私➁
先輩達がいなくなって、私だけが廊下に佇んでいる。
一体今のは何だったんだろう?
訳がわからないまま、お使いを果たすべく私は職員室へと向かった。
次の日、先輩は変わらず図書室に現れた。
もちろん今日も本を借りていく。
「篠宮さん、今日は顔色良さそうだね。」
先輩が気にかけてくれた。
こんなちょっとのことで、私の機嫌は浮上する。
浮上ついでに昨日のこと、聞いてみようかな?
「先輩、心配してくれてありがとうございます。あの、昨日なんですが私が女の先輩に話しかけられていた時に、その先輩を連れていってしまったようですが、何かあったんですか?」
私の言葉に先輩が明らかに動揺している。
いつも穏やかな雰囲気でニコニコしているのに、今は視線があっちに行ったりこっちに行ったり定まらない。
最終的に
「あ、ご、ごめん篠宮さん。あっちで友達が呼んでいるみたいだ。また今度ね。」
そう言うと先輩には珍しく小走りで私の前からいなくなってしまった。
先輩の友達らしき姿がないけど、逃げられちゃったのかな?
…………聞かなきゃ良かった。
私の心臓がギュッとなった。
最近先輩のことでたまにこうなる。
私がちょっと凹んで図書委員の仕事をこなしていると声をかけられた。
「シノちゃん。」
友達の笠井 薫ちゃんだ。
「薫ちゃんどうしたの?今日は部活がないから早く帰るって言ってなかったっけ?」
「うん、部活はないんだけど……ねえ、良かったら今日帰りにうちに来ない?確か今日は親が遅くなるから1人でご飯って言ってたでしょ?うちもそうだから一緒にご飯食べようよ。」
薫ちゃんはわざわざ誘いに来てくれたらしい。
薫ちゃんの家は私の家から歩いて10分ぐらいだから帰りも問題ない。
「ありがとう。じゃあ一緒にご飯作ろうか。あと30分ぐらいで終わるから待っててもらっても良いかな?」
私の言葉に薫ちゃんは笑顔で手伝うよ〜と言ってくれた。
優しいな〜。
私は薫ちゃんに手伝ってもらっていつもより少し早く帰れることなった。
「何作ろうか?」
「あ、私シノちゃんのオムライス食べた〜〜い!」
私達はスーパーで食材を選び、薫ちゃんの家に向かった。
お互いに両親が共働きの私達はたまにこうやって一緒に夕食を食べる。
主に作るのは私なんだけど、1人で食べるよりはずっと良い。
薫ちゃんの家に着き、玄関に入るとどうやら先客がいるようだ。
たぶん薫ちゃんのお兄さんの靴とその友人らしき人の靴が置いてあった。
薫ちゃんが靴を見て
「ありゃ、もう帰って来てたんだ。早いね〜〜。」
と言って靴を揃えていた。
これはもしやお兄さんとその友達の分もオムライスを作らなきゃいけないかな?
私達は炊飯器だけセットして、薫ちゃんの部屋に行くことにした。
「ねえ、シノちゃん。」
「どうしたの?薫ちゃん。わからない問題あった?」
私達は真面目に今日の数学の宿題をこなしていた。
私は薫ちゃんが話しかけてきたのでどこかつまずいたのかな?と思い薫ちゃんの言葉を待った。
「あのね、シノちゃんは工藤先輩のことどう思う?」
「へ?」
突然の薫ちゃんの言葉に思わず変な声がもれた。
薫ちゃんはどうやら私の答えを待っているようだ。
何故か目がキラキラしている。
「だ〜か〜ら〜、工藤先輩のこと好きか嫌いか聞いているの。」
え?え?
何でいきなりそんな話しになっているのかな?
好きか嫌いかだったらもちろん……
「好きだよ。」
ガタ!ガタン!
何故か私が答えた直後隣の部屋から何かが倒れる音が聞こえた。
確か隣はお兄さんの部屋だと思うけど、大丈夫かな?
「薫ちゃん、隣お兄さんの部屋だよね?なんか大きい音がしていたけど大丈夫かな?」
「あーー、うん、大丈夫。たぶん友達と盛り上がっているんでしょう。」
薫ちゃんのお兄さんはどちらかと言うと大人しい感じだったと思うのだけど、家ではちょっとやんちゃだったりするのかな。
「そっか〜、お兄さん大人しそうに感じたけど家では違うんだね。」
「ま、まあね。お兄ちゃんのことはどうでも良いよ。それより工藤先輩のことだよ。最近よく話すんでしょう?少しは仲良くなれた?」
「う〜〜ん?どうかな?私は少しは近づけたと思っていたんだけど、先輩は違うみたいだよ。やっぱり仲の良い同級生には敵わないみたい。私はただの後輩の中の1人って感じ……かな?」
う〜〜、言ってて自分で悲しくなってきた。
だって私には絶対一線引いているんだもん。
そんなことを考えていたら、また隣の部屋から音が聞こえた。
バターン!……バターン!
たぶんドアが開いて、すぐにまた閉じた音のようだ。
今日は随分ドタバタしているね、お兄さん。
「もう、お兄ちゃんと……は何をしているのかしら……」
薫ちゃんが小さい声でブツブツ言っている。
薫ちゃんはお兄さんのお友達のこともわかっているみたい。
さてと、気分を変えてご飯でも作ろうかな?