1 クラスメイトと共に異世界へ
さかのぼること数時間前、俺たち二年三組の生徒たちは朝のホームルームを終えた直後に得体のしれない光に包まれると、異世界グランデに召喚された。
待ち構えていた王様曰く、グランデを覆う闇を打ち払う勇者の召喚が行われ、俺たちが招かれたそうだ。うん、実に一方的な都合だね。
当然反発したね。だって望んでないものそんな人生。中にはいきなり受け入れる酔狂な連中もいたけど俺は帰りたい。やりかけのゲームとか最終話直前のアニメとか見たいしね。
しかし俺たちの都合をハイそうですかと聞いてくれるわけもない。勇者召喚とはそれほどのコストをかけておこう国家事業なのだから。勝手に召喚しておいてそれはないよと思うけどな。
具体的に何をさせたいのかというと一緒に魔族と戦ってほしいとのこと。でたよ、魔族。どうせ魔王とかいるんでしょ?
「魔王軍の侵攻により既に三つ国が滅ぼされたのじゃ……」
そんな悲痛な顔をされても俺たちの同情は買えないよ王様? なんせ半数以上がビビッてるもん。
俺たちのやる気は益々なくなりテン下げである。そんな暗い雰囲気のなかでその奇跡は起きた。
眩い光が天井から注がれるとそれはそれは美しい女性が浮き上がったのだ。まず間違いなく女神なのだろうことは誰の目にも明らかっだった。なんせ神々しい。普通ならユラユラと揺れるスカートの中をのぞける位置に移動する男子がいてもおかしくないのにみんな棒立ちなのだ。俺すら意識はしたが迷ったあげくにやめた。天罰が怖いとかそういう打算的なものじゃないよ?
女神様は何もおっしゃらなかったけど、両手を広げて俺たちに光をシャワーを浴びせるとどこへともなく消えた。その後は拍手喝采である。勇者たちが女神の加護を授かったと大喜びだった。そんな待遇を受けては承認欲求を満たしたくてたまらない少年少女たちがまんざらでもない気分になるのは当然のこと。案の定、先ほどまで騒いでいた連中もちょっと手を貸してやるか的な顔をしていた。お前等ちょろいな……。
そんなわけでスキルも授かりご満悦な二年三組の三十名の生徒たちはグランデの闇を打ち払う手伝いをすることになった。もっとも全員が納得しているわけでもないのだが、元の世界に戻る方法がないらしく、王様の世話になるしかないので納得せざるを得なかったようだ。
俺はどうかって? はずれスキルのおかげかで冷めたものだよ。戦力的にもアレだし、放逐されないようにせいぜい頑張るしかない。勇者っていう肩書が重くてつれーわ。
*
それから二週間が経ちました。早いね、時間が過ぎるの……。
「雑魚が! 邪魔なんだよ!」
「足引っ張るんじゃねぇよ!」
「よわっw 女子以下の戦力とかあり得なくない?」
これが現在の俺の扱いだった。訓練にもついていけず、実戦では足手まとい。そりゃそうだろ? なんせ周りにいる連中は戦闘系のスキル持ちでステータス補正が付与されているバリバリの肉体派なのだ。そこに補正もない俺が混ざっている方がおかしい。だが騎士団のお偉いさんたちの命令であろうことか選抜チームに入れられてしまった。継続スキルは自己バフなので後方支援では役に立たないとの判断だ。そんなことないよ、頑張るよ俺って訴えたけどしょせん雑魚には発言権などなくあっさり却下された。
そんなわけで女子にすら馬鹿にされる俺の末路といえば……ガス抜き役だった。
「おい、立てよ雑魚。オレたちが鍛えてやんよ」
「男子たちやーめーなーよーw」
騎士団の教官達が見ていないところで有難くもない個人レッスンを受けさせられては笑われ、生傷も絶えない。幸い訓練の後には回復魔法で治療してもらえるので見た目は健康そのものだ。それが余計にいじめに拍車をかけているわけなのだが……。
「情けない姿だなぁ……天沢」
「来栖か……」
いじめる以外で俺に声をかけてくるクラスメイトはほとんどいない。なので嬉しいかと聞かれれば答えはNOだ。こいつも別の意味で避けられているため俺ぐらいしか話し相手がいないのだ。
「何か用かよ?」
「なんだその態度は……この俺様に向かって無礼じゃないか?」
「なら話しかけるな」
「ちっ……そんな生意気な態度だからこっちでもいじめられるだよ」
「別に元の世界でいじめられてた覚えはねぇよ」
相手にされてなかっただけだ。俺もこいつも……。
「だが俺様は違う!」
聞いてねぇなこいつ……。
「この国に――いや、この世界に俺様は必要な存在だ!」
聞き飽きた台詞だ。
「今日も俺様の魔法でゴブリン共の巣を焼き尽くしてやったぞ!」
「そりゃお手柄だな。よかったよかった」
「王も手放しで喜んでくれたぞ。お主こそ英雄だってな!」
「ゴブリンだろ? リップサービスじゃないか?」
「馬鹿を言え、雑魚のお前にはわからないだろうが巣には百体以上のゴブリンがいたんだ。個体ではEランクの雑魚でも集団になれば脅威度はBランク以上。加えてゴブリンオーガも数体いた。実質Aランク相当の活躍だな!」
それが本当ならあながち間違っていないか。力で劣る俺は生き残るために知識だけは増やしてきた。
「もっとも俺のメギドで一発だったけどな!」
「ハイハイ……」
大体いつもこれだ。魔法習得スキル【大】とやらの加護で来栖は初めから高位の魔法が使える。なので戦力的にはクラスでも一二を争うほどだった。とうぜん国からも期待されていて、今では俺たちと待遇も違っていた。
来栖はわがままが通ると気づくとそれはもうやりたい放題。訓練はさぼるは豪華な個室を要求するはお付きのメイドを要求するはでクラスの連中から嫌われるのはよくわかる。そでも実戦で結果を出してくるので何も言い返せないようだ。そのうっぷんが同じクラスカースト最下層の俺にきているように思えるのでいい迷惑だ。
「ここだけの話だか……近々特別な作戦に参加することになった。いや、是非ってせがまれて断れなかったんだがな。たくっ出来る男はつれーわw」
「気がすんだか? お前と違って俺は忙しいんだが」
「なんだ嫉妬か? 見苦しいぞw」
「別に……」
まったく度し難いアホだな……。
「今度の作戦が成功すれば俺様に貴族の地位を与えてくれるそうだ。どうだ羨ましいだろ?」
「まったく全然羨ましくねぇ」
「ふんっ、お前には縁遠い話だしこの意味の重大さがわかってねぇようだな」
「どういう意味だよ?」
「貴族になれば……王族と結婚もできるってことだよ」
「お前……自分で何言ってんのかわかってるのか?」
「なんだよ、不敬だとでも? いずれ本物の英雄になる俺様がお姫様と結婚することこそ自然な流れだろ」
重症だな……。それにこいつ……まったく気が付いていない。
「あの可憐で美しいお姫様が俺様の嫁になる日が待ち遠しいぜ……」
「勝手に言ってろ」
「お前はまだ会ったことなかったよなぁ。あっ、そっかそっか、お前如きが謁見できるわけねぇかw」
結局それが言いたかっただけのようで、来栖の奴は満足して去って行った。二度と話しかけないでほしい。俺には時間がないのだから……。
汗を流して食事を終えた俺は書庫へと向かった。一応勇者という肩書があるので出入りは自由。召喚特典か何かでこの世界の読み書きはできるのでこうして本を読むことができるのだ。さて今日は何を読もうか……。
「こんばんは、アマサワ様」
「……ども」
書庫なんて場所には似つかわしくない華やかな女性が俺に笑顔を向けてくる。毎度のことだが未だになれない。
彼女との出会いは一週間ほど前に遡る。俺のスペックではこの過酷な世界を生き抜いていくのは難しいだろうと見切りをつけた頃だった。
案の定、強化魔法を覚えられそうになかった俺は別の道を模索できないかと悩み知識を得るためにこの書庫を訪れた。騎士団の教官たちも才能のない俺に時間をさく暇があれば他のクラスメイトの面倒を見ていた方がいいと判断したのだろう。自主トレということで空いた時間は書庫を使用することを許可してくれた。
そのとき役立ちそうな本がないかと広い書庫をさまよっていたときに出会ったのが彼女だ。彼女は親切に俺が求める本を一緒に探してくれた。優しさが身に染みた。司書の仕事をこなしているだけであっても優しさに飢えていた当時の俺が彼女に好意を寄せないわけがない。なので遠回しではあるが告白した。大胆な俺。異世界に来たことでちょっとタガが外れていたのだろう。おまけに心が弱っていたしな。そして頬を赤く染めた彼女は……。
『ごめんなさい』
はい、ごめんなさい来ましたー!
調子にのってすいませんでしたー! 穴があったらダイブしてそのまま埋めてほしい!
そんな俺の気持ち読んだのか、彼女は秘密を打ち明けてくれた。
『わたくしの名前は……エステリア・グランノール。この国の王女です』
『……』
『なのでそのぉ……お友達でしたら喜んで』
『……あっはい』
黙っていても不敬だし、断っても不敬だし、ともかく俺は既に王女様とお友達になっていた。その後も関係はかわっていない。本が好きで博識な王女様は俺が悩みを打ち明けるとテコ入れに力を貸してくれた。今日もおすすめの本を用意して待っていてくれたのだ。
来栖見てるかーw
ここまでお読みいただきありがとうございます。短い話しになるかと思いますがお付き合い下さい(評判が良ければ続けたいです)