↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

薄紅は生きて栞となる

作者: 林和 郡
掲載日:2017/03/23


薄紅はそっとは微笑んであの子を写す。いつかのあの子を…。

サワサワと音に揺れて、僕の髪を揺らす。


――あぁ、いつかの君よ。僕は君を愛している。今も……――


そっと口づけを薄紅の花びらに。もう会えない貴女に届く事を願いながら、穏やかに撫でる春の風に乗せる。


――僕の心(ナカ)に貴女は生きている――


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

『ねぇ、いつも君は1人だね。なんで?』


『君には関係ない。僕に関わらないでくれ』


『う〜ん、そっかぁ。友達がいないんだね。じゃあ…』

『私が君の〇〇になってあげるよ!!!』


僕は病室で目を覚ます。

白い箱のような真四角の一室にポツリと一人。

顔を洗いに行くと、目は赤くなっていて、頬をつたる水跡は僕が涙を流していた事を証明していた。

「おはよう、よく眠れたかい?」と白衣を着た五十半ばのおじいさんは僕に言った。

「あ、はい」と間抜けな顔と声で返答した。きっと、それは寝起きで頭がぼやけていたからだと信じよう。

「そうかい?なんで君は泣いているんだい?」

「いえ、分からないんです。僕も。なにか夢を見て、起きたら泣いていたんです」僕は淡々と説明をし、白衣のおじさんは僕の話を目をまん丸にして聞いていた。

そして、「どんな夢かな?教えてもらってもいい?」といつも以上に力強く聞いてきた。それはまるで必死にパズルのピースを探す子どものように…。


――淡く揺れる木々にただ一人立っていた。

壊れたロボットのように目的無くフラフラと歩いている

手には一冊の本を持ち風はパラパラとベージを捲っている。

坂を登って茶色のベンチに腰掛け、その本を読んでいた。

それがどんな話だったのか思い出せない。

それでも悲しく暖かい話だった気がする。

そして、一人の少女が僕の隣に座って言った。


『またこんなところで本読んでる。君はいつも1人だね』


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


医者は何かを言いたげに唸っていた。

「ありがとう、綺麗な夢だったよ」そう一言だけ言ってから部屋をあとにした。

それからどのくらい時間が経っていたのだろうか。

病室の屋根をじっと眺めながら、外から聞こえる車の音、人の話し声、飛行機の轟音、木々の擦れる馨(コエ)、鳥の鳴き音。

世界に広がる音を聞きていた。目には白が焼き付いている。

ノック音と同時にドアが開き、朝、話をした医者が入ってきた。

そして、医者は言った。

「君は今、なぜ生きているか"覚えて"いるかい?」

唐突の質問に答えられず、頭は何故か抵抗を続けていた。

「やっぱり覚えていないみたいだね…。君は事故にあっているんだよ。ある桜の咲く坂道で。そしてそんな君がなぜ今生きているかと言うとね君の…………」


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「ごめんね、思い出すのに時間がかかっちゃった」

君と出会った桜の木の下に僕は今、立っている。

「こんな事になるならもっと君と話していればよかったね」

また一粒、涙がこぼれる。薄紅染まって光っていた。

「ちゃんと伝えておけばよかったね」

手に持っている本のページがパラパラとめくれていく。

「ごめんね、もう行かなきゃ。また、来るから。絶対に」

返事をする様に桜の木は揺れ、僕の本に、物語に入ってきた。


――貴方の心(ナカ)に私はいますか?私の愛おしい恋人よ――


桜の花は一冊の本の栞になって、今も生きている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。