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∬元王子の警護侍女の事情 共通①

『私はアイリス、あなた様の警護を仰せつかった者でございます』


少女が膝をついて頭を垂れる。


『始めまして、アイリス、僕はレヴィンシャルだ』


にこやかに少年が微笑み手を差し出した。


『申し訳ありません殿下、わたしの手は汚いのです。差し出す事は……はばかれます』

『どうして?綺麗じゃないか』

『レヴィ、もし自分が逆の立場なら偉い王子様から手を差し出されたらどう思う?』


王子が食い下がると、黒髪の少年がやってくる。


『それは困るかも』

『そうだろ?だから彼女をこまらせるなよ』


黒髪の少年はレヴィンシャルをたしなめる。少女は彼に心の内で感謝した。


『オレはレヴィンシャル王子の従者、エヴァンセル』

『わ、私はアイリスです』



「きろ…起きろよ……!」

「うーん?」

「おーい!」


居眠り中に昔の夢をみてしまったらしい。

私はブルーロオザ王家の守役の家系に生まれ、幼い頃に両親は殉職していた。

鍛練して王子の傍につき、敵を物理的に排除するのが役目だった。

しかし役目を解かれ、一年前に、今後王族が来日する為の下見としてワコクにやってきた。


「お前がカミシロ警護団に入って一年だな」


リーダーの麻尾ヨエドが唐突に言う。


「そうですね」

「その目も、丁度入りたての頃だったな……」


私はSP組織に入った直後に敵組織の頭である魔緒ナガノブに遭遇し、右目に札のような何かで呪詛をかけられた。

それ以来白い眼帯をしていて、さながらジャポーネのチュウニビョウというやつ扱いだ。


「あ、よし副リーダーやれ」

「まだ一年なのに!?」

「少ない少ないうちにようやく新人が入るんだよ」


この組織は三年前に神代コウルが設立したという。

つまり日が浅くて所属人数もたった数名なので、私でも副リーダーになれるというわけだ。


「うちは少数精鋭なんだよ。まあお前は御茶汲み要員以外の理由で何で入れたかわからない」

「そうですねー」


――本気を出せば貴様なんぞ一捻りで潰せるがな。と言いたいが一般人に溶け込む為に我慢する。


「お前ここに来る前はどこにいたんだ?」


ああ、入る前なんて嫌なことを思い出す。


『なぜ……』

『君はもう辞めるんだ』


私は王子の影として警護をそつなくこなしていた。


『レヴィンシャル、お前なんてこと言うんだ!』

『私は貴方を守る為に生きて参りました。それがまさか殉職意外で去る事になるとは……さようなら殿下』


――あのときは配下としての役割を潰され屈辱だったことを覚えている。


王子に役目を解かれた後、陛下の命令で来日するとまるで映画のような雨の日。

顔にかかるそれが涙なのかもわからないほどに土砂降り。


『泣いているのかい?』


薄幸そうな銀髪の青年は私へ傘を掛けてたずねた。


『……?』


言語的に彼が何をいっているのかわからない。


『ああ、君は……』


青年は私の額に手をかざすと微笑む。


『泣いてない』


私は不思議と言葉を理解して、今にいたる。


『独りなんだろう?内で働かない?』

『……ミズショウバイ?』

『違うよ、要人のSPをするところ。それにほら、私はホスト並みのイケメンだからキャバとかホステスなわけないだろう?』


見た目と反してとんでもない自信過剰、ナルシーくんだった。


『私は神代コウル、君は?』


適当に名乗ろうか、国の名はブルーロオザだったから――


『……薔薇(しょうび)アヤメ?』

『あのさあ……偽名使うにしても疑問符はダメでしょ』


どちらかというと花菖蒲(ショウブ)にすべきだったかと後悔した。


『じゃあアイリス・ローザで』

『本名かわからないけど、ウチに来るんだよねアイリスちゃん?』

『行く』


―――なんとも最悪な出会いだ。


「いい思い出だよねアイリスちゃん?」


こいつはなんで心を読めるんだろう?


「あ、社長、うっす」

「やあ、今日は珍しく良い仕事が入ったよ」


奴の良い仕事は、嫌な予感しかしない。


「明日はとある国から王子・貴族が来るらしい。というわけで本場の警護ではこちらの人間に攻撃すると国際問題になるので沙汰は我々でやることになる」


――そんな話聞いてない。


「急過ぎじゃね……」

「いつものことですよリーダー。わかった神代」

「え、なんで彼には敬語?」


ところで新入りはまだなのだろうか―――


「送れてすみません!」

「九狐!おせーぞ!」

「じゃあ当日にね」


新入りの説明もなしに去っていく。


「自分は九狐タタルっす。よろしくお願いしますっす!」


こいつ、そういうキャラなんだろうなあ。いかにもチャラ男作りました感がバレバレ。


「まあ礼儀なんて今さらだよなあ……」


社長にうっす、とか言っていたもんなあ。


「オレは麻尾ヨエドだ。よろしくな」

「私はアイリス・ローザ」

「じゃあ今日からビシバシ頼みます先輩!」


ビシバシと言われても、何をしろと?


「あれ、仕事はないんすか?」

「あー明日からな」

「え、ダイエットが?」



今日は仕事もないので、早く社員寮に帰ろう。


「うーん、この道を真っ直ぐ……」


なにやら見覚えがあるような気のする和服の男が地図を持ちながら歩いている。


『貴様が敵組織の頭ね』

『ほう……中々いい眼をする女だ』

『なっ何を仰有っておられるのですか、この不肖秋(あき)、魔緒サマにはもっとしとやかな女人がふさわしいと存じます!』


――ああ、たぶんあいつだ。

やつはたぶん、魔緒ナガノブの部下のリーダー的存在。


「あいてっ」


雰囲気は四天王最弱なのにね。


「大丈夫?」


寮近くで電柱に額をぶつけてうずくまっていて、さすがに無視はできない。


「お前はたしか……魔緒サマの女!」


――だれがナガノブの女か、腹がたったのでなにも見なかったことにする。


「待てよ!」


こいつは腐っても悪の組織のナンバー2、油断して背を向ければ捕まえられる。


「ちょっ!?」


後ろから美男に抱き締められる。ジャポーネの漫画でよくある一面だ。


「ママーあのひとたち後ろ向きでハグしてるよー」

「しっ!見ちゃいけません!!」


――最悪、今までで一番ではないがその次に最悪だ。


「あれから一年、俺はお前を探していたんだ。今日まで道に迷いすぎてみつからなかったが……ここで会ったが100年目!」


やはり秋はナガノブが私を気に入ったとかで拐いにきたのだろう。


「ナガノブの命令でしょ?」

「いや、魔緒サマは知らないと思う」


じゃあなんの為に探すのかわからない。


「なにかよう?」

「お前のその目には花嫁の呪いがかけられている」

「……今さら?」


まあ一年迷ったから伝えられなかったのか。


「今年中に解かないと、魔緒サマがお前を拐う、いや強制的に招かれる」

「なんで教えてくれるの?」


主の命令に逆らうなんて、感謝はあれど元従属としては良く思えない。


「お前を魔緒サマの花嫁にするわけにはいかない!」

「ああ、なるほど」

「魔緒サマには俺の妹を添わせる。家老たちも納得だ」


――魔緒って殿かなにかなの?


「そしてお前は……」

「おーい!アイリス~」


ヨエドが私を呼んでいる。振り向くと秋はすでに去っていた。


「なにを言いかけたんだろう」



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