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うさぎを飼おう  作者: もか
7/7

今日が休みでよかった

 15分しないうちに移動、移動で結局『はな』は寝ていないのかもしれない。手の固定ガーゼは濡れてしまうから外してある。出来れば安静にしていてほしいのだけど、気持ち悪いって言っているように見える。

 

 薬をあげれば飲めたけど、ペーストの固形フードは口に含んでも飲めない。

 頼むよ、飲んでくれ。

 でもうんちが出ていないから飲めないのかもしれない。食べなきゃ出ないけど、腹には虫が溜まっているから出すものはある。おしっこは出ているから、バナナペーストで水分補給。少しだけ飲んでくれる。

 それでも0.4mlが遠い。

 

「キュイー、キュイー!」

 小さく鳴いて、痙攣し始めた『はな』。

 時刻は朝の8時半過ぎ。

 相手は致死率の高いコクシジウムだ。やれることはない、抱っこして声かけて、撫でることしかできない。

 わかっているのに、何かをしたいと思うのは脱臼させてしまったという罪悪感か。

 ネット検索で近場のうさぎを診てくれる病院を探す。心では言うことは決まっているのに、言葉は詰まるし涙は流れる。

 電話を終え、車に乗ったときには断続的な小さな痙攣に変わっていて。膝に乗せて撫でながらも、心は既に間に合わずに亡くなったという病院への対応。

「はなー、いい子ねー。側にいるよー」

 信号で止まるたびに呼吸を確認。

 確認。

 …止まっているように見えるけど、静かに息をしているだけかもしれないから、もう少し。

 こんなに温かいんだから、もう少し。

 撫でて。

 撫でて。

 車を止めた。

 

 少し泣いて、泣きながら病院に電話対応のお礼をして。

 しばらく息を整えながら母に電話をした。

 経過と、午後に火葬場に連れて行く報告。鼻声になるのは仕方がない。お別れってそういうものだ。

 

 

 来たばかりで好きなものすら与えてあげられなかった。脱臼で痛みを与えてしまった。ストレスのせいでコクシジウムを増やして発症させてしまった。

 思い返せば後悔の多い数日間だ。

 このお腹の張りが憎い。

 

 

 でも。

 昨日が休みでよかった。病院に行けたし、実家への顔見せもできた。小屋の消毒と全身も出来た。

 今日が休みでよかった。最後にゆっくりついていてあげられた。ずっと撫でて、硬直が出るまで膝に置いておく。

 母に一休みして出かけるよなんて言っても結局は眠れる気はしない。ただ膝において、少し気分転換に携帯を弄る。

 熱湯消毒した服を洗濯機にかけて。

 膝がまだ温かい。

 いや。

 触れればもう冷たい。自分の体温だ。

 腹だけが柔らかくて憎い。

 『くぅ』もいる。『はな』の居た小屋も消毒しないといけないのだから、いい加減に切り替えないと。うだうだと気付けば正午の鐘。

 えいやと夕方に火葬場に持っていくための紙袋に入れて、餌を少し。

 『はな』の使っていたものを熱湯に漬ければ既に夕方。

 

 さよなら、『はな』。

 『くぅ』が発症しないように見守っていてね。

 ごめんね、『はな』。痛かったね。苦しかったね。もう大丈夫だからね。

 ごめんね、『はな』。

 最後、一緒に過ごせて良かったよ。ありがとう。

 おつかれさま、『はな』。

 

 

 待望のうさぎを飼うための、子供時代を楽しむための記録を書こうとしていたのに。

 あっけなく終わった『はな』との日々。

 『くぅ』とのこれからに思いを馳せ、追悼の想いをここに綴る。

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