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グランディア  作者: 緑風
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第2章〜天使と災い・2〜

「ソラ」

「どした親友?」


 明らかに調子の悪い声。その先の言葉も容易に想像出来たがあえて惚けてみた。


「は、吐きそう……」

 やっぱりな。

「時雨に吐いたら殴るからな」

「ヒドい……」

 さっき俺をバカって言い切った仕返しだよレイン君。

「ほら早く行くぞ」

 真っ青な表情のレインの肩に手を回して自室へと向かった。



「あ、アルトさん何をなさっているので?」

 彼女は、俺の部屋にあった時雨のカスタムパーツとにらめっこしていた。銀色のフォルムにアルトの顔が横に伸びて映っている。


「これ、なに?」

「バイクのパーツだから、えーと、多分言っても分からないやつ」

 いちいち説明するのも面倒だから止めよう。それよか隣で茫然としてるレインに説明しなければ。


「言った通りだろ?」

 コクコクと頷くもその視線はアルトに注がれたまま。そりゃ仕方ないよな。だってアルト可愛いもん。


「どうして?ぇ、何で何が??」

 うわ、面白いくらいテンパってるよコイツ。

完全に混乱したレインを一頻り傍観してから話しますかね。


…………


「そ、そうだったんだ」

「おう。話しかけても反応無いし、かと言って放り出す事も出来ないだろ。困り果ててんのよ……」

 案外、早く立ち直ったレイン。つまらないが話しがさっさと進むから許してやるか。


「うーん……そうだ。アルトさんと出会った場所に連れてけば、何か思い出すかも」

 おお、さすが秀才。言われるまで全く思いつかなかったぜ。


「じゃあ早速行ってみよう」

 思い立ったらすぐ行動さ。あんまりアルトを匿ってる期間が長いと、マジで親父にバレそうだし。


「行くって――」

「お黙りやがれ。お前にはエアボード貸してやるから、遅れるなよ」

 エアボードってのはその名の通り、風のセフィスを原動力にした排気量45Dの一人乗り用のボードだ。時雨を買う前はしょっちゅう乗り回したけど、それっきりだな。動く、よな?



 相変わらず無言無表情でも可愛いアルトを時雨の後ろに乗せた。さすがにレインの時みたいな運転は辞めとこう。


「アルト。俺の腹に手回してしっかり捕まって」

 俺の言葉をちゃんと聞いていた様だ。無言だったが俺の腹に彼女の細い腕が回される。

あっ、女の子って柔らかいんだな……やべっ、顔赤いかも。気づかれる前に発進じゃ。


「あっ、あんまりとばさないでよソラ!!」

 回転数を上げて、「今から一気に行きますよー」って音で訴える俺の後ろで、まだ起動してないボードと格闘してたレインが言った。

ああやっぱり動かなかった。俺が買った時点でジャンク同様のポンコツだったからな……


「早く来いよ!!」

 それを分かってて言う俺ってSですか?



 まあきっと着いてくるさ。ってかいつものポイントはレインも知ってるから、最悪一人でも追い付くでしょ。




 森を時雨で駆け抜ける。普段は徒歩でしか来ないから、こんなに速く森の景色が流れて見れるのは俺も初めての体験だ。速さが違うだけでまるで違う世界に見えてくる。


 今のままで俺はいいのだろうか。何の刺激もないも平凡な暮らしの先に俺の求めるものは、多分ない。ならいっそこの時雨と、俺の中に眠っているかもしれない可能性だけを持って故郷(ここ)を飛び出してしまおうか……時雨で走っていると、時々そんなことを考えてしまう。らしくないか。なんにせよ、セフィスすらろくに使えない俺にいける場所なんて限られてる。空想に夢みて焦がれるのは空しすぎる。今は目の前のこの、天使みたいな女の子の事だけを考えよう。


「着いたぞ。もう放して大丈夫だアルト」

 腹にかかっていた彼女の腕が離れる。温もりも離れていく。

まだレインは来ない。ってかマジで動かなかったのか、エアボード。後で修理するか。別に乗らないだろうけど機械をいじるのは好きだからな。


「どうだアルト。なんか思い出せそうか?」

 ふるふると首を振るアルト。かなり重症の記憶喪失なのか?


「お前はどこから来た?」

「分からない」

「なんでここにいた?」

「分からない」

 うぬぬ……何を聞いても分からない。か、さて困った。俺どーしよ。早く提案者のレイン来ないかな……そうだ、後5分して来なかったら工房で逆さ吊りの刑にしよう。


「……ん?」

 俺が下らない事を考えてると、アルトがいなくなっていた。

「マジ?」

ちょい冷や汗。周りを見ても影も形も無い。


「アルトーどこ行ったー」

 くそ、やっぱり返事無いか。

……まてまて、何で俺がこんなに焦ってんだよ。別に関係無いんだよな。昨日は死にかけてた所を偶然助けただけだし、面倒まで看てやる必要は皆無だよな。

ちょうどいい。帰るか。


「いやっ、来ないで!!」

「アルト?!」

 聞こえた悲鳴。それは間違いなく、アルトの悲鳴だった。

彼女があんなに大声をあげるなんて……くそっ、木に反響して居場所が判んねぇ!!

下手に動いて彼女から離れる訳には……でも、黙って突っ立ってるなんて出来ねぇよ!!


「アルト!!」

 考えるより先に、俺の身体は動き出していた。


「アルト!!」

 クソッ、どこだよアルト!!


「ソラ!!」

「アルト!?」

 今、聞こえた。確かに聞こえたアルトの声が。彼女は、泣いていた。

助けるぞ!!

足が自然と動く。まるで見えない力に導かれる様に……


アルト、


何が起きたんだ?


アルト、


今行くから、


アルト、


泣かないでくれ!!



足が、根に引っ掛かる。


脇に、枝がぶつかる。


頬に、葉が当たって紅が伝う。


 ひたすら走った先に、アルトがいた。そして周りには灰色の服に身を包んだ男が5人。その中の1人がアルトを押さえつけていた。


「ん?」

「一般人か?」

「それもまだガキだ」

 突然躍り出た俺を見た男たちが次々に口を開く。よく見ればこいつら、


「軍……人?」

 そうだ。この格好は北西にある第一大陸の大国、シグルドの軍人。でも何で、こんな辺境の何もない町に……こいつらが戦ってるのはレギンの奴らだろ?

なんでゼアムに、それも女の子を捕まえて……まさか?


「フン。一般人か」

「どうしますか隊長」

「もはや見られたからには子どもとはいえ見逃せまい。Zと一緒に連れていくぞ」

 Zって何?

ってか一緒に連れていくって、俺を?どうして?

いや……でもよ。考えるまでも無く、今の俺のやることって、1つしかないんだよな。

俺の視界には、怯えた彼女が映っていた。


「さあ君。悪いんだけど一緒に」

「――せよ」

「え?」

「大人くアルトを返せってんだよ!!」

 俺を拘束しようと近づいて来た軍人が、不思議そうな顔をした瞬間に、俺の鉄拳の餌食になった。

のばっ、とか不思議な悲鳴を上げてその場に崩れる軍人。突然の異変に残りの4人も動転していた。武装はナイフだけ、銃は無いか。レインがいなかったのは不幸中の幸い、これなら余裕でいける!!

 相手の武器を素早く確認した俺はそのままアルトを拘束している1人を殴り飛ばし、止めに入った隊長以外の2人が押さえ込もうと伸ばした手、その手首を掴んで捻り、更にわき腹に正拳突きと顎に上段蹴りを喰らわせ一瞬のうちに伸してやった。


「何者だお前?!」

 アルトを背中に護る様に立った俺に、隊長が動揺を隠すことなく言った。


「ケッ、お前ら軍人に名乗る名前なんて無ぇよ」

「クソ、まさかこんなイレギュラーが発生するとは……油断したか」

「銃も持たずに来るからさ」

 日常じゃ味わえなかった戦いに気持ちが昂る。俺は元々こういうのが似合ってるのか?

まあいい。今はコイツを倒してアルトを取り戻すことが全てだ。


「フン。だが、いくら身体能力が高いとはいえコレには敵わないだろ」

 たった今まで動揺をそのまま顔に貼り付けていた隊長が、不敵な笑みを浮かべて懐から取り出したのは、

「セフィス……」

 緑色のセフィスだった。

緑は風。風のセフィスは普通空調設備に用いたり、バイクの原動力になったりする便利な物だが、それを戦闘に使うとなると全く別の装いを呈してくる。


 隊長はナイフの柄のくぼみにセフィスをはめると、俺に切りかかってきた。


「穏便に拘束するつもりだったが、部下4人の仇はとらせてもらうぞイレギュラー君!!」

「クソッ」

 動きは見える。他の4人より早くて隙も少ないが勝てないってレベルじゃない。だけど、紙一重で躱した俺の頬は一閃に切れ、鮮血が頬を伝った。

 セフィスで強化された武器は、そのセフィス特有の効果みたいのを得る。風のセフィスならば切断性の上昇とか……今のはナイフの周りに生まれた風が俺の頬を切ったんだ。


隊長は更に切りかかってくる。

今度は後ろに飛んで躱したが、かまいたちの様な物に襲われて右足をやられた。


「動きが遅くなったな」

 こいつ、上手い。セフィスを使いこなしている。これじゃいくら動きが見えた所で近づけない。それに今の足の傷、思ったよりも深いみたいだ。血が止まらない。


「ソラ……」

 追い詰められた俺の耳に届いた、アルトの声。

そうだ。彼女を護るって、そのためにここまで走ったんじゃないか。


「アルト、俺がお前を護るから。だから、泣くな」

 俺はアルトに精一杯笑って言ってやった。

たくさん走ったし、血も流れた。そのせいか身体中から嫌な汗が流れてるし、ボーッとしてる。このままじゃ確実にヤバい事くらい本能で判ったけどさ。

でも、ここで何も出来ないでアルトがいなくなってしまう方が、その何倍も後悔するって、それも判ってしまったから、俺は……



「ぅおおお!!!!」



 渾身の力を振り絞って俺は突進した。



 この後の事を俺は、覚えていない。

ただ、女の子の叫び声が遠くでして、静かになって、優しい温もりを感じた。気がする…………

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