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バトル(の準備)回

本日二本目。


 そこは、まさしく戦場だった。


 そこに立つ者はたった二人。

 だが決闘と言うには温すぎる、互いの死力を尽くした戦いの場である。


 一人は魔法を得意とするらしい。

 ただ腕を組んだまま、戦場を見据える。

 ふと、その背後に炎の矢を作り出した。

 その数、百二十八本。

 当然詠唱はない。

 そのままなんの脈絡もなく、その全てを放つ。


 その先には剣を持つ者が一人。

 剣を構えるその者は、圧倒的な数で迫る炎の矢に対し、僅かに構え直すだけで迎え撃つ。

 次の瞬間。剣士に迫る矢は僅か一降りで落とされ、それと同時に魔法士に向かって大きく踏み出した。


 魔法士は特に慌てる様子もなく用意していた水球を放ち、剣士も応えるようにそれを切り裂く

 鋼をも切り裂く風の刃が左右から迫れば、剣士はそれに怯みもせず右を切り落とし左を避け。

 地面が隆起し視界を塞ぐほど巨大な錐となってその身に迫れば、その身と足でことごとくを交わし、魔法士に向かう最短ルートのものだけを切り捨て、なお踏み込む。


 だが晴れた視界の先に居る魔法士は、その身を数多の魔法で覆っていた。

 魔法士は侍従に命令を下すがごとく、目線だけで合図を出し、その全ての魔法を剣士に贈った。

 魔法が炸裂し、爆発となって周囲を埃と煙で覆い尽くす。


 その煙を晴らすように、剣士は飛び出した。

 魔法士は慌てたように魔法を放つが当然の如く切り捨てられ。

 一歩、また一歩と二人の距離が縮まり。


 そして剣は魔法士の首をとらえ、首を切り裂く寸前で止まった。


「……私の勝ちだな」


 顔に浮かぶ笑顔は小さいが、そこには大きな達成感が込められていた。

 長年の宿敵を倒したような、いや幼い頃からの追い続けた大きな背中を倒したような達成感。

 恨み憎しみと言った負の感情は一切なく、ただ喜悦の表情がそこにはあった。


 対する魔法士は、ただ無表情。

 先ほどの焦りはどこへ消えたのか、悔しさも、敗北感も、寂寥感もない、いつもの通りの表情がそこにあった。

 ただでさえ敗北という文字を叩き付けられているというのに、それを表情に出すのは勝負以外でも負けたとでも言わんばかりだ。


 当然、そんなことはこれっぽっちもないのだが。


「だから何度も言いましたでしょう。最後まで油断しないようにと」


 声は、剣士の背後から聞こえた。


 慌てて振り返るがとき既に遅し。

 剣士の目の前には大きな水球が迫り、そして――


ぽよんっ


 剣士に当たった水球は柔らかなクッションのような音をたて、そのまま地面に落ちていった。


「これで私の三十五連勝ですね」


 ちょっとバトルものっぽい状況だけどそんなことあるはずもなく、今日も今日とてただの模擬戦、放課後訓練でございます。

 一発クリーンヒットを当てればそこで終了というルールなので私の勝ち。

 こないだから始まった殿下との訓練はなんだかんだで一週間も続いてるんだよね。主に殿下の希望で。

 ちなみに私の全勝。いっえーい♪


 殿下弱いわけじゃないんだけどね、圧倒的に経験が足りないんだよ。搦め手にものすごく弱い。

 だから魔法で作った分身の入れ替わりにも簡単にひっかかってくれる。

 で、そんな手にやられるとものすっごい悔しそうな顔してるくるんだよねー。そんな手アリかよ! みたいな。


 今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? ぷぷー!


 いやー私だってこんな手は使いたくないんだよ? 本当は正々堂々と叩きつぶしてあげたいよ?

 でもその辺が自分の弱点だと理解した殿下からお願いされたんじゃーやらないわけにはいかない。

 ホントだよ? 楽しんでなんかないよ?


 だってこれやり始めてから、ギャラリーからマジ☆コロ(ぜってー殺す)な視線飛んできたしね!


 もう実習場の結界から出た直後に魔法飛んでくるんじゃないかってくらいに睨まれた。

 あんまり怖かったから本気で気合い入れて視線を向けたら相手が逃げてったけどね。ああ怖かった……。

 まぁ周りから見たらおちょくってるようにしか見えないからね。勇者を弄ぶ悪の魔法使い一直線。


 でも戦場ってこんなもんでしょ!


 なんでわざわざ真っ正面から受けないといけないの? なんで正々堂々相手の得意分野でやんないといけないの?

 相手の力を真っ正面から受けるより流してしまう方が、無駄な力使わなくていいし次の手だってすぐに打てるわけだし。

 相手の得意分野は徹底的に使わせず、ひたすら自分の得意分野になるようにコントロールするなんて当たり前っしょ。


 魔物はそんなこと考えない? だから経験が足りないって言ってんの。

 そこらの野犬でさえ群れて囲んで一斉突撃くらいやってくんのに、お前ら一体多数は卑怯だとか本気で言うつもりか?

 お前ら舐めてるゴブリンどもだって、百匹も居れば村程度は簡単に滅ぼすからな?

 ああいうやつらのほうが本能的に自分の得意分野を理解してる分、よっぽどタチが悪いんだぞ。

 慣れればやりやすいんだけどね。それしかしてこないから。


 だから殿下がこういう戦い方を勉強するのは決して悪いことではない。

 むしろ覚えてもらわないと困る。主に兵が。

 本当は卒業してからしばらく実戦に出てそこで覚えるものなんだろうけどね、早めに覚えたってなんの問題もない。

 というわけで私が教えてるって訳です。


 いちいち悔しそうな殿下を見るのが楽しいしね!


 あ、つい本音が。

 こほん。


「殿下、今日はこれくらいにしませんか?」


 一日五戦で終わることにしてるけど、さっきがその五戦目だった。


「……ああ、そうだな」


 少し不満そうだけど同意する殿下。

 と言うか同意せざるをえない。


「サフィ、今日もありがとうございました」


 観客席で結界を強化していたサフィに声をかけた。

 ちなみに観客席はサフィだけ、モブは居ない。あんまり殿下をボコスコにしたもんだから、多分見るに堪えなくなって来なくなった。

 サフィが居るのは本気でやってたら結界ぶち抜きそうだったからさ、結界を強化してもらうために二日目から呼んだんだよ。

 殿下も全力出せなくてやりにくそうだったし。

 なのでサフィに強化してもらってたわけだけど、さすがに先生を長時間拘束するわけにはいかないわけで。

 サフィの場合は闇魔法しか担当してないし、生徒だって私一人だからお願いできるんだけどね。

 そんなでも暇じゃないらしい。やっぱ新人教師にはいろいろ押しつけられるらしいよ。

 教師が公的ブラック企業なのは異世界でも変わらないんだねぇ……ホントお疲れ様です。


「サフィから見てどうでした?」

「突っ込みすぎ、速さと突破力は別物。状況把握が足りない。補助魔法をもっと使うべき」

「……わかりました。ありがとうございます」


 サフィの容赦ない指摘も素直に受け入れる殿下。

 向上心があってよろしい。


「では、私たちは失礼します」


 いつも通り頷くだけのサフィと別れて、私の部屋へ。

 殿下ももちろん一緒。

 家に帰るまでが遠足です。いつオリビエ様とエンカウントするかわからないし。

 じゃあ寮まででいいじゃんって思うけど、ここからもここしばらくの日課になっててだな……。


「「ようこそお越しくださいました、殿下。お帰りなさいませ、エレアノーラ様」」

「世話になる」

「出迎えご苦労様。リーエ、今日は?」

「本日は緑茶とおかきをご用意しました」

「おかきは醤油味、塩味など各種揃っております。お好みでどうぞ」


 おやつタイムも殿下と一緒が日課になりつつあるんだよ……。

 あの鯛焼き気に入っちゃったらしくてね、そのあと煎餅も食べさせてみたらものすごい食いついた。

 でも毎回言い訳つけて使いの人を寄越してもらうのもかわいそうだったから、仕方なく殿下を部屋に入れることにしたわけです。

 どうも王宮に居たときはこの手のお菓子は食べたことなかったんだって。

 この手のお菓子が庶民向けだからとかじゃなくて、単純に王宮の料理人が苦手で作ってくれなかったらしい。

 料理人どももっと気合い入れろ。おかげで私のおやつタイムがこんなことになってんだぞ……。


 ぐだぐだ言ってても仕方がないし、私も食べよう。

 やっぱのり巻き。君が主役。これは譲れない。殿下にだってあげない。

 おかきの乗ってるお盆はちゃんと一人ずつ分けられてるけどね。

 ちなみに今はテーブルは一つです。あれから毎日昼食も二人だからこれくらいはできる。周りの目も無いしねー。

 なので安心しておかきを食べてます。

 お互い無言でパリパリポリポリ。

 うーん、洋風イケメンがおかきと緑茶でホッとするの図かー。

 混ぜたらダメな組み合わせのはずなのに違和感がない……これがただイケか……。


「レア様、よろしいでしょうか」


 しばらく楽しんだところでリーエから声がかかる。

 昨日まではリーエから声をかけられることはなかったので、殿下も居るところで声をかけるということは。


「何かわかったの?」

「はい。商家に注文していた商品がセイブラム家に届いたようです。ですがオリビエ様の元には届いておりません」


 え、マジで?

 ってことは大口の買い物とオリビエ様は無関係……?


「こちらでも調べがついた。どうやらセイブラム家のごたつきは、オリビエ嬢とはほぼ無関係らしい」


 なにその『ほぼ』って。


「オリビエ嬢の以前の婚約相手である、ローガス家と取引をしていたようだ。どうも死霊魔法の研究をしていたらしいのだが、ローガス家との繋がりが無くなり研究は頓挫。だが何らかの理由から研究中の魔法が突如発動し、アンデットが増え始めているらしい。そちらへの発注は、その後始末をする魔法士への接待用のようだ。他の領へもそういった品を発注している」


 うーわーそりゃ隠したいわなー。

 死霊魔法自体は普通の魔法なんだよ。別に禁忌でもなんでもない。

 でも死体とか怨霊とか扱うから見た目はやっぱアレなわけで、そんなアンデッドが領地で蔓延ってるとか隠したいに決まってる。

 しかも闇魔法と同じで人気が無い。なので専門家は数が少なく、呼ぼうとすると結構金がかかる。

 ここぞとばかりにふっかけるからね。普段仕事くれないから。


 ちなみに死霊魔法と闇魔法っていかにも関係ありそうだけど、この世界の魔法体系では関係ないことになってる。

 闇とか光とか炎魔法とかは、全て属性魔法に分類される。

 でも死霊魔法は召喚魔法に分類されるので別体系なのね。

 私も召喚系は得意じゃないんだよね……いや成績は一位だけどさ。

 自分で吹っ飛ばした方がすっきりするでしょ。うん。


 何で死霊魔法の研究してたのかは知らないけど、オリビエ様は婚約者経由で関係者だったのね。死霊魔法とは全く無関係とは言えないから『ほぼ』と。

 じゃあ発注とオリビエ様は無関係として……。


「ルーエのほうは?」

「オリビエ様の配下の者も、特に変わった食材、物品を購入した形跡はありませんでした。配下の者は特に料理をするといったことはなく、菓子類についても既製品の物しかお出ししていないようです」


 この学校は朝昼夕と食堂でご飯を食べられる。

 申請したら侍従に食事を作らせることもできるけど、実は結構少数派。さすがにお茶くらいは侍従がいれるけど。

 私は朝と夕はリーエとルーエの料理だけどね、その方が美味しいし。

 なので普段から食材買ってればその中に紛れ込ませると思ったんだけど、そういうことも無い。

 しかも買った物は実家に届いただけで、オリビエ様の元には来てない。

 となると、家の件とオリビエ様の件は無関係の可能性が高い。

 そしてオリビエ様は相変わらず怪しいところが無い。

 家からもダメ、周囲からもダメ。

 ってことはオリビエ様の魂胆を探るにはオリビエ様自身を探るしかないわけで……。

 こうなったら次の手は。


「殿下、提案があります」

「聞こう」

「明日、オリビエ様をお茶に招待しようと思います。つきましては、殿下にもご同席いただきたく」

「わかった。場所はこの部屋を使いたいが、構わないか」

「構いません。後ほど、護衛の方に部屋を確認させてください」

「ああ、すぐに寄越す」


 もうめんどくさいっ、直接対決じゃ!


 ていうか最初っからこうしてれば良かったんだよ!

 殿下は危険にさらせないけど私が居れば守れるんだから、同盟組んだ時点でさっさと真ボス倒しに行けばよかったんだ!

 なのに有りもしない真ボスのバリアを剥ごうと頑張って……弱点を突き止めようと調査して……。

 鬼畜ゲーに慣れたゲーマーがヌルゲーやって『え、これで終わり?』って疑心暗鬼に陥るようなもんじゃないか!


 ダー○ソ○ルのあとに戦国B○S○R○。

 バ○ルガレ○ガのあとにエリ○88。

 ウィ○ード○ィのあとにファイナルな13。

 と○メ○GSのあとに好き○ょ。

 マイ○ドシ○カーのあとに……これと比べていいものを思いつかない……。


 評価がおかしい?


 【注:個人の感想で感じ方には個人差があります。】


 よって異論は聞くけど認めない。

 とにかく今の状況は、レベルは十分で相手の正体もわかってて、でも相手の攻撃方法がわからないってだけ。

 そんなのただの中ボスじゃん。普通に突っ込むよ。

 というわけで明日殿下と突撃します。いや呼ぶので迎え撃ちます。


 私も殿下ももう限界なんですよ。

 朝から相変わらず注目の的。

 二人で歩けば前は邪魔されず左右にきれいに整列しやがる。

 どこでもレッドカーペット状態。マスコミのカメラの如く視線に晒される。


 昼食はセンターステージだね。武道館かっての。

 そしてやっぱり視線が酷い。慣れてきたのか多少はマシになったけど。


 放課後……は収まったか。

 でもバトッてるときが一番落ち着くって何? それどこの戦闘民族?


 でもってオリビエ様はいつ現れるかわからないから気が抜けないし。

 メリーさんでも予告してから現れるっつーのに。淑女なら見習え。

 そんな状況が一週間。


 もう我慢できんわ!!


 ていうか我が儘し放題の悪役令嬢なのに我慢するっておかしいだろ!

 私が我慢するのは世界の理に反する。よってこれが正しい。

 気付けばなんて簡単なことだったのか……。

 自分たちで複雑にしただけでしたすいませんでした。


「殿下、明日は頑張りましょう」

「そうだな。我らの平穏なる未来のために」


 首を洗って待ってろよオリビエ・セイブラム!

 誰を敵に回したのか思い知らせてやるわー!!


 別れ際にも視線だけで決意を伝え合う私たち。

 視線だけで意思を伝えられるのが、このとき初めて嬉しかった。



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