Ж兄にかわって女執事に! 共通①
風邪をこじらせて肺炎の手術をしなくてはならなくなった兄に変わって、変わりにバイト先に行く事になった。
「お兄ちゃん」
衣装を着た私は真顔で兄に問い詰める。
「ちゃんと話をしてなくてわるかった」
兄は焦り、目を反らす。
「あのさあ、お屋敷の使用人がなんでスーツ?」
「オレ執事ってか男使用人だし?」
兄は男だし執事服なのは当たり前ではないか。
「そうじゃなくて!執事って男の仕事だよね!?メイド、フリフリのエプロンのあれは!?」
実はひそかにそういう格好に憧れていたので、拍子抜けである。
「外国の執事要請学校はなあ、女性もいるんだぞー神主だって車掌だって工事現場だって」
「そうなんだ…」
次の日、兄のわけのわからない話に、ふ’に落ちないいまま屋敷へ。
中に入って早々、迷っていると、人を発見した。
すぐにここに来た経緯を説明した。
「オレ的にはベージュより黒のパンストがよかったがな」
と薔薇を片手に持ちながら鏡を見ているナルシスト風の男に言われ唖然とする私。
初対面で何を言うんだこの変態は。
「いきなりセクハラですか!?」
引き受けたことを後悔しつつあとずさる。
「話は聞いているよ君が代わりに入った新人だね」
背後にダンディなおじ様が現れた。
「はい」
「…私個人的にスリットは横がいいぞわが息子よ」
「これがホントのセクハラ親父か」
うまいこと言っても二人ともセクハラには変わりない。
「すいません帰ります」
付いていけそうにないので、辞退することにした。
「待ってお姉さん!」
二才ほど年下そうな男の子が私の手を掴む。
よくみると彼はふわふわの銀髪に紫の瞳だ。
「えっ?天使?」
意図せずおもったまま呟いてしまう。
「二人とも久しぶりに可愛い女の人をみられたから照れてるだけで普段はいい人なんだよ」
「かっ可愛い?」
照れてしまい私の頬がかあっと赤く染まっていくのがわかる。
「うん僕こういうお姉さんがほしかったんだ~」
「すみません私やっぱり兄の変わり暫くここで働かせていただきます」
「単純だな」
兄の変わりに執事、やります。
―――
「改めまして、兄の夏崎柚希に代わり執事をやることになった妹のユズリです」
「おー」
パチパチとフレンドリーな歓迎の拍手をされる。
「私は如月金磁、見ての通りこの家の家長だよ、二人は長男の緑綺、次男の紫雪」
「気軽によろしく」
「おねがいしまーす」
お金持ちってもっと厳しいイメージがあったんだけど、今時は違うのかな…。
いまごろ兄の手術はどうだろう。
早く退院できるといいな。
■
「じゃあさっそくよろしく頼むよ」
「任せてください」
とはいったものの―――
執事ってなにすればいいんだろう。とりあえずはお茶いれたりスケジュール管理したりテーブルに食器並べればいいんだよね?
お兄ちゃんが肺炎じゃなかったら電話で聞けるんだけどな。
「なあ、アンタ新入りだよな」
私が立ちつくしていると、黒髪の青年に声をかけられる。
「あ、はい!!」
「じゃあこの店でお茶用ケーキ買ってきてくれ」
と言ってメモを渡された。
よかったケーキを買うならできるけど、屋敷で作らないのかぁ。
まえに読んだ執事漫画だと実は悪魔の執事がケーキを作ってた。
なんだかイメージと実際の内容は違うなあ。―――近場のケーキ屋に着く。メニューも豊富でいかにも高級そう。銀髪のパティシエがパネルにうつっている。白銀さんというらしい。ベタにフランポーネで修行したとか書いてある。
「いらっしゃいませ」
銀髪の美形パティシエが現れた。どうみても看板の白銀さんに違いない。
「あ、このメモにあるケーキを買いにきたんです」
英語、しかも字が繋がっているアレで書かれていてよくわからないケーキの名前なので、メモを見せた。
「おや、もしかしてあの屋敷の新人さんですか?」
「まあ、厳密にいうと違いますけどある意味そうです」
白銀さんはブルーベリーのケーキと抹茶のケーキを箱に入れる。なんだろうあの二人にピッタリな色だ。
というかこんな簡単なメニューならわかりやすく書いたほうが……あの人がメモを書いたならすごい。
会計をすませて屋敷へ戻る。道中アクシデントはおきなかったので、ケーキは無事に二人のお茶に出せた。
「聞いてもいいですか?」
先輩になぜケーキを買ったかたずねた。
「ああ、専属シェフはいるが坊っちゃん達はあの店のケーキが好きでな」
「なるほど」
たしかにあのデザインは滅多にみない。
「旦那様はパティシエを引き抜きたいらしいが、店があるからな」
ということで明日もケーキ屋へ買に行くのだろう。
「きゃ!?」
帰り道に怪しい男にぶつかり、彼の帽子やかけていたサングラスがとれて顔が露になる。
「ごめんなさい」
おとした帽子とサングラスを拾って渡す。
「すまない」
このあたりにはいないような美形だった。
「もしかして芸能人ですか?」
「……いいや違うが、こんな姿でいればそう思われるのも仕方がないか」
――なんかヤバイ組織から逃げてるとか?
「私はある国の王子を探している」
「またまたぁ……」
きっと演技中の役者の卵に違いない。
「こういう顔なんだが」
写真を見せられ、そこには銀髪の王子がいた。
「なんかどっかで見たような……」
――これは間違いなくパティシエの白銀さんだ。
「そうか、見かけたらこれに連絡をくれ」
連絡先の書かれた紙を貰ったはいいが、マジであのパティシエ白銀が王子なの?