先輩➂
今、俺の目の前にはお宝がある。
なんて綺麗なんだ……。
「なあ、工藤。冷めるぞ?」
笠井は何のためらいもなく目の前のお宝を食べていく。
お、お前!そんな風に食べるなんて。
もっとこう、味わってだな。
「なあ、工藤。せっかく篠宮さんが作ってくれたのに美味しいうちに食べないのは罪じゃないか?」
俺は笠井の言葉に愕然となった。
そして急いでスプーンを持つと目の前のお宝を頬張った。
「うっ!……美味い!」
マジで美味い。
俺はそれからは何も喋らずただ目の前のお宝を食べ続けた。
全て平らげたあと、視線を感じてそちらを見ればかなり微妙な顔をした笠井がいた。
「工藤……お前、キャラ変わりすぎだろう。」
「うん?どういう意味だ?」
俺は言っている意味がわからず笠井に聞いた。
「いやさ、だって。お前、前に彼女がいた時弁当もらって食べても何にも反応してなかったよね?それが、何コレ。ビックリなんだけど。」
ああ、そういう意味か。
「お前、そりゃそうだろう。初めて好きな人の手料理を食べたんだぞ。興奮しない方が異常じゃないか?しかも出来立てだぜ。もう、なんか俺今だったら何でも出来そうだわ。」
俺の言葉に笠井はさっきよりも微妙な顔をした。
何だよ、失礼な奴だな。
「ああ、うん、もういいよ。工藤が篠宮さんにメロメロなのはわかったから。」
ふん、今更だろう。
何を言っているんだか。
俺と笠井が食事後まったりしているとドアがノックされた。
コンコン
「お兄ちゃん、入るよ?」
笠井の妹が来たようだ。
「ああ、いいよ。」
ドアが開かれ笠井の妹が入って来た。
ちょっとドキドキしたが、もちろん篠宮さんはいなかった。
「お兄ちゃん……と工藤先輩、シノちゃんが帰っちゃった。お兄ちゃんに送らせるよって言ったんだけど、大丈夫って言って。ねえ、工藤先輩偶然を装ってシノちゃんを……」
俺はその言葉を聞き終わる前にカバンを手に持ち、笠井と笠井妹に挨拶をした。
「今日はサンキュ。じゃあ、俺は急ぐから。」
「うわっ、早!ああ、じゃあ篠宮さんをよろしくな。」
俺は「ああ!」と返事をしながら笠井の部屋をあとにした。
笠井の家を出て、はて?と考える。
篠宮さんの家はどっちだ?
俺はよく考えたら篠宮さんの家がどこだか知らない。
俺が笠井の家の前で固まっていると、笠井の家の玄関のドアが開き中から笠井妹が出てきた。
「あ〜〜、やっぱり。先輩……もしかしなくてもシノちゃんの家知らないでしょ?」
俺は笠井妹の言葉にうなだれた。
「もう、しょうがないなぁ。はい、これ地図。簡単に描いたけど無いよりマシでしょ?一応住所も教えておくからあとよろしくね。」
俺は笠井妹から紙を受け取り、素早く礼を言うとダッシュで篠宮さんを追った。
別に一緒に帰らなくても良いから、無事だけは確認したい。
こんな夜道に一人歩きだなんて危険過ぎる。
俺のいつになく本気の走りで、前方に篠宮さんを発見することが出来た。
もちろん無事にだ。
俺は少し息の上がった呼吸を整えるように深呼吸をした。
そして篠宮さんの後ろを見つからないように少し離れて歩く。
いきなり俺が現れたらさすがに変に思われるだろう?
ところが篠宮さんは、突然走り出してしまった。
え?ちょっと待ってくれ、そんなに走ったら転ぶぞ。
こんな夜道で転んで怪我でもしたら大変だ。
俺は走る篠宮さんを一定距離をあけながら追いかけた。
しばらく経つと篠宮さんはコンビニに入った。
ふう、何だ、コンビニに用事だったのか。
俺は篠宮さんがコンビニに入って用事を足すのを待つことにした。
何気なくコンビニの中を見ると…………な!
お、おい!誰だアイツは?!
ちょっと目を離した隙に、見慣れない奴が篠宮さんの隣に立っていた。
し・か・も・だ!何と篠宮さんの頭をポンポンしているではないか!
お、俺だってまだしたことないのに。
篠宮さんはその男に笑顔を見せている。
本当に誰なんだ?もしかしてこのコンビニで待ち合わせしていたとか……。
俺は自分の顔が引きつっていることを感じた。
俺はこの後記憶が飛んでいる。
気がつけば何故か自分の部屋にいた。
一体いつの間に帰ってきたんだろうか?
あ、もしかして全部夢だったんじゃないか?
しかし俺の願いもむなしく次の日学校で笠井に言われた。
「あ、工藤おはよう。昨日は篠宮さんと一緒に帰れたかい?」
ちっ、夢じゃないようだ。
篠宮さんの隣にいた男は誰なんだ!
俺の機嫌が悪いことに気がついた笠井が、不思議そうに話しかけてきた。
「工藤……顔が怖いよ。あんなにオムライス食べて幸せそうだったのにどうしたんだよ?」
「…………篠宮さんに男がいた。」
俺の発言に笠井が目を見開いている。
「な、何かの間違いだろ?だって昨日の会話で工藤のこと……」
俺だって信じたくないよ!
ああ、もうどうしたら良いんだ?
直接本人に聞くか?でもそうしたら昨日のモロモロがバレてしまう。
俺はこの日1日唸りながら過ごした。