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7 エピローグ

 どうやら俺は思ってた以上に人望がないらしい。結局ついてきたのは……。


「んだよ? あんまジロジロみんなよな」

「お、おう……」


 鬼頭だけだった。まあそれは別にいいのがだが……果たして変装する必要などあるのだろうか?


 勇者たちと別れた鬼頭は装備を捨てて縛っていた髪をふりほどくと、まるで女のような格好に変えた。本人曰く変装らしい。国境付近とはいえまだ王国領内である。勇者としてそこそこ顔の売れている鬼頭はあえて女のフリをすることで追っ手から逃げ延びるのだという……。理屈はわかるがどうも調子が狂う。そこそこ可愛いので質が悪い。でも……。


「レズだしなぁ……」

「聞こえてんぞ!」

「や、すまん。別に差別意識とかないぞ俺は。百合とか好きだしな!」

「それでフォローしてるつもりかよ!」

「ヅカ的なやつはよくわからんが、百合百合してるのは好きだぞほんと!」

「だからフォローになってねえよ! あとオレはレズじゃねえ!」

「――ッ!」

「なんでそこで驚いてんだよ!」

「だってお前……朝倉のこと」

「誤解すんなよな! 女だって綺麗な女や可愛い女が好きなんだよ!」

「だからそれがレズ――」

「そうじゃねえ! オレは男が好きだし綺麗で可愛い女も好きってだけ!」

「バ、バイセクシュア――」

「ちげえよ! アホかお前! オレは男が好きって言ってんだろ!」

「お、おう……」


 なんで言ってから後悔してる感じで両手で顔覆ってんの? 俺まで恥ずかしいわ。


「と、ともかくそういうことだからな!」


 どういうことだよ? わかんねえよ実際……。


「じゃあ……なんて朝倉おっかけ回してたんだ?」

「だからそれは……良い匂いがすんだよ」

「はぁ?」

「だから……朝倉のやつすげえ良い匂いすんの。嗅いだことねえか?」

「あるわけないだろ……ドン引きだわ」

「いやいやお前も嗅がしてもらえよ。ぜってえハマるぞ?」

「黙れよ変態!」


 とはいえ実際どうなんだろう。今度会ったら嗅がしてもらおうかな……。


「そういえば朝倉たちってどこに行ったか知ってるのか? いや、ひくなよ! 別におっかけようとか考えてねえから!」


 本当か? まあ合流する可能性もあるし鬼頭には話しても問題ないか。


「朝倉たちな国境を越えて魔族の領土に入ったはずだ」

「はぁ? なんだよそれ! 大丈夫なのかよ!」

「落ち着け。大丈夫だ……たぶん」

「たぶんってなんだよ、たぶんって!」

「確証はないが……人間の国よりは安全……的な?」

「なんだよその曖昧な表現はよう……」

「お前おかしいと思わないか?」

「何がだよ?」

「過去に俺たち以外の勇者が召喚されていたってことは知ってるだろ?」

「ああ……それが?」

「お前会ったことあるか? 俺たち以外の勇者に?」

「それは……ねえな」

「そいつらどこに消えたと思う?」

「どこって……そういや来栖が裏切ったとか言ってけどまさか?」

「そうだ……亡命した連中が過去にもいたんじゃないかと思ってる」

「でもよう……それを王国の連中が黙って見過ごすか?」

「だからこそ試練の丘なんだろうさ」

「ああ……あれってそういう目的かよ。じゃあ……残った連中は?」

「お前、王国の城下町とか周辺の街を見た印象ってどうだった?」

「ん? 別にどうも……城下町は綺麗だし魔物退治で立ち寄った街も特になにも……あれ?」


 鬼頭も気づいたようだ。


「過去にも勇者を召喚して戦争してるんだよな? なのになんであんなに街の連中は普通に暮らしてたんだ?」

「王が三つの国が滅ぼされたと言ってただろ。おそらく勇者はそこに派遣されてたんじゃないかと思う」


 この国に勇者の痕跡がないのがその理由だ。


「んだよそれ! 完全にオレたち使い捨ての駒じゃねえか!」

「あくまで俺の推測だがな……」

「自信あんだろ?」

「五分五分だな。だから他国とはいえ人間の国は信用していいものかわからない」

「それで魔族の方がマシってことか?」

「それも正直わからない」

「なんだよそれ?」

「書庫にこもって情報を集めてはみたが……魔族の実体については一方的で信憑性にかけるものが多かったからな。それに……王国に反抗したのは自発的なのか、あるいは強制されたのか……判断できていない」

「おい、それって朝倉たちもやばいんじゃねえか?」

「その辺りの事情も説明はしておいた。それでも亡命してみると言ってたがな」


 賭になるが分は悪くないと踏んでいた。だからこそすすめたんだからな。


「鬼頭はそもそも魔族ってのがなんだかわかるか?」

「はぁ? あれだろ。悪魔系の魔物……的な?」


 やはりそういう認知だな。教官たちも具体的には種族をあげるだけとどめていた。書庫に通っていた俺だけが気づいたようだ。


「魔族っていうのはいわゆる亜人と呼ばれる種族のことを指すんだ」

「亜人? ああ、リザードマンとかそいうのだろ? それなら合ってるじゃねえか?」

「リザードマンだけじゃない獣人なんかも亜人というカテゴリーだ」

「え? 獣人も?」

「王国内ではほとんど見なかったろ?」

「ああ……奴隷にされてるやつを見かけたぐらいかな」

「昔はもっといたという記録があった。そして記録には敵の兵士にも獣人が加わっていることもうっすらと書かれていた。だが兵士は獣人だけじゃない……」


 多くの種族がいたことが武勇伝の中に記されていた。つまり導き出された答えは……。


「人間が人間以外の種族たちと戦ってるというのが現在の戦争だ」

「おいおいマジかよ……」


 開戦の理由や和解しない理由まではよくわからなかったが、少なくとも亜人側からの侵略ではないように思えた。その証拠に滅ぼされた国は魔族の領土になっていない。未だに王国の領内だ。あの試練の丘にしてもそうだ。かつてあの土地には別の国があり、そして滅ぼされはしたが占領はされなかった。魔族の側にも理由があるのかもしれないが、攻め落とした国を放置するなんて普通は考えられない。少なくも領土拡大などの理由ではないことははっきりとわかる。戦争なんてものは資源を消費するだけで占領でもしないかぎり見返りなどないのだ。それを三カ所とも捨てた魔王軍の行動は俺たちの教えられた非道なる侵略者というイメージとはどうにも重ならなかった。


「……というわけだ」

「なるほどなあ……オレたちも亡命した方が利口かもな」

「まあ俺はそんな気サラサラないけどな」

「はぁ?」

「そういうことを全部棚上げして俺は田舎で平和に暮らしたい」

「いや……何言ってんだお前? この世界は人間と亜人で戦争してんだろ?」

「してるからってどっちかの陣営に肩入れする必要なんてないだろ?」

「でもお前……生活とかどうすんだよ?」

「俺、その気になれば村とか開拓できると思うよ?」

「はぁ?」

「溜め池ならウォーターボール一回使うだけだし、開墾も土魔法で寝てる間に耕せるし、お前知ってた? 建築魔法なんて便利なもんもあるんだぜ? ある程度の知識があればド素人でも家が建てられんだよ……建売の簡単な奴だけど。ああ、材料ならウインドカッターでいくらでも切り倒せるし、乾燥も火魔法で出来るぞ。それから――」


 それから俺の牧●物語を語って聞かせると鬼頭はげんなりしていた。シム系のゲームが嫌いなのだろうか? 俺は大好き!


「わったよ……お前マジなんだな? 世界が大変だってのに?」

「他人がひいた引き金に巻き込まれる筋合いなんてないよ」

「勇者……なのにか?」

「あんなの勝手な都合で作った役職みたいなもんだろ?」

「でも女神が……」

「ああ、あれならハッタリだぞ」

「は?」

「適当に演出されただけだ。騎士団の中にもスキル保持者いただろ? レアなスキルとかもお姫様が持ってたし異世界人が特別だってのはプロパガンダだ」

「嘘だろ……」

「ホントだぞ」


 鬼頭も勇者であることに少なからず思い入れがあったようだ。これなら真実をクラスの連中にバラした方が早かったかもな。鬼頭も目が覚めたようだし後で手紙でも送っておこう。


 こうして俺は王国から離れて楽園の開拓をすることにした。うまくいくかはわからないが、ダメならダメで適当に名前を偽って冒険者になる道もある。色々と考えてはいるがノープランみたいなものだ。帰る術はないけれど悲観したところでどうにもならないし、俺はできるだけ楽しんで生きていこうと思っていた。幸い便利なスキルもある。いろいろと不自由な世界ではあるが、住めば都というし案外楽しめるのではと思う。


「で、お前はどこまでついてくるつもりだ?」

「どこまでって……そんな話し聞かされたらどっちにも行きたくねえし……ずっとついてくよ」


 ずっとってお前……あれ?


「お前まさか俺のこと好きなの?」

「は? うぬぼれんなよバカ! 誰がお前なんか……お前なんか……」


 なんで顔真っ赤なの? 俺も照れくさいんだけど!


 どうしてこうなったのかはよくわからないが……まあ時間はあることだしゆっくり考えることにしよう。俺のターンはこれからも続くのだから――。


最後までお読みいただきありがとうございます。短いですが初日にお伝えした通りこれで完結とさせて頂きます。

ブックマーク、評価を入れて下さった方々には本当に感謝しております。アクセス数が増えてもいまいち楽しんで頂けているのかわかりづらいので、目に見えた結果はやる気に繋がりまた書こうという気になれました。勝手ながら応援して頂けたと思っております。

それではありがとうございました。次作でもお会いできたら嬉しく思います。

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