夢の中でキスされた。
ーー彼がキスしてきた。
私は目を見開く。キスされる夢を見た。
しかも、同級生だ。
私は、すぐにベッドの横にある本棚に置いた携帯電話をとる。
キス 意味 夢占い。と検索をした。
誰かにキスされる夢は、その相手がキスしたいという気持ちの表れ。
「はいぃい!?」
仰天してしまった。
「そんなバカな……なんで……」
わなわなと震えてしまう。
顔は火がついたように、熱くなった。
「そんなわけ……ないのにっ!」
両手で頬を押さえ付けて悶える。
部屋の外から、母親が朝ご飯を知らせてきた。
だからベッドから降りて、朝の支度を整える。
生まれつきの栗色の髪をお下げにして、指ですくってとるタイプのリップクリームを唇に塗って、高校に登校した。
でも緊張してしまう。何故ならーー……。
「おう、おはよう。中川」
夢に出てきた彼は、隣の席のクラスメイトだからだ。
「お……おはよう、爪河くん」
野球部の部員。ちょっと身長は低め。
でも顔立ちは整っているイケメン男子生徒だ。
彼とは別になんでもない。ただ同じクラスで、席が隣通りなだけ。
親しい友だちってほどでもないし、断じて好きな人でもない。
なのに、そんな爪河くんの夢をよく見る。
よく夢に出てくるのだ。不思議なものだとは思った程度だったから、挨拶交わしたあとに「今日夢の中に君が出てきた」と笑って言っていた。
「まじかー」という返事を受けるだけ。それっきり。
爪河くんとは、そんな仲だ。
「……」
そんな爪河くんに、爪河くんに、爪河くんにキスされた夢を見てしまった。
しかも、生々しくリアルだった。
「……」
「……何、中川……難しい顔して」
「べ、別に?」
顔に出てしまったらしく、私は自分の頬を揉む。
指摘してくるなんて、珍しいこともあるものだ。
爪河くんは、机に頬杖をついて私をじっと見てきた。
机が並んでいるから、近い。近いぞ。近過ぎる。
あの夢を思い出してしまって、心臓がバクバクしてしまう。
声が裏返ってしまった。
「……ふーん?」
怪しむ爪河くん。こっちを見ないでほしい。
妙に意識してしまう。あんなリアルな夢を見たからだ。
さりげなく髪を撫でて、左腕で遮った。
焦る。視線を感じるからだ。怪しんでいる。
ホームルームが始まった。
爪河くんは頬杖をついたまま。たまに視線を感じた。
こんな一日になってしまうのか。
キスされるリアルな夢を見て、動揺しまくる。
「中川、今日なんか変じゃね?」
昼休みになって、爪河くんが尋ねてきた。
購買で買ったお米パンを、危うく吹き出しそうになる。
「そ、そう?」
「ああ。なんか……変」
何かはわからなそうだったが、怪訝な目付きで爪河くんは私を見てきた。
「目ぇ、合わせようとしないし」
「……そ、そう?」
目が逸れる。逸れてしまう。
ていうか、見られている。見られてしまっている。
じっと見てくる。じぃっと見てくる。
ひぃい見ないで。
「白状しろ! なんかあったんだろう!?」
放課後、真っ先に帰ろうとしたら、がっしりと腕を掴まれた。
爪河くんってば、何故!?
そっか、今日は部活休みの曜日だ。
「べ、別に、私はな、何も」
「また目ぇ逸らす! 俺、何かした!?」
ギュッと握り締められる。
「しました……いや、してないよ!?」
「今しましたって言った!」
口を滑らせた!
「爪河くんは、本当に何もしてないよ!?」
「また目ぇ逸らす」
ギッときつい目で見られる。
それの視線と合わせられないのだ。
逸らした視線は、こちらをニヤニヤしているクラスメイト達が、教室を出て行く。
誰か、助け舟を出してくれ!
願っていたのに、どんどん部活のないクラスメイト達が帰って行ってしまった。
「で? 俺、何したの?」
「……ひぃ」
じりじりと迫ってくるものだから、私は悲鳴を漏らしてしまう。
鮮明にある夢が過ってしまって、身を引くけれども、腕を掴まれてしまっているこの状態では離れない。
「話すから! 話すから、一旦離れて!」
「……よし、話せ」
机に腰を落とした爪河くんは、それでも私の手を離さない。
逃がさないつもりだ。
この白状しなくちゃいけない状況なんなん。
「……きょ、今日……また夢に爪河くんが出てきて……」
「うん。それが?」
相槌を打つ爪河くんが、続きを急かす。
その続きが言えない。
バクバクと心臓が高鳴る。
頬が熱くなりすぎて、落ちてしまいそう。
ていうか、死にそう。
「き、キス……され、た……」
か細い声で告げた言葉に、心臓がもう締め付けられる。
消えたい。逃げたい。帰りたい。
もうこんな理由で、ずっとキョドッていたなんて。
「……まじで?」
爪河くんは、驚いていた。
消えたい。逃げたい。帰りたい。
「……俺が、中川にキスする夢?」
「……はい、もう帰る」
私は消えたい。逃げたい。帰りたい。
涙目になって逃げようとしたけれども、手は放してもらえなかった。
「まじかぁ……」
爪河くんが頭を掻く。その手で携帯電話を取る。
「キス 夢 意味」
「ググってる!?」
「気になるじゃん」
私と同じことしている!
「ぷっ! 相手のキスしたい気持ちの表れって……まじかぁ」
同じサイトを見ているであろう爪河くんは吹き出した。
「まじかぁ」としみじみ呟き、天井を見つめる。
「なるほど。中川は俺が中川にキスしたいって、気持ちを察知しちゃってそんな夢を見たわけだ」
「ご、ごめんなさいぃい!!」
「なんで謝るの?」
掴まれた手を引っ張られた。
グンッと近付く距離。爪河くんの整った顔が目の前にある。
そう思いきや、唇が触れた。
「本当のことだもん。俺が中川にキスしたいのは」
唇が、触れる。
夢と同じように、さらりと唇を重なった。
「リップクリームつけた唇に触れたいと思ってた。これで正夢になったな」
私は、口をパクパクさせてしまう。
爪河くんは、そんな私に笑いかける。
「で? 中川。返事は?」
私の心臓は、爆発しそうだった。
昨日、同級生にさらりとキスされる夢を見たので、
それを元に書いてみました!
気恥ずかしさがありましたが、甘い感じにいけました。
ツメカワくん、元気かな。
20171026