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グランディア  作者: 緑風
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第1章〜出逢い〜

 

「お前が好きだ。俺と付き合ってくれ!!」

「ごめんなさい。タイプじゃないの」




 こうして俺、ソラ・フェアイトの長かった片想いに終止符が打たれた。

まあノエルちゃんには俺の良さが分からなかったのさ。可哀想な女だぜ全く…………いや、悲しくなるから止めよう。やっぱりツラいよ。


 ノエル・デュフェちゃん。俺が14の頃から好きだった初恋の女の子。あれから2年、俺の彼女への想いは日に日にウエイトを増やして行って、柄にも無いが恋に焦がれて眠れぬ夜も過ごしたさ。

ノエルちゃんが彼氏をつくったって聞いた夜には彼氏を半殺しにしてやろうかと本気で夜の町をさ迷った事だってある。


ストーカー?

気持ち悪い?


知った事か。俺にとって彼女は本当に大好きな女の子だったんだから。


 それでだ。彼女が彼氏と別れたって聞いて、俺は2年越しにこの胸の想いを伝えたのに。伝えたのに、撃沈……そりゃあ酷いもんさ。この間レイトと観に行ったSF映画でこの星の半分がぶっ壊れてたけど、そんなもんの比じゃ無いくらいに凄まじい衝撃だった。


 とぼとぼと帰る俺。日は登り始めたばかりで、俺の影は俺を追い越す事も無く、置いてきぼりになる事も無く常に一定の距離で着いてくる。

「ああ、朝から告白なんてするもんじゃねーな。会わせる顔が無えよ。もう今日は帰って寝よ……」

 ハァァァ、と盛大なため息と共にやけくそ気味に学校を後にする俺。

「ソラ。学校、そっちじゃ無いよ?」

 そんな俺をひきとめる奴がいた。校門に背を向けて歩き出した俺に背中越しから声をかけてきたのだ。

 んな事分かってるっての。だから歩いてるんだろうが。内心でこんな事を思ったりしてみたが、事情を知らないコイツに当たっても仕方無いんだよな。

「……悪いな。頭痛いから今日は学校休むわ」

 何となく顔を見られたくなかった俺は振り返らずに軽く後ろ手だけ振った。

「そう……分かった。先生には僕から言っておくね」

「ありがとよ。親友」

「あ、後さ。今日はあの森に近づかない方がいいよ」

 思い出したように言った。こいつがこういう感じに話を持ち出すときは決まって1つの事を意味している。

「また占いか?」

「うん。やっぱり自分のセフィスの状態を知るにはそれが一番だから、あっごめん……」

「気にするなよ」

 分かりやすく肩まで落として暗くなる親友に、笑って言ってやった。コイツのせいじゃないからな。

「う、うん。そうだ、その占いでとてもよくない事が起きるって、出たから」

「分かった。今日は大人しく寝てるよ」


 相変わらずだな。

レイン・ミアル。薄い青の髪に同色の眼、それに線の細さもあって中性的なこいつは趣味まで女の子みたいな奴だ。

これで勉強も運動もそつなくこなすし、俺なんかよりずっと女子にモテるんだから分かんねーぜ。


 レインと別れると俺は独り、朝の町中を歩いた。


 この町の名前はエル・フォレスト。人口2000人くらいの小さな町で、名物なども特に無く本当に静かな田舎町だ。

あいや、一つだけ名物があった。隣接した森に昔、精霊が住んでいたとかいう話しがある。そこからこの町の名前がエル・フォレスト、『神の住まう森』の由来だそうだ。


 それが本当なのかどうかは知ったこっちゃ無いが、俺は存外この森が好きだった。静かだし、暖かいし、動物だっているんだ。嫌な事があったり家の手伝いが無いときはよく遊びに行く。


今日は、


【今日はあの森に行かない方がいいよ】


 今日はやめとくか。

アイツの占いを信じてるわけじゃないが、本当時々当たるんだ。


念のためもう1度言うが、アイツの占いが怖い訳じゃないぞ。断じて。ただ、今日はこれ以上ケガしたくないだけだ。


 こんな下らない事ばっかり考えてたらいつの間にか自宅が目の前に。どの道歩いたか全く記憶に無いんだがちゃんと家ついてる……俺って高性能?


「ただいま……」


 別に家には誰もいないんだが、さすがに学校行ったばかりで帰ってきたのも気が引けたから小声になってしまった。


隣の工房から金属を叩く規則的な音と、石を削るカン高い音が聞こえてくる。親父が仕事している音だ。学校サボった事がバレたら工具でぶん殴られる。くれぐれも慎重に行動せねば。


自分の家にも関わらずこそこそと動き、2階にある自室に入ると深いため息。こそこそし過ぎて息止めちゃった。

「ハァ〜」

もう1度ため息。今度は息切れじゃなくて、さっきの事だ。




セフィス。この惑星グランディア特有の鉱物で、色によって様々な力が秘められた特別な石。俺たち人間はそれぞれが1種類のセフィスと相性がよく産まれるらしい(詳しい事は解らないけど)。


「レインは『水のセフィス』か。何で俺は……」


 俺は、どのセフィスとも相性が悪かった。致命的だ。運動神経は自分で言うのも何だが良かった。どの属性でもいい、相性の合うセフィスさえあれば俺は……いや、余計悲しくなるからよそう。


一息つくとベッドの下に隠していた雑誌を手に取り眺める。写ってるのはもちろん女の子のは――自粛自粛。

とりあえず無難に、親にバレたらとても気まずくなる代物だ。


……


…………


「虚しい」


「虚し過ぎるぞゴラァ!!!!」

 しまった!?

つい本音が叫び声になって世界に轟いてしまった。

親父が来る前に早々に撤退せねば……!!

「おい誰かいるのか?!ソラか?!学校はどうした?!!」

 ドタドタと下の階で足音が聞こえる。工房にいて聞こえるとは地獄耳は健在か。

もう下から逃げる道は塞がれた。

「こうなったら仕方ない」 

 窓を開けるとまだ開けてなかった新品の靴を履く。この春出た最新のカジュアルブーツ、工房でバイトした金でやっと買えた俺の血と汗と何かの結晶だ。


何かって、何だっけ?まあいい。とにかく早く逃げないと捕まる。工具でぶん殴られるのだけはごめんだ!!


覚悟を決めて数メートル離れた地面へと不時着成功。俺高性能。


「どこ行くかな……っても、あそこしか無いか」


朝っぱらから学校サボった学生に行き場所などあるわけも無く、レイトの占いの件は悪いが森に行かせてもらいますかね。



なるべく人目を避けて移動する。うん。手配書に乗っちゃった人の気分。俺って大物?


……さーせん。親父に殴られるのが恐くて逃げるただのガキです。



指名手配犯よろしく、サボりの現行犯な俺は人目を見事、完璧に、惚れ惚れするくらい完璧に!!避けて森までたどり着いた訳です。



惑星グランディア。地球のある太陽系の遥か遠くにある銀河系の中の1つの星。細かい経緯(いきさつ)は知らないけど、俺たち人間はある時を境に地球を飛び出したそうで、その時にこの星を見つけたそうです。――アレ本と間違えて持ち出しちゃった歴史の教科書参照――


「でも、いい場所だよな。地球ってのがどんなとこかは知らないけど、悪く無いよ。この星は」


いつものポイント。太陽の日差しが木々の間から適度に降り注ぐから、心地いい眠気を誘うんだ。うん。


「やべ、マジで眠い。って事でおやすみ〜」


暖かい陽気に、特にやることも無くやる気力も無かった俺は教科書で顔を隠して、すぐ眠りに落ち……れなかった。


木々が突如ざわめき、突風が吹き荒れる。歴史の教科書がどっかに飛ばされた。


「何事?!!」


思わず、ってかさすがに目が覚めた俺が起き上がって周囲を見渡すもいつもの森が広がってる。


「なんだよ今の……」


【今日は森に行かない方がいいよ】


不意にレイトの言葉が蘇る。


「か、帰ろ……」


こ、怖いんじゃ無いぞ。やっぱり学生は学校に行かないといかんですから、俺は学校に行く!!


よくよく考えてみればノエルちゃんとクラス違うし。


「忘れてた。テヘッ」


キモッ!!

俺キモッ!!



バカやって無ぇでさっさと撤退じゃ!


ケツについた土を払うと足早に町へと向かう。しかし、


真後ろで何か重い物が落ちた様な音。


「……へ?」


その不審すぎる物音に思わず声を漏らした。その声は、自分の物のはずなのに遠くに聞こえた。

心臓ばくばく、脈もばくばく。


恐る恐る、振り返りたく無かったんだけど振り返っちゃった俺。その先で見た物。それは俺が、一生忘れられない物となった。



「ぇ?」


ぇ、何?

ぇ、マジでさ


何で、何で女の子が倒れてんのぉぉぉぉぉぉぉぉ??!!!!!!


「ぁ、ぁ……」


腰抜けました。ちょっとチビったかもしれませぬ。

天国の母さんごめんなさい。びっくりし過ぎて息子、16でチビりました。


「ぁ。スゲー可愛い」


しばしの間の後に気付いた俺。


仰向けで横たわり、両手をお腹の上で合わせた姿で現れた娘。


それは薄い緑色のセミショートの髪に純白の肌。高めの鼻柱に他のパーツもバランス良くて……俺の語学力じゃこの娘がどれだけ綺麗なのか上手く表せないくらいだけど、あえて言うなら、空に祈りを捧げ続けている、たった一人きりで地上に舞い降りてしまった天使の様な……そんな女の子だった。


「綺麗……」


人を惹き付ける美しさ。何てよく言った物だ。無意識の内に俺はその娘の頬を撫でていた。

うん。邪な考えなんてこれっぽっちも無かったよ?本当に!!

だってこの娘、本当に天使みたいに綺麗なんだもん。それこそ、ノエルちゃんの事なんて一瞬で忘れてしまえる程に……


「……あれ?」


で、触ってみて判った事が1つ。この娘、


「この娘息してねぇーーーー!!!!」


どうしよどうしよ?!

死んでるの?!


埋める?!


いやバカ、俺のバカ野郎!!まだ死んだと決まった訳じゃ無い。あれだ人口キスしなきゃ!!

「今助けるから!まだ死ぬなよ!!」

こうして俺の必死な救命活動が続いた。





「ぷはっ……」

こ、これでどや?

小さな胸が……あいや失言、小さく胸が動いてる。助かった。

「んで、この娘どーしよ?」

独り呟いた所で名案がある訳も無く。だからと言ってこのままにしとく訳にも行かず、俺がとるべき選択肢は自然、1つしか残らなかった。


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