。
「魔石はあげないよ」
「アタシたちは魔物を狩るのが仕事。魔石集めが目的じゃないわ」
「そう。ならいいけど」
エイルは一歩下がってボクの隣に立った。
「よくないだろう。オレは反対だ。二人を魔物に襲わせるつもりだろう」
『勇者』がボクたちを敵視しているというのはドリィにも言ってあった。だからこその発言だろう。
「そんな卑怯な真似はしない」
「どうかな」
充分汚い手を使っただろうと言うドリィ。おそらく彼になりすましてボクに剣を向けたことを言っているんだろう。
「いいよ。ボクたちは負けないから」
「……それはそうだろうけどな」
「ねえ、早く行こう?」
セレナが言った通り、サラマンダーは待ってくれない。こうしている内に街に下りてくる可能性だってある。エイルに促されて全員で山に向かう。
☆☆☆
何故かはわからないが、エイルとフィランは『勇者』に敵とみなされているらしい。だから憧れていた英雄だとはいえ、オレは敵だと思うことにした。
「ドリィ、下がって!」
目の前のサラマンダーが口を大きく開けた。火球が吐き出される。ちっ、と舌を打って剣に魔力を通す。後方に飛びながら横に薙ぎ、なんとかサラマンダーを討伐することができた。火球はフィランのタイムストップによって止められている。援護もできるんだな。やっぱりかっこいい。
「間に合ってよかった」
「ありがとう、フィラン」
無事でよかったと抱き締められる。この温もりは本当に心地いい。
「油断するな! 敵はまだまだいるぞ!」
ちっ、いいところだったのに。クラインを一瞥してから残りの魔物に目を向ける。
「フィラン、エイル。少しでいい、時間を稼いでくれないか」
「何するの?」
「ど派手に魔術をぶっ放してやりたい気分になったんだ」
クラインも巻き込んでしまおうか、と我ながら恐ろしい考えが浮かんだ。もちろん、実際にやるわけではないが。
エイルとフィランが魔物を倒さないように弱い攻撃をしている間に魔術陣を展開していく。エイルが教えてくれたように、途切れないよう気を付けて。
「下がれ!」
魔術は成功し、氷の槍が降り注ぐ。相反する力にサラマンダーたちは為す術もなく消えていった。エイルは魔石を拾って満足気だ。フィランはオレの頭を撫でてくれた。子供扱いするなと怒るべきか、それとも。
その温もりに甘えてもいいんだろうか。
「すごかったよ、ドリィ」
「……兄さん」
つい口から溢れ出たのはそんな言葉。フィランは聞こえないフリをしてくれた。
「お前たちなら魔人もあっという間に倒してしまうかもしれないな」
「さすがにそれはないよ」
クラインの言葉をエイルが否定する。まるで魔人と戦ったことがあるかのような口振りだ。
「さすがに手こずったよね」
「って、本当に戦ったことがあるのか」
「あるよ」
当然のように言うものだから驚きを通り越して呆れ返ってしまう。二人の非常識さには慣れてきたつもりでいたが、まだまだだったらしい。
「そういえば、フィーに告白したんだって?」
声を潜めて問いかけてくるエイルに頷いてみせると、彼は頬を膨らませた。おそらく抜け駆けをしたことを怒っているんだろう。
「エイルも言ってしまえばいい」
「でも……」
明らかに二人は両想いなのに、どちらもそれを認めようとしない。二人共臆病になって一線を引いているように見える。そんなことしなければ本当のパートナーになっているだろうに。
「そういえば、フィランには気になっている人がいるという話だったな」
「え……誰? 誰のこと?」
おまえだよ。
「さあな。聞いてみればいいじゃないか」
「……キミ、意地が悪いよ」
「なんとでも」
二人には幸せになってほしい。大切な人たちだから。
☆☆☆
何か聞きたいことがあるらしい、というのはサラマンダーの討伐クエストを終えた直後のエイルを見ていたら思ったこと。
ところが、彼は何も聞いてはこない。それならそれでも全然構わないんだけど、なんだかスッキリしないのは事実。なので、こちらから問うことにする。
「ねえ、エイル。何かボクに聞きたいことがあるんじゃない?」
「……ある、けど……」
「なあに?」
じっと見つめたままでいると、彼は観念したように口を開いた。
「……好きな人とか、いる?」
「いるよ」
まだはっきりと恋愛感情なのかはわかっていないけど。
「そ、うなんだ……」
「エイルにはいるの? 好きな人」
同じ問いを返すと、エイルは小さく頷いた。これには驚きを隠せなかった。昔と比べたらだいぶマシになってきたとはいえ、エイルは人嫌いだ。誰かと特別親しく話しているところなんて見たことがない。……いや、一人いる。
もしかして、エイルはドリィのことが好きなんじゃないか。胸の奥が締め付けられるように痛む。苦しくて息ができない。その答えは簡単にわかる。ボクはようやく自分の気持ちに向き合うことができた。
恋愛感情かどうかわからなかったんじゃない。きっと、それ以上に大切な存在だったからこそ、恋だなんて言葉で片付けられなかっただけなんだ。
「エイル、ボク……」
キミのことが、好きだよ。
翌日、ボクは熱を出した。
「大丈夫か?」
「風邪かなあ?」
ドリィとエイルはボクの看病を理由に授業をサボ……休んでくれた。
「昨日ので疲れたのかも……」
ボクはサラマンダー狩りのせいにして本当の理由は隠すことにした。いい歳をして知恵熱なんて恥ずかしい。
それにしても……。
「二人共、なんか生き生きしてるね」
「フィランの役に立てるのが嬉しいんだ」
「いつも助けてもらってばかりだからね」
そんなことないのに。なんだか頬が熱いのは熱のせいにしておく。ボクはそのまま目を閉じて眠ることにした。
目が覚めた時、エイルとドリィは言い争っていた。何かの取り合いをしているらしい。
「あ、起こしちゃった?」
「騒がしくして悪かった」
「気にしないで。すっかりよくなったから」
二人のおかげだよ。笑いかけると二人は顔を赤くして目を背けてしまった。この反応だ。
「どうしてこっち見てくれないの?」
「……うるさいよ、天然タラシ」
「え、何?」
なんで天然タラシだなんて言われたんだろう。
「なあ、フィラン。寂しいから今夜だけ一緒に寝てくれないか?」
「いいけど、何かあったの?」
「兄さんのことを思い出して、ちょっとな」
それなら仕方ないか。ボクは掛け布団を持ち上げて隣を軽く叩く。
「だから! ボクなんていつも一人だよ! 譲ってくれたっていいじゃないか!」
「じゃあ、エイルもおいでよ」
三人で寝るには少し狭いけれど、くっついて寝れば大丈夫だろう。二人は言い争いをやめて布団に入ってきた。どっちが一緒に寝るかでケンカになるなんて。好いてくれて嬉しいな。
「って、ちがーう!」
「え、何が?」
「フィーはドリィのことが好きなの!?」
「好きだよ。友達だもん」
「そうじゃなくて……っ」
エイルが何を言いたいのか、なんとなくわかっている。だけど。
「もちろんエイルのことも大好きだよ」
「やったぁ、大好きだって! 聞いた?」
「友達としてだ。な?」
ドリィの言葉に頷く。今だけは誤魔化させて。まだ、怖いんだ。今の関係が崩れた先に何があるかを考えると、怖くて仕方ないんだよ。
ボクはエイルが好き。ありがたいことにドリィはボクが好きらしいし、エイルはおそらくドリィを。エイルは魅力的だし、ドリィももしかしたら惹かれていくかもしれない。そしたらボクは。
「独りになっちゃうのかなぁ」
ぽつりと漏らした言葉もしっかりと拾われてしまう。
「独りになんてさせないよ?」
「エイルの言う通りだ」
「ん、二人共ありがとう」
ボクは上手く笑えているかな?