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6 旅立ち


 地に伏せた勇者二人を見下ろして頃合いだろうと思った。


 周囲を見渡せば視線を合わせない者たちが多数。俺のことを馬鹿にして後ろ暗い仕打ちをしてきた連中は報復を恐れているのだろう。そんな気さらさらないんだけどな。


 いまだに現状を飲み込めていない連中も数名いるようで少々不安だ。まあ面倒を見てやる義理もないのでかまうつもりもないが……。


「天沢……」

「鬼頭か……」



 まともに話そうなんて気概のあるやつはこの女だけらしい。何も言わずに去るのもなんなので代表して別れ告げておこう。


「見ての通りの有様だ。俺は勇者パーティーから抜けるよ」

「別にお前が悪いわけじゃねえよ。抜ける必要なんてねえだろ?」

「戻ったところでそこに倒れてる勇者が黙ってはいないだろう」

「こんな屑どもほっとけよ。天沢ならくだらねえこと考えた奴らを黙らせることだってできるだろ?」

「どうかな……勅命だなんて言ったし最悪は王国を敵にまわすことになる」


 その意味を鬼頭もわかっているのだろう。それ以上は言わなかった。


「やっぱ……行っちまうのか?」

「ああ、それが一番いい。来栖ならうまく誤魔化してくれるだろう」


 プライドの高い奴だから俺に負けたとは思っていないはずだ。自ら立場を悪くすることはないだろう。


「あとはお前たちが試練をこなしたと口裏を合わせればそれで丸く収まる」


 まわりの連中を見るとどの顔も暗い。殺し合いをさせらるところだったことを思い出したのだろう。


「後のことはお前たちで相談して決めてくれ……んじゃ」

「ま、待ってよ!」

「ん?」


 背中に声をかけられて振り向いてみたら女子数名が駆け寄ってきた。なんだ? モテ期の到来か? と思ったら顔が怖い。残念違いました……。


「無責任じゃない!」

「そうよ! あんたのせいでめちゃくちゃよ!」

「大河君に謝りなさいよ!」


 三人目……。


「責任って言われてもなぁ……これ以上俺に何をしろと?」

「何って……それは……あたしたちを見捨てるの!」

「そうよ! 一人で逃げるなんて卑怯よ!」

「あんたのせいで大河君が怪我したじゃない! 責任とんなさいよ!」


 三人目ほんとうざいな……。


 俺が黙って一瞥すると怯えた顔で距離をとられた。


「な、何よ? 女子に暴力ふるうの?」

「さ、最低ね!」

「あ、あんたなんか大河君が……大河君が……ううっ」

「はぁ……」


 俺は壮大にため息をついた。


「あのなぁ……俺は自分の身を守るために行動しただけだ。文句があるならふざけた試練をさせようとした連中を恨め」

「そ、そんなことわかってるわよ! 抗議するにしても、ち、力が必要でしょ!」

「そうよ! あんた強いんだから協力しなさいよ、クラスメイトなんだから!」

「あんたのせいで大河君が動けないなんだから代わりをするのは当然でしょ!」


 代わりもなにも大河は敵側なんだが……。三人目は無視だな。


「悪いが俺はリスクを負ってまで王国に戻るつもりはない。お前らも連中が信用できないなら逃げればいい」

「そ、そんなの無理に決まってるでしょ! こんなわけわかんない異世界でどうやって生きていけって言うのよ?」

「そうよ! 常識的に考えなさいよ! バッカじゃないの?」

「なんでこんな馬鹿に大河君が負けちゃうのよ……ありえない」


 もうどうしようねこれ? 俺を引き留めたいのは伝わるけど見下してた手前態度を変えられない感じ? めんどくせえ……。まあ泣いて懇願でもされたらそれこそ立ち去りづらいからある意味ありがたいけど。


「ぴいぴいぴいぴい――見苦しいこと言ってんじゃねえよ!」


 怒鳴りながら割って入ってきたのは鬼頭だった。


「黙って聞いてりゃあ勝手なことばっかり言いやがって、さんざんこけにしてきた天沢に泣きついておきながらその言い方はなんなんだよ!」

「だ、だって……しかたないじゃない」

「そ、そうよ。来栖は信用できないし……大河君もあの有様だし」

「怖いよう……大河君」

「だからなんだよ? 詫びを入れるならそれ相応の態度があんだろ!」


 え? 待って。詫びられても戻る気ないよ俺?


「だがなぁ……詫びたところで天沢を引き留めるのは筋違いだ」

「え?」

「ど、どうしてよ?」

「大河――」

「都合のいいときだけ仲間意識むけてんじゃねえ。天沢は自分の意思で出ていくんだ。引き留める権利なんてはなからねえんだよ!」

「ク、クラスメイトじゃない、あたしたち!」

「そ、そうよ。引き留める権利なら十分でしょ?」

「た――」

「うるせえ――ッ!」

「ひぃ――ッ!」


 鬼頭のヤンキーボイスが爆発して女子たちを恐慌状態におとした。なにそれ怖い……スキルなの?


「天沢!」

「えっ? あ、はい」

「引き留めて悪かったな。もう迷惑はかけない。気にせず行ってくれ」

「あ……うん。でもいいのか?」

「こいつらのことなら――」

「そうじゃなくてお前のことだよ」

「オレのこと……?」

「ああ、大河と敵対したのは騎士団に見られているし戻るとやばいのは俺と同じだろ?」

「なんだよ……そんな心配か……お人よしすぎんだろ」


 心配してやったのになんか嬉しそう。危機感うすくない?


 鬼頭だけじゃない。一応手は打ってあるとはいえ、王国に対する不信感を抱きながら生活するにしては危機感がうすい。朝倉たちみたいに適当なところで見切りをつけてくれればいいのだが、いつまで寄生するつもりなのだろうか? やれやれ……。


「鬼頭……と、お前らも一応聞いてくれ」


 俺たちのやりとりを見守っていた連中の顔を見渡す。


「俺は戻らないが……ついてきたい奴は勝手についてきてもかまわない」


 おっ……ちょっと顔色がよくなった奴もいる。でもそんな期待した目を向けられても困る。


「ただし面倒はみない。あくまで同行するなら付き合ってやるだけだ」


 ああ、落胆しちゃった……。でも俺が譲歩できるのはここまでだ。俺だって新生活が不安でいっぱいなのだ。それなりに知識はつけたがどこまでやれるかはわからない。なので保証もできない。そんな感じで説明すると口を閉じた。


 さあて、心残りもないし――出発だ! 新しい門出に祝福を!


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