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奪う前に奪われてた。


 魔法実習場。

 今は炎魔法の授業で、座学で習った魔法の練習のために生徒が集まっている。

 建物全体が対魔仕様で壊される心配もなく、実習場は強固な結界で覆われていて外部には全く影響がないという、制御な未熟な生徒にとってうってつけの練習施設。

 外観はドーム球場みたいな感じ。あ、実習場は円形で観客席もあるから中身も近いわ。

 練習だけでなく新しい魔法を作成するにもうってつけ。暴走しても被害が最小限に収まるしねー。

 だからってわざわざ暴走するような魔法を作らなくてもいいと思うんだけど。


「さっきも言っただろう! ここの増幅を外せば威力が一気に落ちてしまうんだぞ!」

「しかし制御は非常に難しくなります。ここは先に整流してひとまとめにし、その後増幅を行うべきです」

「それでは増幅行程にかかる負荷が大きくなりすぎる!」

「ですが整流を行わなければ増幅は複数同時に行わなければなりません。それぞれをそのまま放出するにしろまとめるにしろ、全てを同期させなければその分無駄が発生し、威力は低下します。ただでさえ負荷がかかる魔法式をこれ以上複雑にするくらいなら、ただ負荷を上げた方が制御は簡単なはずです」

「それは君のような莫大な魔力を持っている人間だからできることだ! それではほとんどの人間が使用できないぞ!」

「そもそもこの魔法を使うような方はそれなりの力を持った方のみですから、あまり心配することもないでしょう。むしろそんな力のない人がこれを使うのは非常に危険ですから、足切りという意味でもこのほうがいいと思います」

「ぐぬぬぬぬ……」


 いやそんな小物っぽいうめき声出さなくてもいいでしょ……。

 大体貴方は発動できるでしょうが。一応先生なんだし。


「最後の増幅に失敗するだけなら威力の低下か不発に終わるだけですが、そこに至るまでに失敗すれば間違いなく暴走です。使ったら死んでしまう魔法式を広めるくらいなら、誰にも使われない方がいくらかマシというものです」

「……それには同意する。使用者が不幸になるような魔法は、私も本意ではない」


 ようやく落ち着いてくれたよ……。


「だが私個人としては、使用者を選別するような魔法を作りたくないのも事実だ……」


 ちょっと暴走気味だけど、こう見えて真面目でいい先生なんだよねー。

 魔力のある魔法士が威張り腐ってるのが嫌だからって、魔法式のほうを改善して誰でも魔法を使えるようにしようって頑張ってるし。

 おかげで魔力が少なくても使える高威力の魔法がいくつも作られたんだよね。

 強い魔法士の少ない田舎のほうでは、魔物被害が減って大助かりらしい。

 そしてその研究を元に魔力の多い魔法士(主に私)はもっと強くなっていく悪循環。先生、理想とイタチごっこじゃん……。

 いや私は威張ってないけどね? でも周りはそう見てくれなくてね……。


「やはり魔力返還式の改善を進めるべきか……エレアノーラ君」

「既に始めてます。フェルドマン先生の睨んだとおり、並列螺旋方式の効率がいいですね。ですが複雑さは何倍にもなります」

「素晴らしいっ、さすがエレアノーラ君だ!」

「先生、近いです」


 この先生興奮すると距離を詰めてくるんだどそれはヤメロー!

 本人にやましい気がないってのは重々わかってるんだけど、そんな血走った目で迫られると怖いんだよ!


「おっと失礼。とりあえずそれはそのまま進めて、一通りデータが揃ったらいったん見せてくれ。私のほうは維持行程を見直してみる。では……」

「その前に、先生」

「何だ?」

「授業の時間はもう終わりましましたので、終業をお願いします」


 私たちの周りには、これからどうすんのーという感じでこっちを伺う生徒たち。

 周りと言っても声が聞こえないほど距離取られてるけどね。

 方や最凶の悪役令嬢。方や暴走大好き魔法フェチ。

 命が大事な人なら絶対近づかないいね。


「あー、今日の授業はこれまで。次回は今日の実習の成果を確認するので、各自練習を怠らないように。以上だ」


 授業そっちのけで私と魔法談義してた癖に成果の確認って……。

 でもこの先生になってから炎魔法の成績が全体的に上がってるって言うから不思議だ。


「ではフェルドマン先生、私も失礼します」

「ひぃっ! すいませんでしたぁっ!」


 言葉が終わる頃には既に実習場から姿の見えない先生。

 魔法の話以外だと私に怯えるんだよね。私的には助かるからいいけど。


 さーって今日の授業も終わったし、さっさと部屋に帰るよー。

 寄り道せずに帰らないと危険が向こうからやってくるからね。これ、世界の常識。

 取り巻きを無視してさっさと実習場を出て、そのまま寮への最短コースを突き進む。

 本当は図書室行きたかったんだけどなー、魔法研究の資料探しに。

 なんだかんだで面白いし。

 でも残念だけどしばらくお預けにしよう、うん。


 向こうの廊下で、殿下がオリビエ様に捕まってるしね……。


 私だけ逃げ切ってもこうなるのか……攻撃側はターゲットが二人も居るから狙いやすいってわけね……。

 あー近づきたくない。

 殿下だけでも嫌なのにオリビエ様までセットとかフツーに怖い。

 取り巻きはどっちも居ないけどギャラリーは結構居るし。

 でも昨日殿下に助けてもらったばかりなので逃げるわけにもいかない。

 顔も会わせたくない殿下だけど、今は共闘する状況だし。

 昨日の殿下みたいな作戦で……ん? そっか共闘かぁ……。

 私も殿下も大変だけど、アリかもしれん。

 おっととりあえずは救出してから。考えるのはあとにしよう。

 私が近づいていくと、モーゼのごとくギャラリーが割れていく。お前らこっち見んな。


「ごきげんよう、殿下。オリビエ様」

「あらエレアノーラ様、ごきげんよう。そのお美しいお顔を拝見できて、今日も嬉しいですわ」


 いつもの笑顔のオリビエ様。

 言葉通りフツーに嬉しそうに見える笑顔なんだけど……いや、こういうキャラは腹黒だって一杯居るんだ! 私は騙されんぞ!


「オリビエ様は、本日もお茶のお誘いを?」

「ええそうです。私、この学園で殿下とお茶をご一緒したことがございませんでしたので……」


 私もないけどね。建前上は毎日のようにしてることになってるけど。

 さてそんな殿下のほうは……いつも通りの青い顔だね。

 最近気付いたけどさ、表情は変わらないけど微妙に顔色は変わるんだよ。256段階の1段階ずつくらい。


 ――大丈夫ですか?

 ――なんとかな……。

 ――昨日と同じ作戦でいいですか?

 ――頼む。


 密談終了。もうツーカーですよ。


「申し訳ありませんオリビエ様。昨日のお返しとして、今日は私が殿下をお誘いしていたのです。領のほうから、新しいお茶が送られてきましたので」

「まぁそうだったんですか? お二人の邪魔をしたくはありませんが、本当に残念です……」


 よよよ、と落ち込んだような表情が良心をえぐるっ。

 だがこの冷徹人形にそんな泣き脅しは通じんよ!


「こればかりはオリビエ様といえど譲るわけにはいきません。殿下と二人きりになれる、大切な時間ですので」

「エレアノーラ様がそこまでおっしゃるなんて……私としたことが、我が儘を申し上げました」


 よし勝った!


「殿下、エレアノーラ様。どうか愛に満ちた一時をお過ごしくださいませ……」


 緊張感は満ちてるね。


「殿下、参りましょう」

「ああ」


 すぐに寮に向かって歩き出したわけだけど……ちょ、ちょっと殿下ーっ、昨日より距離近くないっすかー?

 どういうことだと視線を向ければ……一瞬ニヤリとしやがったー!

 昨日やられたらやり返した私と同じで、今日は殿下がやり返してきたのかっ!

 さすがに“二人きり”と“大切な時間”はダメだったか……。

 私もやったことだし、辛いけど部屋まで我慢しよう……。

 でも自分がダメージ受けてもやり返すとか、実は負けず嫌いなのか?

 今日に限っては都合がいいからいいけど。

 では早速、視線をちらりと向けて。


 ――殿下、お時間よろしければ、今後についてお話をしたいのですが。

 ――私もそう言おうと思っていた。君の部屋で構わないか。

 ――私はいいのですが、大丈夫ですか?

 ――君のところは侍女は二人だけだろう。私のところには六人居る。

 ――お気づかいありがとうございます。では次回は殿下の部屋でということで。

 ――わかった。


 というわけで、本日初めて殿下とお茶をすることになりましたとさっ。


 まぁこれをお茶していると言うと、フツーにお茶してる人に失礼かもね。

 お互い後ろ向いてるし。

 部屋に戻ったら双子チートメイドがテーブルもお茶もきっちり二セット用意してたんだよね。えらいえらい。


 なのでゆっくりお茶を味わっております。

 本日は普通の緑茶と鯛焼き(こしあん)。鯛焼きはクリームとチーズは作ったけどカレーはやめた。やっぱ香辛料は高いんだよ。黒胡椒で船がもらえるほどじゃないけどさ、でも庶民向けお菓子の値段じゃなくなったんだよね。残念。

 餡子も高級品扱いだけど餡子入りはサイズを小さくすることでなんとかした。あと尻尾にも入ってない。餡子が選べない鯛焼きなんて鯛焼きじゃないし。


「さすがはサースヴェール家の茶と餡の菓子だな。茶は渋すぎず、餡も上品な甘さだ」

「ありがとうございます」


 殿下って甘いお菓子は苦手らしいから、こうして褒められるのは本当に好みに合ったんだろう。

 あとで二人は褒めておこう。飴を与えるのは大事。

 ちなみに二人は部屋の隅っこで控えてます。殿下が怖がるので。


「それで、話というのは?」


 おっとのんびりお茶飲んでる場合じゃなかった。

 さて本題に入りましょう。

 といっても殿下も同じこと考えてるだろうけどー。


「殿下に提案があります。当面のあいだ、私たちで同盟を結びましょう」

「私のほうこそ頼む。是非協力してほしい」


 やっぱねー。

 二人でいれば変なのは寄ってこない!

 寄ってきても二人で断れば誰にも太刀打ちできまい!

 さしものオリビエ様だって、私たち二人から揃って断られれば何も言えないはず。

 一人一人ならあの慈愛のオーラにあてられて説得されたかもしれないけど、二人だったら余裕で跳ね返せるっ。

 地球○邦とジ○ンが同盟組めば、誰も武力を持って攻めようとは思わないはずだ!


「ではしばらく行動を共にし、予定も共有したいと考えます。基本的に私が殿下に合わせるという形でいかがでしょう」

「わかった。あとで使いを寄越そう」

「ありがとうございます」


 同盟締結。

 だけど問題はこれからだ。


「エレアノーラ嬢は、どの程度までつかんでいる?」

「殿下は、セイブラム家が公爵領の商会と大口の取引をしたことはご存知でしょうか?」

「まだだ。そんなことをしているのに、先ほどは何も反応がなかったようだが」


 オリビエ様から殿下を救出するときにお茶のキーワードを入れてみたんだけど、何の反応もなかったんだよね。

 表情も声もそんな感じ全然無し。

 私だけならともかく殿下もそう言うんだから間違いない。二人だったら人力で嘘発見器やれるくらいの自信がある。


「オリビエ嬢の意思ではないのか?」

「ですがタイミングはアイナ様の事件のあとからです。偶然にしてはできすぎでしょう。リーエ、その後は?」

「取引された品のリストは確認しましたが、それ以上はまだ調査中です」


 リストがあるのに中身に触れないってことは、怪しそうなものはなかったということか。


「ルーエは?」

「まだオリビエ様へは品が届けられていないようでした。特に変わった食材の購入もありません」


 こっちも進展無し、と。

 昨日の今日じゃさすがにチートメイドでも無理だよね。


「殿下のほうでは、何かありますでしょうか?」

「セイブラム家に慌ただしい動きがある、ということだけだな。それ以上はまだわからん」


 え、家のほう?

 うちのほうではまだ掴んでないっぽいから、さすが王家の情報網。

 でもそれってどういうこと?

 オリビエ様には今のところ怪しい気配が全く無し。

 セイブラム家のほうに変な動きがあって、そんな状況で大きな買い物。


 これってもしかして、私たちの考えすぎか?

 実はオリビエ様何も考えてないとか。

 いやいやそれなら今まで特に接点もなかったのに、事件のあとからこれほど接触してくるのはおかしい。

 だから少なくとも何らかの考えはあるはず。

 でもそれと家とは全く関係ないという可能性はある。


 うーん……………………よし、わからん!


 わからんことは放っとこう!

 考えるだけ無駄無駄!

 オリビエ様から攻められてもいいのかって?

 いいんだよ。私が殿下の側に居れば殿下は守れるんだから、同盟はそれだけで意味がある。

 あとは知ったこっちゃない。

 リーエとルーエは自分のことは自分で守れるし取り巻きはどうでもいい。

 友人だって居ないわけじゃないけど、あいつら勝手になんとかする。

 ……ホントに居るからな? 友達料とか払ってないからな?

 とにかく放っとこう。調査が進むまでしばらくこのままってことで。


「情報が少なすぎるな。判断はまだ保留しよう」

「そうですね。考えすぎても考えに囚われるだけです」

「では、今日は失礼する」

「はい。それでは、また明日」


 席を立って礼をしようとしたところで動きが止まる。

 だって殿下まだ座ってんだもん。

 一体どうした? 背中しか見えないから表情がわからないんだよね。

 殿下の顔が見えるルーエからアイコンタクトが飛んでくるけど……何? 鯛焼きの乗ってた皿を見てる? まさか気に入ったのか?

 ……ルーエ、鯛焼き出せる? おっけー? じゃあ準備で。


「殿下、後ほど来る使いの方は、甘いものは大丈夫でしょうか? わざわざ足を運んでいただきながら何もせずお返しするのは、当家の沽券に関わります。先ほどの鯛焼きであれば、その頃には焼きたてをご準備できますので」

「そ、そうか。甘すぎない菓子はそれなりに好きなようだったな。ベタつかない菓子はそれなりに好きなようだ」


 殿下にあげるわけじゃないからねー使いの人にあげるだけだからねー。

 でも使いの人は殿下に報告するよね、ってことで殿下の元にたどり着けると。

 殿下は催促なんてしてない。私も贈り物なんてしてない。これでおっけー。

 あくまで使いの人にあげるもんだから、もしかしたら食われてしまう可能性だってあるけどね。たどり着くまで頑張って泳げよ、鯛焼き君。

 にしても甘いものは苦手だって情報だったんだけど、甘いもの自体が嫌いなんじゃなくて好みに合わなかっただけなのかな?

 砂糖砂糖したものじゃなくって餡子は気に入ったと。

 じゃあ煎餅とかとかそっち系は大丈夫かな。今度用意してみるか。


「ありがとうございます。ではそのように準備しておきます」

「気を使わせたな。では失礼する」


 その言葉だけ残して部屋から去って行く殿下。

 背中だけ見る分には格好いいんだけどねぇ…………はっ、何考えてんだ私はっ。

 アレは敵。私の起爆要因。よって敵。

 会うと相変わらずあの刺すような目で攻撃してくるからやっぱ敵。

 例えそこに敵意がなくてむしろ怖がってるってわかっても敵。……そういえば今日オリビエ様から奪い返したときとか、一瞬ホッとしたような目だったな。ああいう目なら怖くも……じゃなーいっ!


 怖くないから何! だったら何! 怖くなくてもかんけーない!

 大体何だっ、奪い返したとか!!

 ピンチから救い出すとかライバルから攫うとか、そういうのは男が女に対してするものだ! 古いと言われようとそうあるべきだ!


 あ、昨日されたばかりだ。




 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!




「レア様、ベッドの用意が整いました」


 ナイスだリーエ!


 そのあと、滅茶苦茶のたうち回った。


 結局、日が暮れてものたうち回っていたので、夕食の時間はいつもより遅くなってしまった。

 くそう殿下め、あんな爆弾を置いていくとは……つい誘爆しそうになったじゃないか……。

 ていうかリーエ、ルーエ、そんなほっこりした顔してるんじゃない。

 ご褒美無しにするぞ。……ああだからそんな神は死んだって顔するな。わかったから、一緒に寝るから。


 あぁ……今日も疲れた……。



11/30

鯛焼きについて若干修正。


ストックはなくなりました(早

魔法がどうとかその手の設定はその場の思いつきで書いてるので、細かいことは気にしないでください。

キャラは生かされても設定は多分生かされません。

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