薄紅は生きて栞となる
薄紅はそっとは微笑んであの子を写す。いつかのあの子を…。
サワサワと音に揺れて、僕の髪を揺らす。
――あぁ、いつかの君よ。僕は君を愛している。今も……――
そっと口づけを薄紅の花びらに。もう会えない貴女に届く事を願いながら、穏やかに撫でる春の風に乗せる。
――僕の心に貴女は生きている――
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『ねぇ、いつも君は1人だね。なんで?』
『君には関係ない。僕に関わらないでくれ』
『う〜ん、そっかぁ。友達がいないんだね。じゃあ…』
『私が君の〇〇になってあげるよ!!!』
僕は病室で目を覚ます。
白い箱のような真四角の一室にポツリと一人。
顔を洗いに行くと、目は赤くなっていて、頬をつたる水跡は僕が涙を流していた事を証明していた。
「おはよう、よく眠れたかい?」と白衣を着た五十半ばのおじいさんは僕に言った。
「あ、はい」と間抜けな顔と声で返答した。きっと、それは寝起きで頭がぼやけていたからだと信じよう。
「そうかい?なんで君は泣いているんだい?」
「いえ、分からないんです。僕も。なにか夢を見て、起きたら泣いていたんです」僕は淡々と説明をし、白衣のおじさんは僕の話を目をまん丸にして聞いていた。
そして、「どんな夢かな?教えてもらってもいい?」といつも以上に力強く聞いてきた。それはまるで必死にパズルのピースを探す子どものように…。
――淡く揺れる木々にただ一人立っていた。
壊れたロボットのように目的無くフラフラと歩いている
手には一冊の本を持ち風はパラパラとベージを捲っている。
坂を登って茶色のベンチに腰掛け、その本を読んでいた。
それがどんな話だったのか思い出せない。
それでも悲しく暖かい話だった気がする。
そして、一人の少女が僕の隣に座って言った。
『またこんなところで本読んでる。君はいつも1人だね』
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医者は何かを言いたげに唸っていた。
「ありがとう、綺麗な夢だったよ」そう一言だけ言ってから部屋をあとにした。
それからどのくらい時間が経っていたのだろうか。
病室の屋根をじっと眺めながら、外から聞こえる車の音、人の話し声、飛行機の轟音、木々の擦れる馨、鳥の鳴き音。
世界に広がる音を聞きていた。目には白が焼き付いている。
ノック音と同時にドアが開き、朝、話をした医者が入ってきた。
そして、医者は言った。
「君は今、なぜ生きているか"覚えて"いるかい?」
唐突の質問に答えられず、頭は何故か抵抗を続けていた。
「やっぱり覚えていないみたいだね…。君は事故にあっているんだよ。ある桜の咲く坂道で。そしてそんな君がなぜ今生きているかと言うとね君の…………」
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「ごめんね、思い出すのに時間がかかっちゃった」
君と出会った桜の木の下に僕は今、立っている。
「こんな事になるならもっと君と話していればよかったね」
また一粒、涙がこぼれる。薄紅染まって光っていた。
「ちゃんと伝えておけばよかったね」
手に持っている本のページがパラパラとめくれていく。
「ごめんね、もう行かなきゃ。また、来るから。絶対に」
返事をする様に桜の木は揺れ、僕の本に、物語に入ってきた。
――貴方の心に私はいますか?私の愛おしい恋人よ――
桜の花は一冊の本の栞になって、今も生きている。




